都の日々
翌日から、吉仲はリヨリとまったく会わなくなった。
ナーサの話では修行のため宿には戻らず、グリル・アシェヤに寝泊まりすることになったらしい。気づけばナーサもシングル部屋に移っていた。
イサと会ったのも初日だけで、それ以降、吉仲は食い倒れの毎日だった。
マルチェリテとナーサの案内で朝昼晩と、美味しい物や珍しい物を食べて、市場に行って食材の話を聞く。
ただ、マルチェリテとナーサの教え方はうまく、吉仲が当初想像していた勉強というよりはベテランガイドと巡る観光旅行のようにも感じる。
しばらくすると、ずっと旅行で遊んでいるような気になっていた。
市場に並ぶ魔物食材は豊富で、通い詰めても飽きることは無い。
普通の穀物や野菜、肉や魚の方がまだ数は多いが、魔物食材もそれに負けないほどに積まれている。
たしかに値段は高いが、リヨリが話していたよりはずっと安く、他の食材との金額の差は少なかった。そして、グロテスクな魔物も食べてみると思った以上に美味い。
都のレストランも料理勝負で味わった美味に負けず劣らぬ料理ばかりで、その上魔物の味のバリエーションも広い。美味いだけじゃなく、思いも寄らぬ味がまた楽しかった。
魔物は、都の地下に広がるダンジョンから穫れるとマルチェリテに解説された。
危険じゃないのかと心配になるが、浅い階層はかなり整備されて、観光地にもなっているらしい。
吉仲はつい村のダンジョンについて口を滑らせたが、マルチェリテに驚きは無かった。二足トカゲやジャイアントバットがあったことで、ある程度予想は付いていたと語った。
また、歩き詰めたお陰で、都の地理にも詳しくなった。
馬車に乗って来た街道は南西方向に伸びて、都を経由し南東方向にも延びている。
カルレラは国の中央に位置し、東西の大きな街に繋がっているらしい。
北側は入江となっていて北端には海外との貿易港、内海は漁港町が囲むが、そこまでは行かなかった。
それでも都の中であれば、通りの名前を聞いて向かうくらいなら一人でも行けるようになった。
もっともマルチェリテが変な方向に移動し始めるのを抑えるため、詳しくならざるをえなかったという面もあるが。
ナーサがいなければ、何度となく迷ったことだろう。イサの意地悪な笑みが脳裏に浮かぶ。
都に来た日はそこまで気づかなかったが、エルフ以外にも人間ではない種族が多い。
一番多いのは人だが、その中に人間の姿のトカゲや狼、腰くらいの高さしかない小人、顔の真ん中に目が一つしかない人や羽の生えた人もいる。
最初は見るたび面食らっていたが、慣れというのは恐ろしい物だ。
三日もすれば特に気にならなくなり、一週間も経った時には、リザードフォークやウルフフォークとも談笑できるようになっていた。
都についてから二十日程が経った今日の夕食は、鳥形の獣人が経営する海鮮料理の店だった。