三層ゼリー
トライスは、微笑みつつも首を振った。
「茶化すなイサよ。……ふむ。真ん中は、食べねば分からぬか」
「くっついてると思うけど、食べる時は、三つの層を一口で食べてね」
ナイフでゼリーを切り出し、フォークで刺して持ち上げる。
重ねただけのはずの三つの層は、ピタリとくっつき持ち上がった。
「重ねただけで、なんでくっつくんだ……?」
「それにリャクナクのゼリーって甘酸っぱいお菓子みたいな味だけど、しょっぱい煮凝りと合うのかしらぁ?」
吉仲とナーサの疑問も意に介さず、トライスが口に入れる。
ヒンヤリと冷たい、しかし、口の中で温かくなると共に旨味が溢れる。
瞳が、キラキラと輝いた。
「ほう!」
「さ、みんなも召し上がれ!」
リヨリがにこりと微笑み、全員が、一切れずつを頬張った。
吉仲もナーサも、イサでさえも目を見張った。
「これはうまいな!」
「ええ、美味しいわぁ!爽やかな酸味も、うっすら甘みもあるけどぉ、それ以上に肉の旨味を感じるわねぇ!」
「リャクナクの実の歯触りと軟骨の歯応え、上と下で違う味を真ん中の層がまとめている。……だが真ん中の食材は分からんな。どうだイサ?」
トライスに言われ、イサが口に運ぶ。少し緊張しているようだった。
「……この真ん中の層は……なんだ?スライムか?」
ゼリーと煮凝りは、歯でさっくりと噛み切れるが、真ん中はクニクニとした歯応えがある。
噛むほどに味が染み出すようだ。ただ、その味はスライムと似ても似つかない。
「……分からん。吉仲、お前はどうだ?」
イサに話を振られて、吉仲は舌に意識を集中させる。
トライスは輝く瞳で興味深げに吉仲を見詰める。
「うーん……ああ。やっぱりスライムだよ。……でもただのスライムじゃないな」
「というと?」
吉仲が、三切れ目を口に入れる。
気づけば、店中の視線が吉仲に集まっていた。注目されているみたいで、少し恥ずかしくなる。
「泥抜きしたスライムに……微かだけどリャクナクの風味を感じる。果汁を漬け込んだんじゃないか?」
「ほう?リャクナクの果汁で漬け込んだのに、リャクナクの味はしないスライムと?」
「馬鹿言え。それだけでこんなに味が変わるもんか?」
イサがもう一口食べる。
上等なドライフルーツの雰囲気に近いが、リャクナクの味ではない。
視線を向けられたリヨリが頷いた。
「吉仲の言う通りだよ。スライムの体液を、リャクナクのゼリーの汁で置き換えてみたんだ」