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魔法道具で得たものは。  作者: 透迷(とうめい)/東容 あがる
第五章 廃都ベレウェル攻略編
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第五十一話 攻略開始

 黄金剣の在りかは聞いている。

 おそらくは城の内部にあるだろう、とのことだ。

 かつてベレウェルの黄金剣は国宝として保管されていたというから、まあ城の宝物庫なんかに残っているのではないか、という予想である。


 瓦が剥げた三角屋根に登り、腐りかけた梁や廃材を渡り、傾いた壁の上を歩く……。


 崩落した部屋の中は足首ぐらいの高さまで壁が汚れていて、ここまで浸水したのだと分かった。

 水を吸い込んでベタベタになった本や、泥のついた食器、腐った家具が散乱しているのを横目に、前へ進み続ける。


 道がどうしても見当たらないときは土の杭を突き出して足場を作り、時には足元の見えない浸水地帯に踏み込んだ。


 ――そして、とある魔物が現れる。


「そういえば、こんなやつもいたっけな……!」


 トカゲのような細い胴体と、それを支える三角盾のような四本足。そして胴体と同じくらい細い尾。

 胴体と脚部の大きさが明らかに釣り合っておらず、バランスが悪い。そこまで足を発達させる必要などあったのだろうか? そう思わずにはいられないほどだ。


 そいつが、まるで義足で動いているかのような不安定な動きで、のらりくらりと接近してくる。


 かつて水の太陽と遭遇した時に戦った、異形の魔物だ。

 以前はただ囮になることしかできなかったが……今は違う。


 異形の魔物は一瞬だけ動きを止めたかと思うと、唐突に飛びかかってきた。


 スロウは繰り出される爪での攻撃を回避し、相手の動きを見定める。

 それなりに鍛錬を積んだことで、余裕をもって立ち回れた。

 必然的に、以前は気が付かなかったところにも目が向く。


 こいつら――人の顔をしてる。


 どこを見ているのか分からない黒々とした瞳の下に頭蓋骨みたいな顔が浮かび、そこに皮一枚だけが張り付いているような……そんな不気味すぎる外見だ。本能的にひるみそうになる。


 いいや、落ち着け。

 相手は一匹だ。

 いかに不気味であろうと、倒してしまえば問題ない。


 剣を両手で構え、かつてデューイがしていたようなステップで一気に懐に入り込んだ。







 ――デューイから教わった剣術、龍剣には大きく分けて二つの動作がある。


 『重い動作』と、『軽い動作』だ。


 まず『重い動作』。こちらはデューイがよく使っていたので分かりやすい。

 例えば、全体重を乗せて剣を振る、力強く踏み込む、攻撃時に一瞬の溜めをはさむ……。

 こんな風に、より重量感を加えた身体の動かし方をするというのが一つ。


 対してもう一つの『軽い動作』。こっちに関しては足捌きを例に考えると分かりやすい。


 デューイは時々、大柄な体躯に見合わない機動力を発揮することがある。

 どうやってあの筋肉ダルマが俊敏に動けるのか前々から疑問に思っていたが、その理由が龍剣という剣術で教わる足捌きだったらしい。


 本人は無意識にやっているっぽかったが、足捌きだけに限定して観察していると確かに、踊りでも踊っているかのように軽やかだった。これを手掛かりにして『軽い動作』を学んだのである。


 『重い動作』と『軽い動作』。この二つのバランスをどう取るか。

 これを意識することが龍剣を習得するコツだと思う。


 ちなみにデューイの場合は『重い動作』の方に八割以上を振り切って、残りを『軽い動作』での補助に割り振っているという印象だ。


 逆にスロウは、『軽い動作』の方をメインに鍛えた。

 自分の体格や剣の大きさを考えればそちらの方が戦いやすいし、しかも、風を生み出す能力を併せればさらに特化できる。今までよりも一段階強化された移動速度で、縦横無尽に立ち回れるのではないか、と考えた。




 ――剣を振りかぶり、異形の魔物に急接近。


 『軽い動作』のステップで懐に入り込んみ、脚の付け根部分に刃を当てる。

 そして、両手で剣を支えたまま、身体をひねった。


 スパァン。


 気持ちの良い音を立てて魔物の脚が跳ね飛ばされた。


 龍剣の基本技である回転切りだ。

 なぜこれが基本なのかは分からない。

 難しいのにいきなりこれを基礎として練習させられたのには驚いたが、威力は十分だ。

 脚を失ってぐらついたそいつに向けて、土の杭で追撃。


 異形の魔物はひっくり返り、虫のごとく暴れるが、もう遅い。

 細い下あごに向けて剣を思い切り振り下ろした。


「……よし」


 動かなくなった異形の魔物を確認してから、こぶしを握り締めた。


 倒せる。

 ただ音を鳴らして囮になるだけだったあの時とは違う。


 確かな成長の実感に自信をつけながら、風をまとってまた探索を再開する。


 途中で何度か遭遇する魔物も、危なげなく撃破していった。

 どうやら、ここで出現する魔物はこの異形の魔物一種類だけらしい。

 思ってたより数も少ないから、囲まれることにだけ注意すれば順調に進める。


 その実感を証明するかのように、目的地の傾いた城がどんどん近づいてきた。


 ……いや、変だな。最難関のダンジョンっていう割には簡単すぎないか?

 警戒しながら進んでいるとはいえ、A級になった(された)ばかりの冒険者が単独でここまで来れるものだろうか。


 違和感を感じつつも、比較的新しい梯子(はしご)を渡る。

 おそらく、かつてベレウェル攻略に来た冒険者たちが残したものだろう。

 長く時間が過ぎたこの廃都市の中では明らかに浮いているので見つけやすい。

 道を築いてくれた先人たちに感謝だ。


 念のため、道中もなるべく探索するようにした。

 ひょっとしたら先に来た誰かが回収していた時に落とした場合もあるかもしれない。

 冒険者の亡骸がないか、なるべく注意しながら奥地へと足を踏み入れるが、結局それらしき物体はどこにも見当たらなかった。


「やっぱこの辺りにはないのかな……ん?」


 ふと、西日が差し込んだ。

 視線を上げると、傾いた城の残骸から逆光が覗いている。


 もうこんな近くまで来てたのか。


 太陽に手をかざしながら目的の城を観察。

 立派だったはずの外壁は見るも無残に崩落し、おそらく中央部にあったのであろう尖塔は完全に明後日の方向を向いている。

 子どもがよく遊んでいる砂山崩しで、立てた棒が崩れかかっているような……そんな状態だった。

 

 そんな傾いた尖塔の上で、西日に反射しているものがある。


 尖塔のてっぺんに、黄金の物体が――。


「――あれだ!!」





 スロウが黄金剣を発見したころ、

 チームを組んで動いていた三人は目の前の惨状に息を呑んだ。


 足首まで浸水した市街地のそこら中に、異形の魔物の死骸が浮かびあがっている。

 虫の死骸を水たまりに流したような死屍累々の道の先には、一人の小柄な影が。


 海のように深く暗い藍色のマントと、外されたフードの上に流れる血のような深紅の髪色……。

 見間違うはずもない。


「エフィール・エーデルハイド!!」

「――あら、結構早かったわね」


 軽い調子で振り返った魔人は、以前と同じように大きな弓を構えていた。

 つがえていた金色の矢を引き抜いたかと思うと、その細い線は瞬きする間に剣状の物体に変わっていた。

 右手にエネルギーの束でできた剣、左手には大弓という恰好だ。


 ……ベレウェルの黄金剣は見当たらない。


 ジャッジの男がじっと相手を見据えていると、赤い髪の魔人はきょろきょろと辺りを見回し始める。


「……一人足りないみたいだけど」

「貴様には関係のないことだ」

「ふーん……」


 つまらなそうに返事をした魔人。

 そんな相手に対し、ジャッジは殺気のこもった声を張り上げる。


「エーデルハイドの魔人。

 貴様は、ここで処刑する」

「あっそ。

 ――三人だけで何ができるっていうの?」


 相手が弓矢を構えた瞬間、全員が同時に動き出した。

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