フォレストドラゴンの龍根、あるいは
「……このコク、風味……間違いない、フォレストドラゴンでございましょう!……うむ!フォレストドラゴンから採れる龍根で間違いありません!」
吉仲が口に入れ、味わい始めると共に一人の食通が声を上げた。上座に座る、芝居掛かった首席の貴族だ。
「おお!まさしく!……凡百の食人植物は言うに及ばず、最高級の珍味と言われるドライアドのツタとも異なる深い風味、龍根でなければここまでの風味は出ますまい!」
「なるほど、たしかにフォレストドラゴンの龍根でしょう!フフフフフ、流石ですな!」
吉仲を罵倒していた残りの二人、主席の貴族の取り巻きが息巻いて話を次ぐ。
――フォレストドラゴン。
特殊な生態を持つ龍種の中でも、特に風変わりな習性を持つドラゴンだ。
その巨体全体が魔力に満ちた“森その物”である。
土地の魔力を得て育ち、その近辺に分布するありとあらゆる植物を全身に生やし、悠久の時を経てやがて大地と一体化することで子を成す。生物と土壌の中間に当たるライフサイクルを持つ。
幼年期は普通のドラゴンの子と変わらない。ただ、土を食べて育ち、身体中の土を保持する鱗が大きくなる。
成長するに従い土と共に、種子や分解者を取り込み続けることで土壌が育つのだ。
土壌からは草花が生え、やがて身体が大きくなりにつれ身体が保持できる土の量が増えると共に灌木の茂み、木立へと段階を追って森が成長していく。
そうして長い年月を掛け成体となる頃には、全身に森の植生、生態系を再現し、その魔力を帯びた草木と共生するのだ。
成体は通常、小山と同程度の大きさとなる。
龍種を食べるのは並大抵のことではない。戦って倒すことが既に、並大抵のことでは無いからだ。
だが、フォレストドラゴンの通称“龍根”――身体にまとった森から栄養と魔力を吸い上げるための根のような体組織は、金さえ積めば誰でも手に入れられる数少ない龍の食材だ。
小山サイズのフォレストドラゴンは下等な人の存在などほとんど気にも留めないこと、その身体の大きさと性質のため痛覚も鈍いことで、熟練のドラゴンハンターならずとも慎重さと機敏さがあれば龍の肉体を切っても生きて帰れる可能性が高いのだ。
イサは満足げに頷いた。
「他にご意見は?」
半分がフォレストドラゴンという意見に賛同し、残りは押し黙っている。
イサと吉仲の目が合った。イサの表情こそ変わらなかったが、試されている、吉仲はそう感じた。
フォレストドラゴンの龍根とやらを食べたことはなかったが、違うことだけは分かる。