リハビリ
三層ゼリーを味わったトライスは、ゆっくりと吉仲に向き直る。
静かに青く光る瞳が迫ってくるようだった。
「リヨリも見事だったが吉仲よ。お前の舌の話も聞いていたが、噂に違わぬ見事な舌だな」
「……あらぁ?リヨちゃんと吉ちゃんが、事前に示し合わせたかもしれないわよぉ?」
ナーサが不敵に微笑んだ。
「ええ?ナーサさん何を突然……」
困惑するリヨリと吉仲を尻目に、トライスは笑い、首を振った。
「それはないな。こう見えても人を見る目はあるつもりだ。二人で共謀しているのなら、すぐに分かるさ」
トライスの言葉を受け、ナーサが頷く。
「ちょっとイタズラやめてよ、ナーサさん」
「ふふ、ごめんなさいねぇ。そういう可能性もあるって話よぉ」
「……それで、トライスさんは結局何者なの?」
リヨリが聞くが、トライスは微笑むきりだった。
「すまんが話すと長くなる。次に会った時のお楽しみにしようか、なあイサ」
イサが頷き、立ち上がった。 リュックを背負う。トライスも汚れたマントを羽織った。
「ええ?もう帰るの?」
「悪いな、予定が立て込んでいるんだ。ここらでお暇させてもらうぜ」
イサが扉を開く。トライスが振り返り、不敵な笑みを浮かべる。
扉から漏れ出る昼下がりの陽光を受け、トライスの瞳と金髪が、キラキラと輝いた。
「次に見える機会を楽しみにしているぞ」
そうして、さっさと二人は連れ立ち出て行った。
残された三人は思わず静まり返る。
「なんだったんだ……一体……」
「そうねぇ。不思議な人だったわねぇ」
「うん……あ、そうだ。早くしまわないと」
リヨリは後片付けをして、残ったゼリーの箱を蔵へしまいに行った。
「……ナーサ、なんか知ってるんじゃないか?
「あらぁ?どうしてぇ?」
ナーサは穏やかに微笑み、お茶を飲んだ。
「いや、うーん。なんか知らない人への反応じゃない感じがしたんだけど……」
確信は無い。ただ、あの試すような口調はどこかナーサらしくない感じがしたのだ。
ナーサは首を振った。
「初対面よぉ。ただ、そうねぇ。ああいう自信満々な人ってちょっとイタズラしたくなっちゃうのねぇ」
そう言われると、不自然でも無い気もする。吉仲は自分もお茶を飲む。ゼリーの余韻をお茶がすっきりと流してくれた。
しばらく経ち扉が開く。リヨリが戻ったのだ。
「ねえねえ二人とも。トカゲもヒポグリフもまだまだあるけどさ、やっぱりダンジョン見て回りたいんだけど、どうかな?」
「ふふ、リヨちゃん途中でリャクナクの実でも食べたぁ?」
「食べてないよ!怪我も治ったし、動いても全然平気だったからそう思っただけ!」
リヨリが腕を上げて、自身の完治をアピールする。
歩いている最中、腕を振り回し走り回っても平気だったのだ。身体は癒えた。
「そうねぇ。さすがに二足トカゲもいないだろうしぃ……じゃあ、リハビリを兼ねて三階層までねぇ」
「どうかな吉仲!?」
リヨリとナーサが吉仲を見る。リヨリの瞳はダンジョンに行ける期待で輝いていた。
「分かった分かった、ナーサが良いって言うんなら文句は無いよ」
吉仲は降参とでも言うように手を上げ、おたまを取りに立ち上がった。