招待状
都、そして街道沿いの宿場町には一般人でも利用できる専門職の郵便配達人がいるが、それ以外の大半の地域は魔女行商が郵便屋を兼ねている。
魔女行商とのツテが必要で、郵便配達人より値段も張るが、専用の郵便配達網より早く、確実に送ることができる。
散らかしたのは自分だったが、片付けにうんざりしていたリヨリは一気に手紙に引き寄せられた。
「珍しいな、誰だろ?」
「印に、魔女貨幣を当ててね。それで受け取り完了になるからぁ」
リヨリが言われるままに印に魔女貨幣を当てる。
消印のように手紙に描かれた魔法印と、魔女貨幣をつなぐ青い光が立ち、すぐに消えた。
印に仕込まれた魔法式を、受取人が魔女貨幣で認証することで消え、そこまでに掛かった手間賃が郵便代として送り主に請求される仕組みだ。
魔女貨幣を持たない人間なら手数料を取り、送受に関わる作業も魔女が代行する。
空を飛べない郵便配達人には苦労の多い仕事だが、魔女行商にとっては収入が保証される割の良い副業だ。
もっとも、そういう諸々の事情が重なり、魔女行商は郵便屋からは嫌われているが。
封を切り中を取り出す。
中には一通の便箋と、さらに小さい瀟洒な赤い封書。封書の紙はリヨリがこれまで触ったどの紙よりも上質で、絹のような手触りだった。
リヨリは、まず便箋を読み始める。角張った無骨な字で短文が認められている。
「えーと、あ、 イサさんからだ。何々……」
『来月、王都カルレラで腕利きの料理人を集めた料理大会が行われる。
都で一番の料理人を決める大会だ。
お前の修行になりそうだから、リストランテ・フラジュとして申し込んでおいた。
準備もあるから吉仲共々、至急都に来るように。都の西三番通り、グリル・アシェヤで待つ。
なお、その間は勝負相手は送らないから、そこで待っていたって無駄だぞ。――イサ』
「……え」
リヨリは一口つぶやくと、もう一枚の封書を開ける。
招待状だった。
差出人は王宮。流麗な筆記体で、イサの手紙とは比べものにならないほどに美しい。
そして、イサの手紙とほぼ同じ内容が、より慇懃で、荘重で、修辞の技巧を凝らした文章で認められている。
最初に読んでたら、リヨリには内容の半分も理解できなかったかもしれないが、イサの手紙のおかげで大意は掴めた。
「……ええ!?」
リヨリは思わず吉仲とナーサを見比べる。
事情が掴めないナーサは、リヨリの手から便箋を取り、読み上げる。
「あらあらぁ、リヨちゃん王都に行くのぉ?」
「へぇ、料理大会なんてあるのか。すごいな」
「いやいや!なんでそんな落ち着いてるの!?……え!?大会って!?都?行くの?私が!?」
焦るリヨリに、ナーサがクスクスと笑い出した。
「リヨちゃんこそ、落ち着いてぇ。ほらほら、深呼吸~」
ナーサがリヨリの背中をさすり、リヨリは徐々に落ち着きを取り戻す。
「……ど、どうしよう!?」
だが、やはり落ち着いてはいられなかったようだった。