群体の味
ナーサの声に、リヨリがにんまりと笑った。
「へへ、すごいでしょ。粒が小さいとリャクナクゼリーの味が強くてすっぱいのに、より集まるほどスライムの味でマイルドになって、甘みだけが残るんだ」
群体ならではの性質だ。単体が細かくなるほど表面積は増えて酸味は増すが、結合して表面積が減れば甘みが増える。
イサは驚愕の瞳でリヨリを見た。
ただ刻むだけで、ここまで味が変わるとは。今までの料理の常識が覆された気分だった。
「それともう一つ……」
リヨリがリャクナクゼリー、煮凝りを切り出し、その二つでスライムを挟み包丁の腹で軽く押し付ける。
流動し動くために、スライム同士は弱い結合をして群体を構成する。
千切れると二個体に分裂し、押し付けると再び一つの個体に戻るのはそのためだ。
スライムに知性は存在しないが、身体の仕組みとして共通の体液を判断し、接合するか捕食するかを決める性質がある。
同じ性質の体液を共有する物には、それがなんであれ接合するのだ。
スライム同士が捕食しあわないよう進化したメカニズムで、スライムは群体を構成し巨大化でき、ひいては乾燥スライムが作れる。
みじん切りにしたスライムを再び結合させたのも、その作用によるものだ。止めるためには、石灰塩水が必要となる。
リヨリが一番上の層を掴み持ち上げる。
重ねて押し付けられただけの三つのゼリーは、最初から一つだったかのように持ち上がった。
「ゼリーと同じ液体に置き換えると、スライムの層とゼリーの層はくっつくんだ。知ったのはたまたまだったけどね」
同じ体液。この場合はゼリーと煮凝り、両方に共通する動物から煮出したゼラチンだ。
リヨリは元々知っていたわけではない。
新しい味を試していた時、誤ってスライムとゼリーが混ざり、結合して剥げなくなったことで気づいたのだった。
「一番下の層はヒポグリフの煮凝りで、大量の軟骨を食べやすくしようと考えた物だね。リャクナクゼリーを作る時もヒポグリフの煮汁を使ったから、同じようにくっつくんじゃないかって」
リャクナクゼリーは砂糖控えめに作り甘さより酸っぱさを感じるようにして、繋ぎと食感は甘いスライム。その二つで肉の旨味を引き立てる三種一体のゼリー料理。
なんとなく頭の中にはあったが、人に提供するのは今回が初めてだ。
「それでぶっつけ本番って言ってたのか」
吉仲の言葉に、トライスは感心してしきりに頷き、イサは再び唸る。
「リャクナクゼリー、スライムに煮凝りか。どれもありふれた家庭料理だがスライムで繋ぐことでまったく新たな味を作る。……たしかに味わったことの無い料理、見事だリヨリよ」
「トーマやフェル、マルチェから聞いてたが、大分やるようになったじゃねぇか」
リヨリは、にっこりと微笑んだ。