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都の停車場は、都の端にあるようだった。


川沿いの一軒一軒が小さく背の低い、それでいて密度の高い集落を越え、よく清掃された道幅の広い道路に入るとすぐに終点だと告げられた。


都はまっすぐ歩けば二時間程度で横断できるらしい。また、都内の各所を繋ぐ馬車があるため、通りの名前さえ頭に入れておけば移動には困らないとナーサが解説した。


都の外れで人が少ないと聞いたが、夕方で帰路に着くであろう人波が道中に溢れている。吉仲もリヨリも今までの宿場を遥かに越える人の数に圧倒されていた。


それでも、人波をかわしてしばらく歩いている内に、吉仲の腰の痛みも治まってくる。

スイスイと人を避けて先を行くナーサと、それに着いていくリヨリに並ぶ。


「せめてクッションか何かがあれば良かったかもなぁ……」

「そう言われれれば、そういうのを持ち込む人もいるわねぇ。馬車なんて久しぶりだから忘れてたわぁ」


吉仲は微妙な顔になる。

恥ずかしいとか思わず、リヨリみたいに車窓を満喫しつつも動き回っていれば良かったかもしれない。

四人目の同乗者、一台目の身なりの良い婦人、二台目の老紳士に遠慮して動けなかったのだ。

今思い返して見れば、その二人は何かを敷いていたような気もする。


「吉ちゃん、機嫌直してぇ。今日の晩ご飯は美味しい所に連れてってあげるからぁ。それに宿ももうすぐよぉ」


まずは宿に荷物を置き、それから今日の夕食を取ることにした。


ナーサが広い街路の一角にある宿を指差す。


宿や民家より、雑貨屋や飲食店が多い通りのようだ。

雑多な商品が並び人々が吟味する店先、あるいは大樽の上に軽食と酒を乗せ、外で飲んでいる若者の中で、一軒だけベッドのマークが彫られた看板が立てかけられているのみの質素な宿だ。


「都に来るとこの宿に止まるのよぉ。裏に草地があってね、杖で移動する時は便利なのぉ」


魔女行商は馬車を使わない。


基本的にどこに行くにも杖や箒で空を飛び移動するが、都では道路上での離着陸は禁じられている。

大通りでは馬が驚く危険があり、小道でも人とぶつかる可能性があるためだ。

ある程度広く屋上階への出入りができる建物か、広場や公園で離着陸するしかない。


その分、馬車通りから遠くても構わないし、品物を仕入れる問屋や商店の近くの方が便利だ。

都には、そういった魔女行商御用達の宿屋が点在している。


「道理で、結構遠くまで来たんだね」

「ああ、言われてみれば停車場の方が宿屋は多かったもんな」


ナーサが扉を開く。


「こんばんはぁ」


カウンターに座る無精髭の男が顔をあげる。魔法のランプを照明に、繕い物をしているようだ。

無精髭の男、この宿の店主は繕い物を脇に押しやり、帳簿を開いた。


「……ん?ああ鞄屋、いらっしゃい。最近顔を見せなかったじゃないか」

「ふふ、色々あってねぇ」


「鞄屋?」

吉仲とリヨリが首を傾げる。


「私の二つ名……みたいな物かしらねぇ。自分で言うのもちょっと照れるわぁ」

ナーサがはにかんだように笑う。


「今日は二部屋お願いねぇ、一つはダブルで、一つはシングルがいいわ」

「ああ、問題ないよ。すまんが、そっちの二人の名前も宿帳に書いてくれ」


店主は吉仲とリヨリをチラッと見て、鍵を出す。ナーサは宿帳に書きつけはじめた。


この辺りは商店街と卸問屋が多く警備が発達している、人通りがあり都の外れに近いが治安は良い。

特に魔女行商御用達の宿屋でトラブルを起こすのはリスクが高い、魔女が三人もいれば逃れることはほぼ不可能だ。泥棒や暴漢が出ることはほとんど無い。

貴族が泊まるような最高グレードのホテルに次いで安全な宿屋と言える。


当然、泊まる側もそれなりに身分証明が必要となるが、ナーサの紹介でフリーパスだ。

リヨリと吉仲はそんな事情を知る由も無いが、二人だけでは馬車や宿の手配が出来た気がしない。


「……うーん、ナーサさんがいてくれて良かった」


リヨリが、思わず呟いた。

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