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魔法道具で得たものは。  作者: 透迷(とうめい)/東容 あがる
第四章 白銀都市アリアンナ編
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第二十六話 白銀都市アリアンナ 前編

「ふふふ、楽しみですね!」


 白銀都市アリアンナへ向かう道中。

 既に一行は中都市カーラルを発ち、だたっ広い平原を目的地へ向けて北上していた。


 うららかな小春日和のもと、芽を出したばかりの若草が柔らかい風になびいている。こんな日には外で昼寝でもしたくなるが、あいにくと魔物に襲われると面倒なので三人は移動を続けていた。


「白銀都市アリアンナは、『魔物を寄せ付けない魔法道具』でとっても有名なんですよ!!」

 ベレウェルの黄金剣と並ぶ世界三大魔法道具の一つが見られるなんて!!」


 セナはスキップしながら鼻歌を歌う。

 ニコニコと楽しそうに語られたうんちくに、スロウは軽く興味を抱いた。


「へえ、そんなに有名なんだ。

 じゃあ、その三大魔法道具の最後の一つは?」

「実家にある空を飛ぶ船です」

「主観強すぎじゃない!?」


 バイアスのかかりまくった選別に驚きつつ足を進めていると、面白い景色が見えてきた。

 やや後ろを歩いていたデューイに近づいて、左手に見えるその影を指さして質問する。


「デューイ、あれなに?」

「ああ、大したもんじゃねえよ。

 水の太陽との戦いの跡だ。傷もロクにつけられなかったけどな」


 そこにあったのは、広大な大地に刻まれたいくつものクレーターと、一定の間隔を空けてそびえ立つ塔の集団だった。


 石材を重ねて建てられたらしいその塔のほとんどはボロボロに崩れていて、わずかに原型を保っているものは、ここから見える範囲だと片手で数えられるくらいしかなかった。よく見れば砲台のようなものも残っているようだが、おそらくもう使い物にはならないだろう。

 大きくくぼんだ地形も、砕けて転がる塔の残骸も、青空のもとでみな等しく春の緑に覆われていた。


 残骸の隙間から顔をのぞかせる無数の若葉が風に吹かれてうねっていくのを眺めながら、物思いにふける。


 空を飛ぶ竜に少しでも近づこうとしたのだろうか。

 過去の戦士たちが激しく戦ったのであろうこの大地が、今はもう柔らかい緑に包まれているのだと思うと、どことなく切ない気持ちになった。これが無常観というやつか。


 そんな過去の情景に想いを馳せつつ、前々から聞こうとしていた疑問を隣の男にぶつけた。


「あのさ、故郷に帰るのってどんな感じ?」

「んー……複雑だな」


 丸太のような両腕を組んだデューイは、何かを思い出すように空を見上げたあと、口を開く。


「実はよ、家族とか兄弟とはあんまり仲良くねえんだ。

 正直、戻りづらい気持ちもある」

「ふーん……」


 喧嘩でもしたんだろうか。

 何があったのか聞いてみたいと思ったが、そのまま黙って聞くことにする。


「ただ、そうだな……」


 前方から柔らかい風が吹いてきた。

 それは撫でるような心地よい風で、懐かしさを覚えさせる不思議なものだった。


「そいつらと上手く折り合いがつけられたら、そろそろ旅をやめるのもいいかもしれん」

「え?」


 思いもしていなかった言葉をさらりと口にされて、素っ頓狂な声を上げていた。


「なんだよ」

「いや、別に……」

「お? そうか。

 とにかく――誰だって家族と一緒にいるのが幸せってもんだろ?」


 少しばかり違和感は感じたが、まあ……こいつの言う通りだよな。

 俺だって故郷に帰りたくて旅をしてるんだし、そりゃ家族だって、きっと一番大切なものリストで筆頭にあがるような類のものだ。

 安心して帰れる場所があるなら、それに越したことはない。


「いや、待てよ……?」


 しかし、スロウには一つの懸念事項に気が付いた。


 断切剣という、強力な魔法道具を使いこなすデューイがいなくなったら?


 それって――主戦力がいなくなるも同然じゃないか!?


「なあに、お前らならオレがいなくてもどうにかやっていけるさ、はっはっは」


 そう言って他人事のように笑うデューイに、恨みがましい目を向けずにはいられなかった。

 ただ、先を急ごうぜと前を歩くあいつの姿は、いつもより嬉しそうに見えたのだった。







 若草色の草原を抜けた後、高低差のある渓谷へと続く道に入っていった。

 両脇を深緑の木々に見下ろされ、谷の奥からかすかに水の音が聞こえてくる。


 こんな辺鄙なところに都市などあるのだろうか。山に入ると分かった時は不安になったが、デューイは何を考えているのだろう。


 しかし、どんどん先を進む大男に付いていくと、次第にその不安も消えていった。すぐに綺麗に舗装されたこの道が現れ、野生動物がいる気配も少なくなってきた。街が近い証拠だった。


 こういう時、目的地まで待ちきれなくて急ぎ足になってしまうみたいな場面を想像したのだが、デューイはむしろゆったりとした動作で静かに足を進めている。スロウの目には、記憶の中に残っていたのであろう風景を懐かしんでいるように見えた。


 そして、谷間をくねくねと迂回していった先に、目的の街が見えてきた。


「うお……」

「すごい……おとぎ話に出てきそうですね」


 まさしくセナの言う通りだった。


 城、と言われて想像したものがそのまま目の前に現れたようだった。


 窓がたくさんついた巨大な屋敷に、王女様でも囚われていそうな尖塔がくっついた見事なまでの城である。空の青が良く映える白銀の四壁で構成され、おそらく正面入り口に当たるのであろう一面には、大きな時計盤が備わっていた。そんな城が、小高い山のてっぺんにどかんと建てられている。


 少し視線を下げると、やはり城下町としか言えない街並みが周辺に寄り集まっていた。小高い山脈の一部をそのまま利用しているようで、山頂の城、麓の城下町ときれいに区分されている。まだ距離はあるが、ここからでも都市の全体像がほぼ把握できた。渓谷のど真ん中に位置していながら、周辺の緑と調和した見事な立体都市だった。


「ここに帰ってくるのは二十年ぶりだな」

「デューイ……こんなきれいなところで育ったのか。

 一体なぜこんな大人に……」

「いや、だいぶ失礼だぞ?」

「伝説の魔法道具ってどこですか!?

 早く行きましょう!」


 そうして、やたらと賑やかな三人組が街の中へと入っていった。

 ちょうど正午を回ったらしく、前方から低い鐘の音が響いていた。

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