味覚試し
イサは長テーブルの端に立ち、恭しく礼をした。
「……さて、このたびは王家主催の料理大会……修行の成果を披露する場を設けていただき、我ら都の料理人一同、恐悦至極の至りでございます」
イサの挨拶の間、リヨリが皿を食通達の前に置き、ドームカバーを外していく。
「本日はその審査員を決める場とのことで、少々余興を用意させていただました」
吉仲の前にも回ってくる。皿の上には、純白の根菜の煮物。
白い根菜は艶々と輝き、隣の小男から、おお、と感嘆の声が上がった。
「皆さまには恐縮ですが、こちらの料理をご賞味いただき、その素材をお当ていただければと思います」
「……フフ、なるほど……都でも名高い“鯨波”のイサ殿からの挑戦状といった所ですか」
「たしかに、満天下の下、誰が最も優れた料理人かを我々に決められるわけです。料理人達も心穏やかではおれませんでしょうな」
上座の食通達は余裕を取り繕うが、表情は引きつり、声はどこか上ずっている。
はっきりと挑戦状を叩きつけられ、怒りと緊張がないまぜとなっているのだろう。
「いえいえ、そんな大層な物ではございません。名だたる食通の皆様であれば間違えようも無い、あまりに単純な問題でございます」
吉仲はイサの顔を見る。真面目な顔を取り繕うとするが、ニヤニヤを隠しきれていない。
「……ただ、そうですね。この場に紛れ込む余地もございませんが、もし、もしもですよ。万が一にでも、王家主催の大会の審査員に舌が不確かな人間がおりますと、王家の威名に傷が着くかと……」
饒舌なイサは、どこか不気味だ。全員に配り終わったリヨリが、イサの後ろに立つ。
「そこで、僭越ながら王の御前にて、皆さまの実力の確かさをお目に掛ける場を設けさせていただきました」
食通達は沈黙した。王を引き合いに出されると何も返せない。
「では、冷めない内にどうぞお召し上がりください」
イサとリヨリが一礼し、食通達は根菜の煮物と相対した。一座に緊張が走る。
「ナイフがなんの抵抗も無く飲み込まれるほど柔らかい煮物なのに、煮崩れ一つしないとは。まさしく“鯨波”のイサよ」
「ふむ……素晴らしく柔らかい、口に入れるだけで優しく解けるようだ……美しさも相まり、初雪の儚さによく似ている」
「それにこの味……私、こんなに美味しい根菜を今まで食べたことがございませんわ。ほのかな苦味がここまで心地よい物だなんて……」
前菜と同様に、食通達が褒めそやす。だが、その声は先程と違い緊張の響きがあった。
吉仲も他の食通に合わせて、ナイフで切りフォークで食べる。箸が欲しいなと思った。
そこで初めて、周りの緊張している食通達とは違い、自分の緊張がほぐれていることに気がついた。
トライスやイサに驚いたからか、久しぶりにリヨリの顔を見たからかは分からない。
だが、料理を味わう準備はできていた。