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魔法道具で得たものは。  作者: 透迷(とうめい)/東容 あがる
第六章 砂漠の大陸編 前編
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第七十六話 再会へ向けて

 いつの間にか笛の音も遠ざかり、もう既に暑さも、砂のにおいも感じない。

 唐突に暗闇に放り出されたような感覚だ。笛を握っていたはずの両手は空をきり、足元はふわふわと地に着かないようだった。


 成功したのかな……ん?


 ――暗闇の向こうに、かすかな光が見えた。

 ぼやける光に目を凝らすと、やがてその景色が近づいてきた。


『――届けものですよ、逃亡騎士』

『ありがとよ、クソジャッジ』


 そこにいたのは、黒い軽鎧を着こんだ大男と、灰色の短髪を携えた細身の男がいた。


 デューイ! それにヘンリーさんもいる! 二人とも無事だったのか。


『仕事はいいのか?』

『エーデルハイドの魔人は死亡した。そういうことになっています。

 大きな仕事はもう片付きましたよ』

『……スロウも、冒険者としては死亡扱いか?』

『残念ですが』


 どうやら冒険者ギルドのほうでは俺は死んだことになっているらしい。

 ふふん、ちゃんと生きてるぞ、俺は。

 A級冒険者なめんな。


 …………死亡扱いってことは、まさかまたC級からやり直しにならないだろうな。


 唐突にせっかくの資格がはく奪されたりしないかと不安になりながら、二人の様子を見守る。


『先ほどフラントール君から手紙が届きました。

 無事、セトゥムナ連合国に着いた、と』

『空飛ぶ舟を借りに行く、なんて言うとは思わなかったよな。

 スロウを助けるためにそこまでするなんて、あいつは幸せもんだな、まったく』


 そうか、セナはセトゥムナ連合国――自分の故郷に戻ったのか。

 間接的に無事であることを知り、安堵の息がこみ上げる。

 同時に彼女がいま自分を探してくれていることを知って、胸中に温かいものが芽生えた。


『こうして私を呼んだのは、世間話をしたいからではないでしょう。要件は?』

『……俺も、あいつを探してみようと思ってる。

 手伝ってほしい』

『私の役目は魔人を裁くことですよ?

 彼のことを心配していないわけありませんが、私にも他の仕事がある。

 収穫の見込めないことに時間は割けない』

『……あいつが水の太陽の情報を持っている、としてもか?』


 椅子にどっかと座ったデューイは、細身の男を見上げていた。


 水の太陽の情報?

 なんだそれ、俺は全然知らないぞ。


『いいか、おそらくだが、スロウは異世界人だ。

 あいつが初めてダンジョンに潜ったとき、異世界の文字を読んでいたことがある。

 まさかとは思ってたが、ベレウェルでの戦いを見て確信した。あいつはたぶん異世界の出身だ』

『本人はそのことを知っているのですか?』

『いや、知らねえはずだ。

 ……ベレウェルであいつの使った能力が、俺の師匠の技だったってこともな』


 なんだって?

 聞き間違いかと思いながら、耳を澄ませる。


『いいか、前払いで一つ教えてやる。

 あいつが廃都市ベレウェルで使ったあの能力。

 水を操って、異形の魔物そっくりの『水霊みずれい』を生み出したあの技は、ミラという女が使っていた技だった。

 ――そいつは、俺の師匠だった』


 聞き間違いではなかったことに、驚愕した。


 あの技、デューイの師匠の技だったのか!?


 いや、そういえば確かに、ベレウェルで初めてあの技を使った瞬間、青い髪の女性のことを思い出したような気がする。というかちゃんと思い出せるぞ。水晶みたいにきれいな青い剣を持っていた。水をまき上げて現れたあの水の像――『水霊みずれい』という名前か――を操っていた姿は、とても美しかったと思う。


 あの女性ひとが、デューイの師匠だったのか……。


『ミラ・ヘリオス……レオス教幹部たちが『追放者』と呼んでいた女性のことですか』

『……どこでそんな話聞いた?』

『今はこちらが質問する番ですよ』


 おい待てよ、デューイの師匠も追放者だったのか!?


 色んな情報が入ってきて混乱してしまう。


 必死に頭を動かして整理すると、デューイの師匠――ミラ・ヘリオスという人物もイストリアの出身だということか。追放者と呼ばれてたってことはそうに違いないはずだ。ただ、会話を聞いている限り……イストリアという世界そのものは二人は知らないみたいだ。


『それで結局、何が言いたいのですか?

 スロウ君は水の太陽、そしてミラ・ヘリオスという人物と何らかのつながりがあるかもしれない。

 だから? その情報で私に何のメリットがあると?』

『野心を叶えられるぜ』


 今度はジャッジが、眉根をピクリと動かした。


『お前さ、のし上がりたいんだろ?

 ベレウェルでの一件のあと、真っ先にエーデルハイドの魔人討伐の報告しに行ってたよな。

 そんで成果が認められたあとも、熱心に魔人狩りに勤しんでやがる。

 なんだか、今よりももっと強い権力握って何かやりたがってるみてぇだ。違うか?』


 黙ったまま肯定も否定もしない細身の男に対し、デューイは座っていた椅子をぎしりときしませて、耳打ちするように身体を前のめりにした。


『あいつの情報があれば、揺さぶれるぜ。レオス教上層部のやつらを』


 ――それは、お前の野心をかなえるのに強力な武器になると思うがな。


 デューイはそう言って口を閉ざした。あとは相手の返答を待つつもりらしい。


 ヘンリーは細い顎に手を当ててブツブツとつぶやいていた。

『レオス教は水の太陽打倒を喧伝している……。

 しかしその上層部は、水の太陽とつながりのある追放者の存在を隠し、あまつさえ匿っていた……?

 ふむ……』


 そして彼は、長く沈黙したあと、いきなり具体的なことを話し始めた。


『……ジャッジとしての任務は、宗教国家アストラ国内に限定されています。

 その範囲で得られた情報なら、逐一、あなたにお伝えできるでしょう』

『取引成立か?』

『ええ。スロウ君を探すことに、私も協力します』




 ――そこで唐突に二人の姿が遠ざかっていき、暗闇の中に砂漠の熱気を感じ始めた。


 ハッとして辺りを見回すと、そこには見慣れた地下空洞の景色と、自分を見下ろして立っている二人の姿が目に入ったのだった。


「どうだ、同郷の者よ。仲間の安否は確認できたか?」


 どうやらいつの間にか横になっていたらしい。目を少し下に移して、歪な巨人の姿を見上げた。持っていたはずの笛の魔法道具は近くにはなかった。もう豚人族に返したのだろうか。


 身体を起こしながら、すぐこちらにひざを付いてきた赤髪の少女に口を開く。


「……どれくらい時間が経ってた?」

「数分。

 あんた、笛を吹いたあとにいきなり倒れたのよ? 気分は?」

「いや、大丈夫だ……」

「その小娘に感謝しておくと良い、同郷の者よ。

 貴様が倒れた途端、そやつは貴様の身体を支えて守ったのだ。

 頭を打たずに済んだのはそやつのおかげだよ」


 え、と顔を上げると、エフィールは忌々しげに追放者の男をにらみつけていた。「余計なことを……!」とぼそりとつぶやいている。


 ……やっぱこいつ、良いやつだよな……と考えつつ、同時にヘンリーが魔人狩りを続けているという事実を思い出して複雑な気持ちになった。『向こう』の世界ではスロウ同様に死亡扱いになっているとはいえ、生きていると知れたら彼女はまた命を狙われることになるだろう。


 少しもやもやした気持ちが芽生えてくるのを感じつつ、視線を歪な巨人のほうに向けた。


「仲間の様子はちゃんと見れたよ。ありがとう、この魔法道具を使わせてくれて」

「構わん。私はゴエ族のものを借りただけに過ぎん」


 ゴエ族というのは、自分たちが豚人族と呼んでいた彼らのことだったらしい。

 ふと、こちらを見ている豚人族……いや、ゴエ族か。その一人に対して、とりあえず頭を下げた。


「俺は、仲間のところに帰るよ」


 今度は、追放者の男だけでなくエフィールにも向けて話した。


「俺を探してくれてるみたいだったから、無事なことを教えなきゃ。

 ――イストリアには、仲間と一緒に行ってみたい」

「そうか」


 メレクウルクは無表情だったが、エフィールのほうは真剣な顔をしていた。

 その様子を見るに、彼女もまだしばらく協力してくれるらしい。頼もしく思いながら、デューイとヘンリーの会話を思い出して、口を開いた。


「メレクウルク、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「……構わんが、その前に出発しないか? 同郷の者よ。

 先は長い。旅の道中でなら質問に答える時間はいくらでもあろう」


 そう言って、メレクウルクは外へ通じる道を指さした。




 ――こうして、スロウ、エフィール、メレクウルクの三人は、オアシスの街へ向けて集落を旅だったのだった。

補足

本編では直接描かれなかった魔法道具について


・「骨砕き」

 木槌の魔法道具。材質とは裏腹にその頑丈さは金属にも劣らない。

 生物の骨を砕くことに特化した形状をしており、またそうすることによって周囲に熱を発することができる。

 所有者であるゴエ族は地下でこの魔法道具を使用することで夜の寒冷化対策としていた。


 彼らは、砂魚の血と内臓を好んで食らい、骨は砕いて熱と化し、皮肉は干して、滅多に来ない行商人に売っていた。

 砂魚という一つの資源を有効活用するために磨かれた、彼らなりの文化である。


 ルーン文字は「生命とは、ひとときの輝きと熱量の放出によって終わるものだ」



・「黒茶葉のすり鉢」

 すり鉢の魔法道具。これによってすり潰されたものは、その素材に関わらず常に黒い茶葉の粉末へと変換される。所有者であるゴエ族は地下空洞内に生息する黒い虫を素材としていた。

 生成された粉末を水に溶かすと、とろみのある茶となり、飲んだ者に毒の耐性を授ける。


 しかし所有者たるゴエ族は効能を理解することは無く、ただ嗜好品としてその独特な風味を楽しんだ。


 ルーン文字は「毒が回らぬうちに飲め」

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