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リヨリは、モヤモヤに光が差した気がした。

もう一度、自分の気持ちを口にする。


「行ってみたい……都の、料理大会、出てみたい」


トーマやフェルシェイル、マルチェリテが見せてくれた外の世界の料理を、直接見れる機会だ。

あまつさえ、自分が勝負できるのだ。店を賭けた勝負かは分からないが、見たこともない料理を作る勝負はしてみたい。


「……うん……行くよ。都」

「じゃ、決まりねぇ」


老人達がワッと湧いた。

今までリヨリの料理勝負を見てきたのだ。きっと良い結果を残すだろう。


「頑張ってくるんじゃぞリヨリ!」

「どうせなら都で一番の料理人になって帰って来るんだよ!」

「うむうむ、楽しみじゃのう!」


老人達からエールを受けて、リヨリの気持ちに迷いは無くなる。


「うん!どこまで行ける分からないけど、全力を尽くすよ!」


モヤモヤの原因は、負けるかもしれないという不安だった。

だが、三戦の料理勝負をこなし、少しは腕に自信も芽生えていた。


あとはそれを試すだけだ、そう思うと、スッキリとした気分になる。


「でも、都かぁ……。小さい時にお父さんに着いて行ったきりだから、どんな準備をしたもんかも分かんないや」

「ふふっ、長旅なら、まず一番重要なのは鞄ねぇ」


悩むリヨリにナーサが微笑む。


「鞄か、たしかに長旅だと何を持っていくかからだもんな」

吉仲も呼ばれているのだ。もっとも吉仲の荷物は着替えとおたまくらいの物だが。

元々身一つでこの世界に来たのだ、荷物は少なくて済む。


「そうそう、で、リヨちゃん。早速だけど鞄はいかが?」


ナーサは自分の鞄から、鞄を取り出す。

吉仲もリヨリも、ナーサの鞄に多くの物が入るのは慣れていたが、それでも鞄からより大きな鞄が出てくることは不思議に見えた。


かわいい刺繍の施された白くて小ぶりな布のポーチ、リヨリがすっぽり収まりそうな大きく無骨な黒皮のリュック、マルチェリテが持っていたような旅行鞄。

他にも様々な鞄がテーブルに並ぶ。


「これは小さいけど、脅威の圧縮率九十六パーセントよぉ。一着分のスペースだけどざっと二十五着は入るわぁ。こっちはちょっと大きめで不格好だけどぉ、容積率が自慢ねぇ。鍋や釜だって持っていけるわよぉ!……そうそう、こっちはねぇ」


普段より饒舌なナーサが、次から次へと鞄の紹介をしていく。

いつものナーサの商談スタイルとは大違いだ。


「どうかしらぁリヨちゃん?もちろんどれも、飛行の杖クラスの重量軽減魔法を仕込んでいるから、持ち運びも楽チンよぉ」

「の、ノリノリだねナーサさん……」


リヨリは悩んだ末に、マルチェリテが持っていた物と同じ形の旅行鞄を選んだ。

マルチェリテの深い茶色と違い、色は明るいオレンジだ。


外から見るとなんの変哲も無い鞄だが、収納する物品を圧縮する魔法が仕込まれていて、物を収めようとすると見た目の容積を越える物を収納できる。

マルチェリテの鞄も、十二体の人形と調理器具を収めるには小さかったが収めることができたのだ。


そして特筆すべきは、鞄を閉じると外界からの影響を一切受けない効果だ。

何かがぶつかっても、鞄ごと燃やしても、中の物が壊れることは無い。他の鞄には無い特性だ。


リヨリが持っていく調理器具は、使い慣れた大事な包丁があれば良い。それ以外はイサから借りるか、都でも調達できる。


何より、父のヤツキも包丁一本で旅をしていたという話を思い出したのが決め手だった。

何もかもが入る大きい鞄は不要だった。

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