四階層前
結論から言うと、どうやら三階層にいた二足トカゲはあの一匹らしい。
他の個体はもちろん、 食人ツタもいない。
三階層をくまなく見て回るが、一階層、二階層よりも部屋数が少ない。
三階層は回廊のような形状で、反対方向から進んでも必ず階段に辿り着いた。
ただ、四階層に至る階段方面からの分岐路はやや分かりにくく、その上遠回りになっている。
「変な造りだな。なんのためにこんな迂回路を作ったんだ?」
「そうねぇ……部屋があるわけでも無いし、不思議ねぇ。ダンジョンの作用というよりは、元の建物の構造みたいだしぃ……」
一周して、四階層へ至る階段へ戻ってきた吉仲とナーサがつぶやく。
最初は別の階段かとも思ったが、さっき飲んだばかりのツタの残骸が、そうではないことを教えていた。
「ねえねえ、四階層もちょっとだけ見てみない?」
じっと階段を見つめていたリヨリが、二人に提案した。
「リヨちゃん……言ったでしょう?危険なことはしないって」
ため息をつくナーサにリヨリが手を合わせる。
「お願いナーサさん!ちょっとだけ、入り口だけ見たら帰るから!」
「そう言って、襲われたらどうするんだよ?」
「階段の所から見るだけで良いからさ!ね?」
吉仲とナーサが顔を見合わせる。
ナーサはすでに仕方ないというような表情になっていた。
「ナーサ、リヨリに甘すぎじゃないか……?」
吉仲の言葉にナーサは微笑む。
この一帯を回る魔女行商として、リヨリが小さい頃から面倒を見てきたのだ。
本当に自分の妹のように感じていた。もっとも、もう一つ下に進む理由もあるが。
「まあねぇ、私も下の階層のこと気にはなっていたのよぉ。松明が魔除けに有効なことも分かったし、リヨちゃんが言い出さなかったら一人で見に行こうと思ってたわぁ」
リヨリの顔がパッと明るくなる。
「やった!ナーサさん大好き!」
ナーサの顔が真剣になった。
「でもリヨちゃん。四階層には降りないからねぇ。階段から様子を覗いて、そこで引き返すわよぉ」
リヨリが頷く。
ナーサを先頭に、リヨリと吉仲が続く。
これまでと異なり、階段は途中で折れ曲がっていた。踊り場を越えたナーサが、脚を止める。
「ナーサさん?」
「あらあら……リヨちゃんが進みたがる心配はしなくても良さそうねぇ」
疑問符が浮かぶリヨリを、ナーサが先に進むよう促す。
リヨリも脚を止めた。
「……うそ」
四階層に至る下り階段は、鉄柵で閉ざされていたのだ。
四階層は、暗くて見えない。