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ダンジョンクローラー

魔王や他国との戦乱が終わった平和な時代とは、同時に兵士や傭兵など、戦闘職の大量失業時代も意味する。


日々の食い扶持を失った者の多くは、世界を股に掛け一獲千金を狙うか、街で便利屋として肉体労働その他雑務を請け負うか、あるいはダンジョンクローラーとなるしかなかった。


ダンジョンクローラーとはその名の通りダンジョンに潜り、最深層に向けた攻略や、ダンジョンの素材や魔物食の供給を行う者だ。


外敵との存亡を賭けた戦いが終わり、今まで気にも留められなかった、世界に満ち溢れる不思議に光を当て始める時代。

そしてその発見が経済の発達に寄与し、人々の生活の質が向上していく希望に満ちた時代。

時代を象徴し、人類に光明をもたらした彼らは冒険者と呼ばれ、そしてやがて冒険者時代と呼ばれるようになった。


彼ら冒険者の精神的な末裔は、今もなおダンジョンクローラーとして、ダンジョンの管理と維持、そして攻略に努めている。


王都のダンジョンはかなりの深層まで調査され、一定階層まではビジョンズ――撮影する魔法式や魔法生物、転移魔法陣も置かれて監視されている。

浅い階層ならどこに何があるか、誰がどこにいるかも逐一把握され、一部は観光地にもなっているのだ。


危険な魔物はまだまだ地下深くに潜んでいるが、そこに到達できるのは一部の熟練ダンジョンクローラーのみだ。彼らは腕を磨きダンジョンに潜る、そんな日々を送っている。


だが、今日からしばらく、彼らの仕事は料理人の世話になりそうだ。


「はいはい、剣はあっちだよ。……うん?槍がほしい?なら、そっちの姉さんに声掛けて。防具はそこの爺さんだ。あんまガチガチに身を固めると動けなくなっから、気ぃつけてちょーだいねー」


皮の軽鎧を着た軽薄そうな青年が、剣を片手に人波をさばき、次から次へと押し寄せる料理人に武器や防具の供給場所を指示する。


「……ったく、料理人が食材調達するから護衛だ?ダンジョンクローラーの仕事はそんなんじゃねえだろ……大会だかなんだか知らねぇけど、浮かれやがって……」


「いやいや。昔はそういうのも立派な冒険者の仕事だったよ?ダンジョンには潜りたいけど力が無いって人達もたくさんいたんだ。まあ、一度にこんな大量には珍しいだろうけどね」


『ダンジョンの入り口こちら→』と書かれた看板を持つ、筋骨隆々の大男がつまらなさそうにボヤき、隣に立つ、背が低い眼鏡の女性が魔法式の描かれた紙を配る。


「はい、入り口はこっちね。身の危険が迫ったら、安全な場所まで逃げてこの紙を破ってね。転移魔法は近くにスイッチがあるよ。七階から先は、まず死ぬから入らないように。気をつけてね」


王都のダンジョンクローラー達は大会期間中、王宮直々の依頼により料理人の護衛を仰せつかっている。料理人達の身に何かが起きた際はダンジョンから救い出す仕事だ。


狭い空間の人混みの中、イサは一人でズンズンと先へ行き、リヨリは完全に出遅れた。


混乱しつつもリヨリはナイフを配る露出の高い女性から、いつも使う山刀と同じ長さの短刀を借りる。しかし金属の重みがずっしりと腕に伸しかかり、すこぶる振りにくい。


「……そういえば、あのナイフもダンジョンアイテムだったなぁ……」


料理大会と聞き気合を入れてたのに、完全に出鼻を挫かれた形だ。まさかダンジョンに潜ることになるとは。


一人でダンジョンというのもどうにも心細い。

どうしても村の薄暗いダンジョンを想像してしまう。ジャイアントバットや二足トカゲがいても、吉仲やナーサ抜きで、太刀打ちできるかどうか。


他の料理人達が意気込んで、あるいは勇気を振り絞り気合を込めてダンジョン入り口に突っ込んでいく中、リヨリだけは意気消沈してトボトボと入る。


「あれ……?」


ただ、ダンジョンに一歩足を踏み入れた光景には驚いた。宮殿の中と見まごうほどの、広々とした白亜の廊下だ。


白壁だけでなく、天井や床も乳白色のタイルで敷き詰められ、明かりは煌々と輝き真昼のようだ。床のタイルにはチリ一つ落ちていない。


額縁に納められた様々な絵や文章と共に、魔物の剥製も飾られている。

順路を示す看板と分岐路もいくつかあるが、脇道は赤い鎖で封鎖され、まっすぐにしか進めない。


「綺麗だな……。ポータルかな……」


次から次へと走って行く料理人達に抜かれて行く。リヨリだけが立ち止まり、ダンジョンを眺めていた。

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