再び共闘へ
炎の壁に驚き、蛇は逃げ出した。
走り去る蛇をよく見ると、その身体の付け根からは鶏が生えている。
白亜の迷宮四階層、中程でのことだ。
蛇と鶏が合わさった魔物を見送ったリヨリは、ゆっくりと後ろを見る。
白地に赤のアクセントが美しいコックコート。帽子は外して豊かな赤髪を流れるままにしている、緋色の瞳の少女が立っていた。
「……フェルシェイル……」
「こないだダンジョンで油断しちゃダメって、ナーサに言われてたでしょ?」
フェルシェイルが呆れて溜息をついた。リヨリも短刀を鞘に収めて、溜息をついた。
「いやー……フェルシェイルのお陰で助かったよ……いつもの山刀じゃないし、ダンジョンの勝手も違っててさ。……料理大会だっていうのにダンジョンに潜ることになるし」
「まあね、それはアタシもビックリしたけど。でも、アンタにとってはラッキーじゃない。都の料理人で魔物を狩れる人間なんてそういないわよ」
「……うーん……それはそうかもだけど……」
リヨリは釈然としないため表情だ。
「ま、アンタに予選で消えられちゃ、アタシも雪辱が果たせないもの。一つ貸しにしておくわ。……一緒に行きましょ」
リヨリは辺りを見回して気がついた。
ぼんやりしていて迷宮をどう来たかも覚えていないが、ここにはリヨリとフェルシェイルしかいない。
「あれ、もしかして、探して来てくれたの?」
「……そうだけど……悪い?」
フェルシェイルは照れ臭そうにつぶやく。
「……アタシもダンジョンの魔物は本で読んで知ってるだけだし、捕獲して捌くことを考えたらアンタと組んだ方が確実って思っただけ!別に、嫌なら一人で行くわよ!?」
フェルシェイルは顔中を真っ赤に染め上げ、そこまで言ってふんぞり返った。
リヨリは見る見る満面の笑みになる。たしかにフェルシェイルの言う通りだ。捕獲はともかくダンジョンの魔物を捌くのは、得意分野だ。
「ううん!ありがとう!……よーし、じゃ共同戦線と行こうか!」
「もう油断するんじゃないわよ!」
魔物を追い、二人でダンジョンを進む。
地図と矢印で迷わないとは言え、迷宮そのもののダンジョンの中で、魔物を追うのは至難の技だ。
リヨリとフェルシェイルは、鶏が生えた蛇が進みそうな方向を探りつつ進む。
「五階層までは迷宮の広さと個体数の少なさで、なかなか魔物に出会わないって聞くわね。魔力の薄さとダンジョンの構造で、魔物が街まで出ないようにしてるんですって」
「じゃ、さっきの蛇もたまたま?」
フェルシェイルは頷いた。
「多分ね。もっともこっちで合ってるかも分かんないし、もしかしたら他の人に狩られているかも……」
もうすでに、二十分以上は歩いている。
魔物を追いつつ五階層に向かってはいるが、五階層は遠い。リヨリがそこまで考えずに歩いていたせいだ。
しかし、二人は立ち止まった。フェルシェイルがニヤリと笑う。
「どうやら、ラッキーかもしれないわね……」
先は行き止まりになっている。休憩所なのか、ベンチと水場、そして薬草が植えられた花壇がある。
行き場を無くした蛇と鶏が、リヨリとフェルシェイルの方を向いた。
「……二人で山分けしてもたっぷりあるしさ、最高にラッキーだよ」
蛇と鶏は、同時に威嚇の声を上げた。