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魔法道具で得たものは。  作者: 透迷(とうめい)/東容 あがる
第七章 セトゥムナ連合編
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第百六話 目指す場所

 ――スロウ視点。




 今後の目的を整理しよう。


 まず、当初の目的だったセナとの合流は果たせた。


 砂漠の大陸から戻ってきてからずっとそれを目指してきてようやく達成できたわけだが、あと一人、再会しなければならない仲間がいる。


 湾曲した大剣を扱う剣士のデューイだ。


 自分が旅を始めるきっかけを与えてくれた友人であり、始まりからずっと一緒に旅をしてきた相棒であり、自分の剣の師匠でもある、大柄な男である。


 砂漠の大陸にいたときに現地の魔法道具で一度だけ様子を見ることができたが、おそらくいまもデューイは自分を探してくれているはず。


 以前に決闘でドランドランを倒したときの報酬としてすでに手紙を出してもらってあるので、いつかここに来てくれるだろう。


 それまでは、このフラントールの里で待機という形になるだろうか。

 具体的にそれがいつまでの滞在となるかは不明だが……そこはどうしようもない。






 ヘンリーさんに関しては、迷ったが、連絡は取らないことにする。


 向こうも向こうでジャッジの仕事があって忙しいだろうし、何よりエフィールと合わせたら間違いなく修羅場になるだろう。それは避けたい。


 フラントールの里の人たちにさりげなく聞いたが、やはり『エーデルハイドの魔人』は死亡したことになっているようだ。


 できるならこのままエフィールの存在は隠しておきたいので、手紙は送らなかった。





「――では、そのお仲間の一人が来るまではこの里に留まってくれるのですな?」


 思考の中から目線を持ち上げると、フラントールの里の族長である老人――名前はゼムというらしい――と目があった。


「はい。

 実は俺には目的があって。生まれ故郷に帰らないといけないんです。

 それがいつになるかはともかくとして、いつかは、必ず。

 だから……」

「ううむ……」


 そう告げると、ゼムさんは複雑そうな顔で眉間にしわを寄せた。


 たぶん、代理決闘者として長くこの里に残っていてほしいのだろう。


 そのほうがフラントールの人々にとっては助かるだろうというのは、この国に来てまだ数日しか経っていない自分でも痛いほど分かる。決闘で部族間の競争が行われてるこの現状じゃ、きっと戦力になれる人間は喉から手が出るほど欲しいはずだ。


 ――正直、こちらも複雑なところだった。


 生まれ故郷には戻りたい。


 でも同時に、この里はセナの生まれ育った場所でもある。

 自分の力が役に立つのであれば、一緒に守ってあげたい気持ちだって確かにあるのだ。


『ここから去りたい。でも残りたい』


 そんな相反する二つの望みをかなえる方法はすぐには思いつかなくて、とにかく、いま自分が感じていることを直接相手に伝えることくらいしかできなかった。


「すみません、希望に応えられなくて。

 でも、デューイ――仲間が来るときまでは、一緒に戦いますから」

「いえ、気にせずとも構いませぬ。

 スロウ殿、あなたはまだお若い。このような辺鄙なところに残って長い人生を縛るよりは、きっとそちらのほうがよいでしょう」


 そう言って彼はつばを飲み込むようにしてから、セナにそっくりな人懐っこい笑顔を見せてくれた。

 なんとなく、自ら望みを押し殺してそれでも笑っているように感じて、果たして自分に同じことができるんだろうかと思った。


「ところで……スロウ殿の故郷というのは、いったいどこなのでしょう?

 セトゥムナ連合に近い場所ならば道を教えられるかもしれませぬが」

「ええと、はは。

 気持ちは嬉しいんですけど、たぶんここから信じられないくらい遠いので……」


 自分が目指しているイストリアは、死神エレノア・ルクレールや追放者メレクウルクによればこことは次元の違う異世界である。

 徒歩の旅でたどり着ける場所ではないだろう。

 それを馬鹿正直に伝えたら、きっと変に思われる。


「そうでしたか。

 我々もなにかお役に立てたらと思ったのですが……」

「気持ちだけでも嬉しいですよ」

「きっと『イストリア』や『エンデュミオン』といった異世界のごとく、遠い場所なのでしょうな。いつかスロウ殿がその場所にたどり着けるように我々も応援して……」

「ちょっと待ってください」


 話し続けていた族長の言葉を遮り、顔を近づけた。


「……ど、どこでイストリアって単語を聞いたんですか」

「はあ、イストリア、ですか……?

 このセトゥムナには、数こそ少ないですが、魔法道具の研究機関がありまして。

 そこの研究者たちが、こことは違う異世界の存在を立証したのです」


 その中の一つに、イストリアという世界があると、族長のゼムは言った。




 ……出来過ぎた偶然だ。


 あるいはこれも運命って呼ばれるものの一つなんだろうか。


 何しろ、自分をあの砂漠の大陸からこのセトゥムナ連合に連れてきたのは、時と空間を操るという死神エレノア・ルクレールだ。

 彼女から告げられた『スロウはちゃんと前に進めているよ』という言葉を思い出し、その意味にうっすらと勘付きながら、ゆっくりと深呼吸をした。


「実は、俺の生まれ故郷は、たぶんそのイストリアなんです」







 その半獣の老人によれば、その研究機関の名は森林学院ヴィータ。

 通称『森林学院』だという。


 フラントールの里から一日もしない場所にその施設があるらしく、地図を広げて道を教えてもらった。


「もしスロウ殿の故郷が異世界にあるのなら、森林学院に行けばなにか分かるかもしれません。

 セナに案内をさせましょう。

 魔法道具の好きなあの子は、学院にもよく顔を出していたので」

「でも、怪我は大丈夫かな……?」

「回復後の良いリハビリになるでしょう。ぜひ連れて行ってください」


 そこで突然、ずいっと顔を近づけてきた族長のゼムから妙な気迫を感じた。


「――あの子は、気立ての良い娘です。

 きっと将来はよい伴侶になるでしょう。

 スロウ殿、今後とも、ぜひ、あの子のことをよろしくお願いします……!」


 な、なんだ、この威圧感は……!


 自分よりも背が縮こまっていたはずの族長がなんだか急に巨大になったように錯覚しながら、適当に返事をして逃げるようにその場をあとにした。






「――というわけなんだ。

 それでセナに案内してほしいと思って来たんだけど、やっぱり怪我の具合も心配だし……」

「行きます!」


 即答だった。


 寝床から軽快に起き上がったセナは、頬を紅潮させてすぐさま旅支度を始めた。

 そしていきなり不自然な体勢のまま硬直し、どうやらまだ痛みがあったのか、恥ずかしそうな様子で寝床に戻っていった。


「……実際どうなんだ、エフィール?

 こんな状態で旅なんてできるのか?」

「……まあ、派手に動かなければいいとは思うけど……」


 となりで看病をしていたエフィールが、赤い髪を揺らしながらそう答えた。


 微妙に髪型が変わっているのは、セナがやったんだろうか。

 編み込みの入った赤い髪を落ち着かなさそうに触っているところを見ると、いつもすこし印象が違って見えた。


「派手に動くな、って……まだ怪我人だぞ?

 半日以上も動いて大丈夫か?」

「わたしは平気です、スロウさん!

 半獣人は生命力が強いんですよ、これくらいへっちゃらです!」

「本人が言ってる通り、ちょっと歩いて戻ってくるくらいなら問題ないはずよ。

 心配しすぎ」


 呆れたようにため息をついたエフィールにジト目でにらまれたので、逃げるように視線を背け、話題を変えるべく口を開いた。


「えーと、エフィールは? 森林学院までいっしょに来るか?」

「けが人を放っておくわけにはいかないから当然……と言いたいところだけど、今回は遠慮しておくわ」

「どうして?」

「だって、二人ともせっかくの再会じゃない。

 敵だったあたしがいたら話しにくいことだってあると思うし……

 べつに一日かそこらで帰ってくるんでしょ?」


 片腕を抱くようにしてこちらを見上げていたエフィールが、今度は人差し指を立てて詰め寄ってきた。


「その代わり、ちゃんと気遣ってあげなさいよ。あんたが一番健康そのものなんだから」

「はいはい……分かったって」

「いろいろ薬とか渡しておくから、危なくなったら使うこと」


 なすがままに塗り薬やらなにやらを押し付けられ、背中をばんと叩かれる。


 そしていつの間にか、ほんとうにいつの間にか旅支度を終えていたセナに微笑まれ、そういえばこれくらいの身長差で、この視線の高さに兎の耳が揺れてたんだよなと、今さらのように思い出した。


「……決闘とかはあと数日は来ないって話だけど、念のためになるべく早く戻ってくるようにするよ」

「はいはい、行ってらっしゃい」

「……それじゃ、セナ。

 案内よろしく」

「はい! 任せてください!」


 身体を動かしたかったのか、ずっとうずうずとしていた様子のセナに元気よく返事され。

 そして部屋を出ていく間際、足の指をどこかの角にぶつけて悶絶している彼女に苦笑しながら、外に出て行った。

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