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サリコルとシエナ

リヨリは女性、サリコルから身を離し、改めて見る。


豊かな黒髪を緩やかにまとめた妙齢の婦人だ。ナーサよりよほど年上だが、イサより若く見える。

二人の中間くらいだろうか。だが、面倒見の良さそうな人懐っこい顔は、少女のように若々しい。


「ここはイサさんの店なの……?」

「いや、俺は助っ人さ。店主はこのサリコルだ」

「……助っ人?」


イサが親指でサリコルを指す。サリコルは満面の笑みでよろしくね!と言った。

サリコルの勧めでテーブルに腰掛けると同時に、リヨリはイサに詰め寄った。


「ねぇ、イサさん。どうしてここに呼んだの?大会まで、まだ一ヶ月もあるんでしょ?」

「まあそう焦るな。そうだな……まず、“まだ一ヶ月”あるじゃねぇ。“もう一ヶ月しかねぇ”だ。時間は無い」


イサがニヤリと笑う。


「……そんで呼んだ理由だが、お前の修行のためさ」


吉仲とナーサは思わずリヨリの顔を見る。イサはサリコルの方を見た。


「シエナー!」

サリコルは、奥に声を掛ける。しかし、声を掛ける目標はすぐそこまで来ていたのだろう。

壁の端から、おずおずと少女の顔が覗いた。


「そんなに隠れなくても大丈夫よ。さあ、こっちに」


さっきまで 満開の花のようなサリコルの顔が少しだけ曇り、母の慈愛を湛えた顔で少女に近づく。

優しく少女の背中を押して、店のテーブルに座るリヨリ達の前に連れてきた。


「この子は私の娘のシエナ。さあシエナ、お客様にあいさつしてね」


少女は、やはりおずおずと礼をする。サリコルに似ず、かなりの人見知りらしい。


年は十歳くらい。目鼻立ちはサリコルに似て、褐色の肌から一際目立つ、とても大きな瞳が印象的な美少女だ。だが、陰がある。

シエナがサリコルの隣にちょこんと座った。


「サリコルと、その旦那のジェイダー……シエナの親父だな。この二人は俺とヤツキがこの辺りで修行してた時のダチだったのさ」

「え?」


イサとヤツキは、リストランテ・フラジュでしばらく修行をした後、ランズの勧めもあり都へ料理修行に来たのだ。

そしてしばらく二人で都に滞在した。その中でイサは都で調理技術を極める道を選んだが、世界の広さを目の当たりにしたヤツキは、世界を放浪する修行の旅を選んだ。


この時から二人の道は別れ、それぞれの道を進むことになる。


次に会ったのはランズが倒れたとの知らせを聞き、リストランテ・フラジュの後継者を決める勝負をした時だ。その勝負の後、イサは旅に出ることになる。


リストランテ・フラジュを除けば短い二人の共通点が、ここ、グリル・アシェヤだったのだ。


「ジェイダーの親父、ジェラン師が、師匠の数少ない都の料理人の知り合いだった……」


イサが昔を思い出すように目を細める。


「ヤツキもよく分かってなかったし知らんかもしれんが、師匠は宮廷料理人を出奔した立場でな。市井の料理人との関わりはほとんど無かったんだ。師匠が最後に出た大会の決勝の相手がジェラン師だった。その伝手で俺たちはここで修行したのさ」

「……あ、その話……」


リヨリがちょうど一昨日の晩、聞いた話だった。イサは知ってるのかと驚いた顔をするが、カチから聞いたと聞き、納得したようだ。


「なら話が早え。俺とジェイダーとヤツキ、それとこの店でウェイトレスをしていたサリコルは歳も近いこともあって気があってな。下積みの頃はしょっちゅう馬鹿をしたもんさ……」


サリコルが微笑みながら、シエナを撫でる。シエナを眺める顔は、年相応の母親の顔に見えた。

思い出したようにリヨリに笑顔を向ける。


「リヨリちゃん、一回ここに来たことあったのよ?」

「え?」

「ふふ、私とあの人の結婚式の時にね、ヤツキと一緒にお祝いに来てくれたのよ」


リヨリが子供の頃に来た時はもう十年以上前だ。

都に来た記憶はあるが、結婚式のことはまったく覚えていなかった。


「……そうなんだ。イサさんも?」

「俺はそん時放浪中さ。都に戻ったのもシエナが産まれた後だ」

「そう、あの人が……」


サリコルがうつむく。リヨリは首を傾げた。


「……話を戻すぜ?先月、そのジェイダーが死んでな」


シエナは、沈んだ顔だった。

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