料理大会
リヨリはもう一度イサの手紙と招待状を見比べる。
招待状はすこぶる読みにくかったが、どうやら読み間違えは無いらしい。
都カルレラの料理大会に、リストランテ・フラジュの代表として招待されている。
「まあ、リヨリのしたいようにすれば良いんじゃないか?」
「うーん……でも、行かないと対戦相手が来ないんじゃ、行った方が良さそうねぇ」
吉仲とナーサは行くことに異論は無さそうだ。
「……で、でも、その間店を閉じなきゃだし……」
リヨリがおずおずと老人達を見る。
「ワシらの心配なら無用じゃぞ」
「そうそう、しばらく店を閉じても、誰かのとこで茶を飲むわい」
「行っておいでよリヨリ!」
もちろん、この答えもなんとなく想像が付いていた。
「都の料理大会かい……そいつは是非とも見物に行ってみたいねぇ……」
食通の老婆、チーメダは夢見る少女のようにウットリと呟いた。
「そうさのう。村総出で、リヨリの応援に行くのも良いかもしれんな」
カチが矍鑠と笑う。
「カチさんのご飯のことならウチでも見れるし心配いらないよ。蔵の肉は使っても良いんだろう?」
「そうじゃな。残りは塩漬けと干し肉にしておくわい。どうせそのつもりじゃったろう」
老婆がにっこりと笑い、カチも続ける。
蔵の保存能力では精肉は持って一週間が良い所だ。
奇跡的に客が増えるようなことが無ければ、別の手段で保存する必要がある。既に、トカゲはこの一週間でほとんど干物になっていた。
「え?う、うん。放っておいても使えなくなるし……都に行くならだけど……」
誰一人、リヨリの反対をする者はいない。
彼らにとって孫娘のような物で、その晴れ舞台とあれば気持ちよく送り出すのが親心だ。
しかし、リヨリは不安で堪らなかった。
「え……?だって都だよ……?私が行ったの小さい頃に一回きりだし、お父さんと一緒だったし……」
「あらぁ?もちろん私も都に着いていくわよぉ。ねぇ吉ちゃん、お呼ばれしてるものねぇ。なんなら都への移動や宿の手配もしちゃう、格安でねぇ」
「……ナーサの名前は別に無かったような……というか、なんで俺は名指しで呼ばれたんだ?」
吉仲は変なことを気にしている。居候なら呼ばれもするだろう、問題はそんなことじゃないとリヨリが頭を抱える。
だが実際、都には一度行ってみたかった。
ナーサの案内なら、金は掛かってもトラブルは起きないだろう、当面は金の心配も薄い。だが、何かがモヤモヤしている。
「うう……そりゃ正直、気にはなるよ……ちょっと怖いけど……でもさ……」
「リヨリ?何がそんなに気になるんだ?」
苦し紛れに言い訳をひりだす。
「……そりゃ、あれだよ。……四階層とか……ツタとか……」
「でも鍵が無くて先に進めないんじゃねぇ……。ツタも別に、半年も放置するわけじゃないなら大丈夫だしぃ、ダンジョンは逃げないわぁ……それにぃ」
ナーサは妖艶に微笑む。
柔らかな口調と裏腹に、丁寧に逃げ道を潰されているような気もする。
そしてつい、日常から離れた都の料理大会をイメージしてしまう。
歓声、熱狂、見たこともない料理と、手強そうな料理人。
「……リヨちゃん、本当は行ってみたいんでしょう?」
リヨリは、観念したように頷いた。