暗転
他の食通も根負けしたように、フォレストドラゴンという意見に賛意を示す。すでに三分の二がフォレストドラゴンだと言っていた。
マルチェリテは考えているとも瞑想しているとも取れる、穏やかな表情で目を瞑っている。
一瞬の静寂。吉仲は意を決した。味には確証がある。
「……いや……これはマンドラゴラだよ」
この煮物は最初の勝負でイサが作った料理で、食材はリヨリが抜いたマンドラゴラだ。
一瞬の沈黙。そして、嘲笑の声があがった。
「……ホッホッホ!やはりあなたは場違いだったようですな!」
「まさか言うに事欠いて、たかがマンドラゴラだと?馬鹿馬鹿しい!」
「一時期は物珍しさから食べられていたがあんな物、市井に流通した今となっては食通は誰も食べてはいませんぞ!」
首席と取り巻きの三人組の嘲笑に引きずられるように、フォレストドラゴンに賛意を示した食通達からも笑いが起きる。
新たなやり方は、まだ都で知る者は数少ない。いまだかつての“安全な”マンドラゴラ収穫方法が主流であり、その味には食通達は飽きていたのだ。
「違う、これはマンドラゴラを正しく抜いた時の風味だ!掘るよりも美味い採取法があるんだ!」
吉仲は立ち上がった。
「黙らっしゃい!貴様のような者がいること自体が間違っているのです!」
「まったく、なぜ王はこんな場違いな者を呼んだのでしょう!我らを喜ばせる道化にするためでしょうかねぇ!?」
「そうだ!きっと王に無礼でも仕出かしたのでしょう!?それで不興を買い、恥をかかせるために呼ばれたに違いない!」
首席達も立ち上がる。自信を崩す様子も無く、吉仲の言葉を聞く耳も持たない。吉仲は王が用意した道化だと言う自分等の意見を信じこんだようだ。
ついには口々に吉仲を罵り始めた。
吉仲は、一瞬自信が挫けそうになる。
間違っていないのは間違いない、だが説得できる気がしない。それほどに彼らの考えは、自分達こそが正しいという思想は強固だった。
「……う。……ち、違う!これはマンドラゴラだ!」
他の食通は、全員が沈黙している。マルチェリテも、身動き一つしない。
吉仲は、すがるようにイサを見た。
「――そうですね、場違いだったようです」
イサが呆れたように首を振る、冷めた瞳。
まさか、そんな。間違えていたのか?吉仲は背筋をギュッと掴まれた気分になった。
首席は、洗練された立ち居振る舞いからかけ離れた、邪悪な笑みを浮かべ勝ち誇る。
吉仲の足が震える。自分の自信が打ち砕かれるような気持ちになる。リヨリが、かすかに微笑んだ。