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第八話 戦闘開始

「ハリウさん!」

「スロウくん! デューイさんも!」


 スロウたちがミスフェルに着いたときには、既に村の人たちも異変に気付いていたようだ。みんながみんな、慌ただしく動き回っていた。

 雨は降り始めている。


「水の太陽が向かってきているのが見えました。

 俺たちも力になります!」

「ああ、レオス神よ……!」


 祈るように感謝を伝えるハリウ。

 デューイが前に出て、状況を確認する。


「他のやつらは?」

「教会に集まってもらっています」

「よし、そのまま中に立てこもってとにかく耐えろ」


 てきぱきと決定をするデューイに、スロウは口を挟んだ。


「待った、逃げる方がいいんじゃないか?

 なるべく遠くまで避難させれば少なくとも安全は確保できる」


 デューイの持つ断切剣は、凄まじいまでの切れ味を誇る。

 その突破力で外まで移動することは可能なはずだ。


「ダメだ、魔物の数は半端じゃない。すぐ囲まれて終わりだ。

数さえ減らせればいけるかもしれねえが、それなら籠城した方がまだ可能性は高え」


 となると、選択肢は二つか。

 村の外に避難するか、村の中で立てこもるか。


「おい村長、お前はどう思う?」


 真剣に話を聞いていたハリウは、虚を突かれたようにデューイを見上げた。


「俺たちは力を貸す。だが、自分たちのことは自分たちで決めろ」


 決定は村長であるハリウに委ねられた。

 襲撃を前にして気の弱そうな顔をしていたハリウだったが、長としての責任を思い出したようだった。


 ハリウは教会の方に目を向ける。

 その方向には、家に人形を忘れてきたと駄々をこねる子どもと、困ったような母親の姿があった。


「……私たちは、できるならこの土地で生きていきたい。

 生まれ育った場所は簡単には捨てられません」


 村の長の言葉は、村全体の総意だ。


「よし、決まりだな。

 教会に行って、動ける男を探してくれ。そいつらには外に出てもらう。オレたちだけじゃ手が足りないからな。

 クワでも何でもいいから、とにかく武器を持たせろ」

「わ、分かりました」

「それと、降ってくる雨はなるべく口の中に入れるなよ、いいな」


 こくりとうなずくと、ハリウは教会へ向かっていった。


 徐々に、徐々に、波の音が近づいてくる。


 胸の中が落ち着かない。

 呼吸が早くなって、浅くなって、心臓が沸騰しそうだった。


「スロウ、いざという時はお前が作戦を立てろ」

「俺が?」

「そうだ、オレよりお前の方が頭が回るからな」


 心なしか、デューイの眼光がいつもよりも鋭く感じた。

 既に臨戦態勢に入っているようだ。


「分かった」


 言い出しっぺは自分なのだ。

 気合を入れていかないと。


 と、教会の方から村長が出てくる。


「十人ほど戦ってくれるそうです!

 武器も持たせました!」

「……ちょうど、だな」


 夜かと錯覚するほど暗くなった空から、何かが落ちてきた気がした。

 ばちゃり、と水しぶきを立てて現れる不気味な魔物。

 トカゲのような細い胴体と、三角盾のような大きな四本足を動かし、どこを見ているのか分からない真っ黒な瞳を輝かせる異形の魔物だ。


「どうか、神のご加護を……!」

「このオレに神サマが味方してくれるかねぇ」


 ばちゃり、また、ばちゃりと数がどんどん増えていく。


「来るぞ……!」







「おらああああ!!」


 どしゃ降りの雨の中、戦いの音が鳴り響く。


 外で戦う十数人の中で最も敵を屠っているのは、やはりデューイだった。

 断切剣の切れ味はすさまじく、見るからに硬そうな魔物の脚を真っ二つに切り裂く。


 スロウたち一般人たちは、各々が持つ武器でどうにか魔物を食い止める。


「無理に倒すことは考えないで! デューイに任せてできるだけ足止めして!」

「オレの負担でかくねえ!?」


 武器の殺傷能力は明らかに一人に偏っているため、必然的にそいつに課せられる役割が重くなる。


「デューイ以外に魔物を倒せる戦力がいないんだよ!」


 飛びかかってきた魔物を剣で抑え、後ろから加勢してくれた村の人と力を合わせて押し返す。

 ちらりと横を見ると、デューイが一振りで二体を切り伏せていた。


 どうやら、魔物はデューイに集中しているようだった。

 雄叫びをあげ、蜂のように動き回る大柄な男を魔物たちは危険視しているのか、スロウを含めた一般人の方にかかる負担は比較的小さかった。それでもスロウは精一杯だったが。

 デューイの役割は素人から見てもかなりキツイものであることは明確だ。それをやってのけるあたりさすがはA級冒険者。まだこちら側に被害は出ていないのはひとえにあいつのおかげだろう。


 だが、倒しても倒しても一向に状況が変わらない。


「数が多すぎる!! 捌ききれねえ!!」


 倒した敵の分だけ、さらに敵が増えていく。


 スタミナだけが消費され、徐々に追い詰められていく。

 デューイだって人間なのだ、いつかは体力が底を尽きる。

 あいつが倒れた時、どうなるか。


 脳裏に、怯えの感情が芽生えた。

 このままじゃ全滅してしまう。


 守るだけじゃだめだ。

 ジリ貧のままで負ける状況なら、もっと大きく賭けるしかない……!


 バシャバシャと音を立てて魔物を圧倒するデューイを見て、ある無謀な作戦を思い付く。

 今、手元にある武器を活かして、みんなが生き残れる道は一つしかない。


「デューイ! 作戦変更だ、俺がこの剣で囮になるから、みんなを連れて外に逃げて!!」


 デューイは戦いの前に言っていた。魔物の数さえ減らせれば外に避難することはできるかもしれないと。

 実際に断切剣の突破力があれば可能性はあるはずだ。

 村長の意志に背く形になるが、こっちの方が生存確率は上がる。


「はぁ!? 何言ってんだ!! お前一人じゃ死んじまうぞ!!」

「このままじゃ全滅だ!! 教会付近の負担をなるべく減らすから、後は頼むぞ!!」


 言い切ったと同時に、まだ覚悟ができていない自分に気が付いた。

 途端に足がすくみそうになる。

 でも、言葉にしてしまった以上はもう逃げられない。


 足を動かせ! やるしかないんだ!


 人数も、技量も、経験も足りないことなんて分かっている。

 それでも生き残るには、リスクをとって勝負に出ろ!


 スロウは怯えを悟られないように、包囲の隙間に魔法の剣を無理やりねじりこみ、外側へ向けて全力で走り抜けた。


「あんの馬鹿野郎……!」


 デューイは飛びかかってきた魔物を切り伏せて、後方の教会へ向かう。

 ドアを蹴り破り、叫んだ。


「全員外に出ろ! 逃げるぞ!」

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