眼力
リヨリが食材の器を作業台に並べる。
一つ目の箱には、茶色いゼラチン質の物が入っていた。箱の形に合わせた四角い形状をしている。
中には一ミリ角で細かく刻まれた白い物体が浮いている。
イサはリヨリを煽るように笑みを浮かべた。
「期待していいんだな?」
「さあね、ぶっつけ本番だしさ。でもまあ、ガッカリはさせないと思うよ」
リヨリは言いながら、二つ目の箱を開ける。こちらは赤いゼラチンに、細かく刻まれた赤い実が入っている。
同様に三つ目の箱は薄赤色の半透明のゼラチンだ。これだけ、中には何も入っていない。
リヨリが施した調理はそれらを大きく切り出し、三層に重ねる。
そして手の熱が伝わらないよう、包丁の腹を使い十秒ほど押しつけ、一人前のサイズに切る――それで、完成だった。
「はい、おまちどおさま!」
「あらぁ?もう終わりぃ?」
「切って重ねるだけって……」
吉仲はそう言うが、料理としては成り立っている。
上から細かく刻まれた真っ赤な実が入った赤いゼラチン、半透明の薄赤いゼラチン、そして白い粒が浮かぶ茶色いゼラチンの三層が重なりあった実に美しい料理だ。
最終工程が単純すぎるだけで、何も知らなければ高級感のあるデザートと言っても過言ではないだろう。
「ふむ、これが誰も食べたことない料理か……」
「どうかな。食べたことはあるかもしれないけど……分からないとは思うな」
トライスは皿を持ち上げ、吟味する。
力が籠もったのか、瞳の奥の青い星々が瞬いた。
「まず一番上はちからの実……いや、正しくはリャクナクの実か」
「そうだね、リャクナクで作ったゼリーだよ」
トライスの呟きにリヨリが頷いた。
これはゼリーの中に入った実を見れば分かる、リャクナクの調理方法としてメジャーな食べ物だ。
皮ごとすり下ろしたリャクナクの実を獣の皮と共に茹で、砂糖を混ぜた上澄みを型枠に入れ冷やす。
獣の皮から出るゼラチンで固まり、甘酸っぱいゼリーとなるのだ。
刻んだリャクナクを入れると歯応えが変わりアクセントが付く。
晩秋から冬に掛けて、リャクナクが取れて寒い季節には多くの家庭で作られる。
蔵を使えるリヨリなら一年中作ることもできる。
「一番下の層は獣の煮凝り……いや、白いのは軟骨だな。獣ではない、鳥か?」
「え?……う、うん」
知っている者ならば、煮凝りも分かるだろう。
ゼリー同様、味付けした動物の煮汁を冷やした食べ物だ。
しかし、刻んだ軟骨を一目で見抜くのは意外だった。
「食べる前から二つも当てるなんて……」
「この人は生半可な食通じゃねぇぞ、舐めんじゃねぇぞ」
驚くリヨリにイサは笑いながら言う。