白亜の迷宮
リヨリが一階層に入った姿を、ビジョンズで吉仲達が見る。
人が固まっている箇所の映像を、ザッピングして流しているようだ。イサを含めて早いグループは、もう戦闘に入っている。
<リヨちゃん、元気ないわねぇ……心細いのかしらぁ?>
「……まあ、一人じゃ不安だろうな」
「あら?リヨリさんはダンジョンに潜れるんでしょう?大丈夫では?」
<いつも私や吉ちゃんと一緒だったものぉ。一人は初めてじゃないかしらぁ?>
吉仲が頷くと同時に、ダンジョン地下一階層、トボトボ歩くリヨリと、彼女を抜き去っていく料理人達の画面から、入り口奥の混雑の画面に切り替わる。
混雑は、徐々に収まって来ていた。
王都カルレラ地下ダンジョンは、一階層と二階層に魔物が出ることは無い。
二階層までの魔力は、余剰の魔力と共に都の維持のために吸収され、常に枯渇状態にある。
二階層の途中までは完璧に管理された、完全なる観光地と化しているのだ。
一階層はダンジョンと都の魔力の関係、魔物の生態やそれを示す魔物の剥製、発見された遺物などが陳列された博物館だ。二階層には実際にダンジョンを使ったアトラクションがある。
普段はダンジョンクローラーを夢見る都の少年少女や、観光客やツアーガイドでごった返している。
ダンジョンは都の民のアミューズメントパークでもある。
そのため、今回の料理勝負ではいかに三階層以降に辿り着くかが勝負の要の一つになる。
魔物の出ない一階層、二階層はただのタイムロスとなる廊下だが、それでもかなり広いのだ。
都の人間なら、観光や遠足で必ず一度はダンジョンに入ったことがある。構造を理解しているからこそ、全速力で走っているのだ。
リヨリは、すっかり出遅れていた。
ダンジョンの広さは村のダンジョンくらいだと思っていたが予想以上に広く、さらに行けども行けども魔物が現れない。
四階層まで降りた時には、かなり後続になっていた。それでも明るい白亜の廊下が続く。
三階層からはダンジョンに相応しい迷宮のような構造だが、所々に地図と現在地が示され、緊急脱出用の階段や転移魔法陣を示した矢印も壁に記されているため、迷う危険性は薄い。
「ええ……魔物いなくない……?本当にいるの……?スライムすらいないじゃん……」
階層を降るたびに、武器の短刀を握りしめるがそのたびに肩透かしをくらっていた。
三階層も魔力は薄く、魔物はかなり少ない。
また、明るいダンジョンにジャイアントバットはおらず、カルレラダンジョンにいたスライムは狩り尽くされ、別の場所で養殖されている。
料理人達ははすでに散り散りになって、周りには誰もいない。
なんの気なしに角を曲がった時、巨大な蛇がリヨリの顔面に向けて食らいついて来た。
「……うわっ!」
咄嗟にかわし、短刀を振り上げる。しかし、普段使っている物より重いため、思った通りに動かせない。
リヨリは体勢を整え直す。蛇の奥に、白い羽のような物が見えた。
なおも食らいついてくる蛇と、咄嗟のことでかわすので精一杯のリヨリの間に、炎の壁が突き立った。
「……アンタ、ちょっとボケっとしすぎじゃない?」