波打ち際の星影
波打ち際に立つ女の子の人影が揺れている
水平線の向こうに彼女は何を見ているのだろうか
貝殻を耳にあてる幼子は静かに口元へ笑みを浮かべている
この子の鼓動に届くのは何億年も昔の人々の祭りの声
夜の月影は少しずつ僕らの心を包み込み
柔らかな微笑みをあの娘にも 彼にも 僕にも与えてくれる
砂浜に描いた文字はゆっくりと波にかき消されて
たくさんの人とたくさんの人々の思い出も洗い流していく
そして
海の向こうには誰がいるの? いつかすれ違った君?
波に揺れる月明りだけは 僕らを裏切らない
どうして僕らの想いは届かず朽ちていくの?
向かい合う二人の優しさはその手から離れていく
夜空に浮かぶ星の愛しさは 昨日見た赤子の手にも似ていて
母の胸に抱かれた その夢の落とし子は 明日へと導いてく光
道を挟んで立っていた二人の涙は
流れる白い雲にくるめ取られて 誰にも知られず消えていく
この言葉が途絶えていく そんな世界が待っていても
限られた時間の中で 綴られた全てが許されているのならば そう
僕らは指先を合わせて 見つめ合い 抱き合い
夏の風も 夏の香りも消えた場所でも そんな場所ででももう一度会おう
人は違う夢を見てはただ人を蔑んで
人は同じ夢を見てはひたすら許しあう
宇宙の隅で怒りと憎しみを
かき消せるのは幸せの量なの?
それならば幾らかの幸せを僕が君に分けられたなら どれほど僕も幸せだろう
捕らわれた心の奥に眠る優しさが そう 君の中で芽生えたのならば
僕らは指を絡め合い 手に手を取り 抱き合って
夏の夜空も 夏の涼風も消えた場所でも そんな場所ででももう一度僕は君に会いに行こう
波打ち際に立つ女の子の麦わら帽子は風に飛ばされていく
彼女は慌てて手を伸ばしたのに 帽子には届かなかった
彼女は涙をこぼして悲しんだけれど そこに憂いはない
幼子が手にしていたいつかの貝殻は 今では捨てられて波に打たれるがままだ
幼子は今は20を超える青年に育っているのかもしれない
僕らは いや 母親は悲しんだかもしれないけれど そこに憂いはない
ただそこには 星影が波間で揺れている 揺れている ただそれだけ
揺れて
揺れて
星影は波打ち際にたどり着く ただそれだけ