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大会前日

それから五日が、瞬く間に過ぎ去った。


明日は大会当日だ。吉仲の部屋にナーサが入る。


「お邪魔するわねぇ。明日、吉ちゃんは審査員席に座るんでしょう?」

「まさかと思ったけど本当にそうみたいだな……」


吉仲はぼんやりお茶を飲んでいたが、ナーサの分もお茶をいれる。

三日前に大会の実行委員会から正式な審査員の申し出があり、吉仲は承諾せざるを得なかったのだ。


「マルチェちゃんから聞いたわよぉ。……丁々発止の大立ち回りぃ!迫り来る貴族をちぎっては投げ、ちぎっては投げぇ!ついに全ての食通を黙らせ、審査員の座を勝ち取ったってぇ」

「……いや、どんな晩餐会だよ」


勇しく腕を振り、最後はかっこいいポーズを決めるナーサに苦笑する。

マルチェリテとナーサは二人でどんな話をしているんだろうと気になった。


「まぁ、それは冗談としてぇ、吉ちゃんとマルチェちゃんが審査員側で、リヨちゃんもフェルちゃんも参加者側だと、私一人で一般席になっちゃうのよねぇ」

「あーたしかに。いっそ俺もそっちが良かったよ……」


試食無しでも良いから、責任の無い立場でナーサと共にリヨリの応援をする方がずっと気楽だろう。


「まあまあ、それだけ頼りにされてるってことじゃないかしらぁ?美食王様ぁ?」


ナーサはいたずらっぽく微笑み、銀の金属片を取り出し吉仲に手渡す。


三センチ程度の切り欠きが入った円筒形で、流麗な彫り込みで円筒部分に魔法陣が刻まれている。

魔法道具には違いないだろう。だが、吉仲には何をどうする物かも検討がつかない。


「……何これ?」

「知らない?イヤーカフス。こうやって付けるのよぉ」


吉仲の様子を見たナーサが、吉仲の手から金属片を取り、吉仲の耳をいじり出した。


「……え?わ!」


ナーサがグイッと近づき、柔らかな手の感触を耳で感じる。吉仲の鼻をナーサの香がくすぐった。

ドギマギしている内に吉仲の耳にイヤーカフスがはめられる。耳たぶに挟む装身具だ。


「え?これは?……ナーサ?」


ナーサが部屋の外に出る。戸惑う吉仲の耳に、ナーサの声聞こえた。


〈ふふ。吉ちゃん聞こえるぅ?〉

「え?ナーサ?」

〈うんうん、感度は良好。うまくできたみたいねぇ〉


扉の方からは何も聞こえない、イヤーカフスをはめた耳元から、ナーサの柔らかな声が聞こえた。


「携帯電話……つーか、トランシーバーみたいなもんか?」

〈それは知らないけどぉ。広場くらいの距離なら私の魔力でも十分届くでしょうねぇ」〉


最初の方はイヤーカフスからの音声のみだったが、途中でナーサが部屋に入ったことで二重に聞こえた。


「うん。よし、これで、準備はバッチリね!」

「……いやそれはどうだろう」


明日から、大会がはじまる。

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