国王
「――トライスフェルス国王陛下の御成!」
扉の横に立つ宰相が威儀を正し、高らかに宣言した。
食通達は弾かれるような動きで即座に立ち上がり、直立不動の姿勢となる。
「何をぼやぼやしている!お前も早く立て!」
吉仲は隣の太った小男に引っ張られ、立ち上がった。急に引っ張り上げられたせいで体勢が崩れ、中途半端な中腰の状態だ。
ほとんど同時に、きらびやかなサークレット、王笏に、種々の宝飾品で飾られた衣装を身にまとった王がゆったりとした所作で入室する。
よく整えられた獅子のような金の総髪、そして立派な顎髭。顔立ちは凛々しく、絢爛華麗な衣装と完璧にマッチしている。まさしく王の風格だ。
最上座に座った王は、厳かに場を一瞥した。青く輝く星々が、瞳の中で揺れる。
「……え?……と、トライスさん!?」
吉仲は驚きのあまりテーブルに手をついた。
「貴様!無礼だぞ!」
宰相の怒声に吉仲の身体がビクッと跳ねる。しかし、王はゆったりとした所作で宰相を制した。
「よいよい、彼は余の招待客だ。挨拶をしなかった非礼は余にある。――驚かせてすまなかったな、吉仲」
王は穏やかに微笑み吉仲に詫びた。食通達は思わず互いに顔を見合わせる。
王がこんな得体の知れない若者を招待し、あまつさえ詫びを入れるなど、ただ事ではない。
「畏れながら陛下……なぜこのような場に……?あの方は……?」
宰相に礼を言った貴族が、おそるおそる王に尋ねた。
せいぜい貴族の子息だろう、自分が知らぬ貴族なら傍流に違いないと今まで散々当てこすりをしていた相手が、王の招待客だった。
貴族は努めて平静を装ってはいるが、内心は穏やかではいられない。本当に王の客人だとしたら、その侮辱は、すなわち王への侮辱に当たる。
「なに戯れだ。余が懇意にしている料理人が、面白い物を目にかけようと言うのでな。お前達も席に着き、今までと同様に食事を楽しむと良い」
王が払いのけるように手を振る。吉仲に対しての説明はなかった。
しかし再び問うことなどできない。食通達は面食らいつつも慌てて着席し、吉仲も座り直す。
宰相が手を打ち鳴らすと、吉仲達が入ってきた扉が開いた。視線が一斉に扉に注がれる。
姿勢良く入ってくるイサ。料理勝負の時のように真剣な表情で、雰囲気もいつもと違う。
そして、すぐ後ろをカートを押して、緊張の面持ちでリヨリが入ってきた。二人とも普段と異なり純白のコックコートを着ている。
カートの上には人数分の、ドームカバーで覆われ中身が見れない皿が乗っている。
「今度はイサさんと……リヨリ?」
「座ってろ」
思わず立ち上がろうとする吉仲をイサは手で制し、座の一同を見回した。