コカトリス三種盛り
「――さあ!続々と選手達が戻ってきたぞ!」
時間の経過と共に、ちらほらと他の料理人達も食材を手に戻って来た。
食人ツタ、巨大なキノコなど植物系の魔物ばかりだ。捕獲の際の名誉の負傷か、中には顔に大きな青痣が出来ている者もいる。
再び歓声が上がった。
他の料理人に混ざって“死神”が現れたのだ。歓声の原因は彼だけではなく、彼が持つ食材にあった。
「“死神”さんもコカトリスですね。他の方は食人ツタや二足茸ですが」
「マイコニドってなんだっけ?……聞いたことはあるんだけど」
<二足歩行するキノコよぉ。結構食べたじゃない>
「あー、あの大きなキノコか。種族名は忘れてたよ……」
「ふふ。食べられるサイズに切られるとどうしても、元の特徴は分かりにくいですしね」
料理人達は次々と調理を始めて、二十台しかない調理台は次々埋まっていった。
羽毛の処理が必要なコカトリスを捕獲した“死神”を除き、マイコニドや食人ツタを持ってきた料理人達は調理にすぐ入れる。
「……よっし!できたぞぉ!」
だがそれよりも完成が早かったのはイサだった。
調理に入ったのが誰よりも早いこと、それは何よりもアドバンテージになる。
「早いぞ“鯨波”のイサ!並いる料理人を抑え、手間の掛かるコカトリスで、今完成の名乗りを上げた!」
料理を終えたイサは、吉仲達が並ぶ審査員席、そしてその近くの予選審査員達に一口サイズにされた料理を配る。
予選は膨大な量の試食が予想されるため、食通が美味を決めるのではなく、予選審査員が一定水準以上の技量を持つ料理人を先着で合格させていく仕組みである。
今日の吉仲達は、食べるだけだ。
「さあ食ってくれ。活け締めにしたコカトリスの鶏と蛇、それと炙った内臓の三種盛りだ。それぞれ別の味を付けている」
コカトリスの鶏肉のロースト、蛇の蒲焼き、そしてスライスされたレバーやハツが盛られた皿だ。
予選審査員と食通達が食べ始める。その様子が門の上のビジョンズに映った。
それぞれ一品は食べ応えがありつつ、しっかりと火が通っている。
食材を切ってからグリルすることで、短時間での調理でもしっかりと熱を通すことができる。
だが、一つ一つの肉片の焼け具合を同時に管理するのは難しい。
「むぅ!この短時間で、ここまで料理を突き詰めてくるとは……!」
ガテイユが目を見張った。吉仲は食材を見つめる。
「……なあ。細菌は大丈夫なのか?魔力抜きとかいるんじゃ?」
<カルレラのダンジョンは、一階と地上出入口に魔力を吸引する魔法陣があって、強制的に魔力抜きされるらしいわねぇ>
「はい。都市機構維持のための魔力吸引魔法でしたけど、副次的にダンジョン内の災厄を外に持ち出さない効果もあるんですよ」
ダンジョンに生息する細菌や微生物は魔力をエネルギー源にしていて、魔力の無い環境では身体を保てず死滅する。
つまり、カルレラ地下ダンジョンで獲れるあらゆる食材は、ダンジョンの外に持ち出す際に滅菌されるのだ。
ナーサとマルチェリテ、他誰もがダンジョン性細菌は気にしていない様子だ。
吉仲は、肉体に魔力を持たず、ダンジョン性細菌の影響を受けない自分だけが気にするのもなんだか間抜けな気がした。
「いただきますね」
マルチェリテが一口に切り出した内臓を頬張る。
「あら!」
彼女の好きな味付けだった。
吉仲も食べる。鶏肉は塩と胡椒であっさりと、蛇と内臓は甘辛いタレの味付けだ。
肉片に切り分けてグリルすることで、しっかりとした香ばしい風味が付いていた。