赤いスライム
泥抜きが完了し、消化液が弱まったスライムが再び動き、獲物を捕食し始めることは無い。
泥抜きの過程でポーションから水に徐々に変えていくことで、ポーションへの順応が水への順応に置き換えり消化液が衰えるためだ。
何かを消化しなければ、一度衰えた消化液は再び強くはならない。しかし消化液は水に置き換わるため、消化することができなくなる。
同様にスライム間で流動する体液、栄養を共有する消化液も水に置き換わり、動くこともなくなる。
そうして食べられる、いわゆる食用スライムとなる。
「トーマの乾燥スライムで思いついたんだ。泥抜きして完全に水で置き換わった後の食用スライムを、もう一回別の液体で置き換えることはできないかってね」
リヨリがスライムの入った箱を開けて、中の薄赤いスライムを切り出す。
半透明なゼリーは型枠の形から微動だにしなかった。
最初から水だけの環境にスライムを置くと、スライムは水を取り込まないよう流動を減らし、外部との接触を断つ。
そして休眠状態となるため、泥抜きは出来ず食用にならない。水中から出た時に再び獲物を捕食し始めるのだ。
同様に、ポーションと水以外の液体で置き換える方法を試した者も多いが、押し並べて失敗している。
栄養を持つ液体では、浸透させても微かに消化液が生き残るのだ。
「泥抜きの後一旦干して乾燥状態に近づけてから、ゼリーの汁で漬け込んだスライムは、ゼリーの汁で戻るんじゃないかと思ったんだよね」
「それは無理だろう。置き換えた後は消化しなくなるんだから」
水以外では、スライムの奥まで浸透せず戻すことはできない。
「そうだね。そのままじゃ吸収しなかったけど、乾燥状態ですり下ろしたらうまく行ったよ」
リヨリが試した手法は、泥抜きし、水に置き換えてから乾燥させ、さらに細かく細かくすり下ろされたスライムを果汁に漬け込んだのだ。
大きなスライムの塊では吸収できず置き換わらないが、塊が小さな粒状になることで全体が液体に取り巻かれ、ふやけるように少しずつ吸収するようになる。
この方法であれば消化液を復活させることなく、水がゼリーの汁と置き換わる。スープヌードルを作った手法の応用だ。
「なるほどな、赤いスライムはそういうわけか。リャクナクゼリーの汁で色づいたんだな」
「乾燥スライムを別の液体で戻す……たしかに理には適っているが、味が違う原因にはならんだろう」
イサ以外は感心しているが、イサだけは納得が行ってない表情だ。
リヨリはスライムだけを切り出した物を全員に渡し食べさせた。
吉仲には甘いフルーツ味の餅に感じた。果実の甘さにもちもちした食感が不思議とあう。
リャクナクの甘酸っぱさは無く、上品な甘さだけを味わえる。
ナーサは頬に手を当て味わった。
「甘さ控えめだけど、これだけでも美味しいわねぇ。上等なドライフルーツみたい」
次に、リヨリはスライムを一センチ角に細かく刻み、スプーンに盛って渡した。
「ふふっ。食べてみてよ」
「……刻んだからなんだって言うんだ……」
小さな粒をスプーンですくい食べる。一同の顔が驚きに歪んだ。
「ん!すっぱい!」