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一方、リヨリ達はコカトリスの捕獲に手間取っていた。

フェルシェイルが囮となりつつ鶏の足止めをし、蛇の首をリヨリが落とす。


二足トカゲと食人ツタの時よりも戦いやすいはずだった。


微弱とはいえ魔力を帯びた羽毛は弱い炎を通さないため、フェルシェイル得意の火加減でダメージを調整できる。


鶏に身体を固定されている蛇は、自由に動ける二足トカゲより動きの予測がしやすい、はずだった。


「まずいね……結構時間経っちゃったよ……」

「まさか根本が固定されている蛇が、こんなに自由に動けるとはね……」


鶏と蛇は別個体、それぞれの脳がコントロールできる身体の領域は明確に分かれている。

どちらかの脳がコントロールする領域は、もう一方に動かすことができない。


鶏は蛇の尾以外の全てを動かす。つまり、蛇は鶏の尾羽の間から生える、蛇の胴体から先しか動かせない。


二つの脳で同時に身体をコントロールできる状態は、生存の危機の際に不利に働くためだ。


闘うか、逃げるかを瞬時に判断しなければいけない極限状況下で命令が干渉すると、致命的な隙を招くのだ。

そうした個体は遥か昔に淘汰され、動かせる領域が固定され、危険時の闘争/逃走反応を明確化でき、鋭敏に磨いた個体だけが生き延びたのだ。


鶏はもはや逃走を選択していない。

自分達を狙う二匹の人間を、さほど脅威には感じていないらしい。蛇が威嚇した。


山育ちで、幼い頃から猟師の家が遊び場だったリヨリにとって、蛇はよく慣れた生き物だった。


毒蛇は驚かせないよう近づき、間合いの外、あるいは死角から頭を踏めば簡単に捕まえられる。

木に巻きついている蛇は可動範囲が限られる。囮を使い捕食行動を誘発すれば、より簡単に捕らえられる。


だが、鶏という動く木に関しては想定外だった。


蛇が噛みついた後の隙を狙い、ナイフを首に入れれば終わる。噛み付いた直後は勢いがついて動きが単調になるのだ。

だが、そのたび鶏が身をかわし、すんでの所で蛇を逃していた。鶏にとっては蛇がいなければ捕食も防衛も難しい、多個体同体の魔物の中では珍しく、コカトリスの鶏は蛇の身を助けるように動く習性を持つ。


リヨリは、腕が痺れてきた。


「……しょうがない。フェルシェイル」


リヨリが諦めたようにフェルシェイルに話しかける。


「……ちょっと。本気?」


リヨリの言葉を聞き、フェルシェイルが驚く。


「もうそれしかないよ。料理する時間も確保しなきゃだしさ」

「アタシは良いけど、アンタが……」


リヨリが蛇から気を逸らさず、フェルシェイルをチラリと見た。

研ぎ澄まされた刃のような瞳の輝き。何を言っても無駄だと、フェルシェイルは悟った。


「お願い」

「はぁ~、しょうがないわね……」


意を決したフェルシェイルが両手を左右に大きく広げると、掌から炎の翼、細かな火の粉が舞い散った。

鶏が逃げるべきかどうか、動きを見極める。


「いくわよ!」


フェルシェイルの腕の交差に合わせて、炎の渦がコカトリスを取り巻いた。

三百六十度、逃げ場はどこにもない。


リヨリが大きく息を吸い、炎の中に飛び込む。


燃え盛る炎がリヨリの身体を炙る。不思議と苦痛は感じなかった。


炎の壁の奥に、ひるむ蛇が見える。白刃が宙を滑る。


「やった!」


炎の渦の内側から、リヨリの叫びが聞こえたと同時に、フェルシェイルが急いで炎を消す。

蛇の首を落とし、鶏の首にも刃を入れたリヨリが、大きく息を吐き出した。


「……はぁっ」


炎の壁でコカトリスを取り囲み、リヨリ自身もその炎の壁に飛び込む。

動きを封じて、蛇の身体を硬直させる捨て身の策だった。


「アンタ……大丈夫?」


リヨリが身体を確かめる。どうやら火傷は軽傷のようだ。


「いやー、なんとか成功だね。それより、早く調理に入らないと」


フェルシェイルは、呆れた顔になる。


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