予選のはじまり
国王、トライスフェルスが厳かに開会宣言を行う。その声はアリーナによく響いた。
国王は審査員席より上に設えられた貴賓席で、貴族達と観戦する。
「……長らく開かれていなかった王都カルレラ料理コンテストを、余の代で復活できたことを光栄に思う。料理人の諸君には日頃磨いた腕と舌で、王都で最高の料理人の誉れを目指してもらいたい。……以上だ」
国王が言葉を切ると、観客からまたも歓声が上がる。老人達は昔を思い出し、若者はこの祭りに熱狂しているようだ。
料理人達は、例外無く闘争心に燃えていた。
「……料理大会はまずこれから全員同時に予選を行い、その中から十六人の料理人を選びます。そこから準備期間として三日ずつ開けて一回戦、二回戦、三回戦と数を絞り、最後に一週間開けた後、決勝を行います!」
司会がルールを読み上げた。
「……どういうこと?」
しかし、吉仲は一回で理解しきれなかった。
<そうねぇ。大会としては五日間だけどぉ、準備期間が入って全体としては二十日、今日は予選だけってことかしらぁ?>
「今日中に全部じゃないのか……」
「そうですね。何かあるんでしょうか?」
マルチェリテもルールは知らされていないらしい。
「それでは早速、予選を始めたいと思います!……予選の食材は――魔物であれば自由!」
司会が高らかに宣言する。しかし料理人達はざわついた。
自由と言えど食材が無いのだ。なんなら調理台も無い。いかな腕利きも、無い食材は調理できない。
観客もその様子を見て、何か不思議なことが起こったことを察知する。
全員の困惑を満足そうに眺めまわし、司会がニッコリと頷いた。
「……はい。ただし、一つ条件があります。食材はダンジョンなり、市場なりで各自調達していただきます!食材調達込みで二時間の予選を行い、技術と味を判定します。合格に足る食材の目利き、調理の技術を持つ方を早い順で十六名選び、その時点で予選終了となります!」
その一言で観客は沸き立ち、料理人達は困惑を深めた。
「調理台や、魔物以外の食材や調味料は、開始した後急ぎしつらえるのでご安心を。ただ一度に料理できるのは二十名程度ですので、食材調達に時間を取られると作業スペースが無くなりますよ?」
食材調達込みで二時間。早い者抜けで先着十六名。食材調達が遅いと、料理に入れるタイミングも遅れる。
料理勝負と呼ぶには、食材調達の、ダンジョン攻略のウェイトが大きすぎる。
「なるほど。料理人が自分で食材調達からしてくのか。一回戦からの準備期間ってのもそれかな?」
吉仲は納得したが、マルチェリテは呆れた様子だ。
「ダンジョンって……随分無茶なルールですねぇ。怪我人が出なければ良いんですが……」
「え?でもリヨリやフェルシェイルは……」
<吉ちゃん、リヨちゃんやフェルちゃんが当たり前って考えちゃダメよぉ。あの子達はかなり特殊なのぉ>
司会がニヤリと笑う。
「料理人たるもの、自らの目、脚で良い食材を見極め、手に入れることも重要なで技術です!自分の店から持ってくるのだけは禁止ですが、市場であればなんでも構いませんよ……ですが、分かりますね?」
料理人達は、覚悟した。ダンジョンに潜らなければいけない。