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審査員紹介

「――ご来場の皆々様。大変お待たせいたしました、王都カルレラ料理大会のはじまりです!!」


花火が轟き、歓声が響く。会場は都の中心、王宮広場だ。


広場にはアリーナが特設され、都中の人々が集まっているかのようだ。皆、今か今かと待ちわびている。


「すごいな……」

「ええ!私も初めてで楽しみです!」


吉仲は、王宮側の広場の端、一段高く据え付けられた審査員席にマルチェリテと並んで座っていた。

また燕尾服かと思ったが、普段着のままで良いとのことだった。マルチェリテもいつもの若草色のドレスを着ている。


吉仲を中心に右隣にマルチェリテ、左隣は晩餐会の時に吉仲の隣に座った太った小男だ。機嫌の悪そうな表情で腕組みをしている。


五人の中心に座っていることすら、まるで主役みたいで少し恥ずかしい。


他に、選ばれた食通が二人いて、計五人が審査員席に並ぶ。晩餐会で最後まで残った七人の内、二人が辞退した残りだ。

彼らの勝因はひとえに黙っていたことだが、食通としての舌は悪くはない。


「審査員はこちらの皆様!いずれも都に名だたる食通等です!……まずは自らもラグジュアリーなレストラン・シイダリアのオーナーでもある都のファッションリーダー、貴族議会議員のキハナ=シイダ様!」


派手な衣装の、化粧の濃い婦人が立ち上がり両手を広げてアピールした。

首元が真っ赤で、足元が真っ黄色、それらがグラデーションになったマーメイドドレス。

身体のラインが浮き出て、胸元にスリットが入りセクシーだ。白いファーのストールの後ろ、背中からは孔雀の羽が伸びている。

黄金の紐で束ねられ、天に突き出た髪は金と銀のマーブルで、ラメが入ってキラキラとしていた。


吉仲は、こんな派手な人晩餐会にいたっけと思ったが、よくよく思い出してみればマルチェリテと歓談していた女性だ。

拍手が収まるのを見計らい、司会が次に進む。


「異国からのエキゾチックな食材輸入で財をなし、今や都で一二を争う大商人!ベレリ商会、ベレリ様!」

吉仲の隣に座った小男だ、商人だったらしい。

肥えた身体に黒いタキシードをまとい、黒い髪は左右に撫で付けている。紳士の風情だが、目つきが悪くどこか余裕がない。

小男は立ち上がり軽く手を上げ、すぐに着席した。あまり楽しい物じゃなかったらしく、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

一人目よりも拍手はまばらだった。


「続いて、世界中に三百人を越える弟子を持つ凄腕、都で最古の老舗料亭ヨウゲンの元料理長、ガテイユ様!」


次は自分かと思ったが、反対側の端に飛んだ。

白髪を角刈りにし、白い板前服を着た頑固そうな老人が立ち上がり、深々と礼をしてすぐ座る。

彼はマンドラゴラという意見に唯一同意した男だ。もっとも、全てが終わった後だったが。

拍手はさらにまばらだった。料理人にとっては有名で偉大な男だが、都の民にはそこまで響かなかったらしい。


老舗料亭ヨウゲンは、マルチェリテとナーサ三人で都巡りをした時に行ったのを思い出す。

格式の高い個室の店で、畳のような敷物があった部屋が印象的だった。

食事も和食に極めて近くとても美味で、日本に戻ったような気分になれた。だが、高級店の雰囲気はやはり尻の座りが悪かった。


「そして、お茶とハーブのことなら彼女に聞け!人形喫茶ノノイ店主、エルフのマルチェリテ様!」


司会が高らかにマルチェリテの名前を呼び、マルチェリテがペコリと礼をしてはにかんだ。観客は今までで最高の盛り上がりだ。


人形喫茶という珍しい業態で、エルフの薬草術を惜しみなく人々に教え、病んだ者や傷ついた者を分け隔てなく癒し、何よりその愛らしさのため、マルチェリテは都では老若男女を問わず人気者なのだ。


〈ふふっ、あの最後の男は誰だって、吉ちゃん話題になってるわよぉ?〉


イヤーカフスからナーサの声がした。感度は良好のようだ。


「……勘弁してくれよ……」

「ええ、ちょっと恥ずかしいですね」


着席したマルチェリテもクスクスと笑う。よく見ると、マルチェリテの耳にも同じ物が付いていた。ナーサはよほど一人が寂しかったらしい。


吉仲は微妙な表情だ。

一度すかされたこともあり、自分が最後と意識した瞬間、急に緊張感が増してくる。


しかも司会は、今まで以上に熱を込めてマイクを握った。


「そして最後っ!彼は誰だっ!?……都に突如現れた新星!宮廷の晩餐会で誰一人として当てられなかった食材を、唯一当てた男!……料理人でも、大商人でも、ましてや貴族ですら無い、たった一人の食通!」


観客がどよめく。

あの若者はそんなにスゴいヤツなのか?とてもそうは見えないが。そんな人々の呟きが聞こえて来るようだった。


吉仲は必死に笑顔を取り繕うとするが、変に歪んだ顔になっている自覚があった。

魔傀儡師(マリオネッター)のマルチェもどれでも無いんじゃないかとも思う。それとも料理人で認識されているのかと、どうでも良いことが気になった。


司会は、吉仲の思考など意に介さず言葉を続ける。


「市井の者は誰も知らない……だが今や、食通の中で彼の名を知らぬ者はいない!彼は伝説の美食王の再来か!?……ヨシナカ様!」


司会の絶叫と共に吉仲が立ち上がると、観客は大いに沸いた。歓声の波が吉仲の全身を打つ。

見ず知らずの若者が、数多の食通達よりも味覚が鋭敏だと言う。そんなこと、普通ではない。


<面白そうなヤツだ、ですってぇ。よかったわねぇ、吉ちゃん>

歓声の中、ナーサの声が聞こえる。吉仲は、笑みが引きつるのを感じた。


「こちら五名には試食後、料理人のどちらかに票を入れていただきます。その得票が多い方が勝利となります!」


観客は、再び大いに沸いた。

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