第二章 新たなる時代の投稿サイトたち
アットノベルスはわき見程度に投稿作品に目を通していた程度なので、そこまで詳しくはありません。補足ありましたらお願いいたします。
さて、前回はにじファンがなくなり、作者や読者たちが移民として他サイトに流れ込み、次の「にじファン」を見つけようと動いていた頃のお話でした。
今回は、その時に生まれた新たな投稿サイト、その姿をお伝えします。
前回お話した通り、当時は「次なるにじファン」をユーザーが求めていました。
しかし、既存のサイトではそれができない。となれば、新しく作るしかない。そこにたどり着くのは、ごく自然な事でした。
この時ほど、「新しい投稿サイト」という物が歓迎された時代は今のところないでしょう。
何せ巨大な投稿サイトが消えたのです。次なるものを目指して多くのユーザーが、次のサイトを望んでいた。
「にじファンの後継」として幾つかのサイトが生まれ、ユーザーはそこへどんどんと集まっていく。
そんな、今にして思うと新しい時代を開拓する様な中で生まれ、とりわけ規模が大きくなったのが「ハーメルン」「暁」そして今は亡き「アットノベルス」でした。
彼らが生まれた時期ははっきりとは覚えていないのですが、
この三つのサイトが一気に拡大した時期は間違いなく、2012年の中頃です。なろうの記録上でも残っている通り、そこでなろうからSSが消滅しました。
彼らは「にじファン難民受け入れ先」としての立場をはっきりと持っていました。
とりわけ、ハーメルンとアットノベルスは得意分野を別れて、にじファンというサイトの色を分断して受け継いだのです。
いや、もっと言えば
ハーメルンはにじファンのユーザーを取り込み
アットノベルスはにじファンの気風を取り込んだ
そういった方が正しいでしょう。
今回は、「ハーメルン」を中心としていますが、「アットノベルス」にも「暁」にも歴史がある、という事はここに述べておきます。
「アットノベルス」はその怪しい運営体制をユーザーから警戒されていました。
2chで「アットノベルスは危険なサイト?」という名前のスレが立つなど、いまいち信頼感のない運営ではありましたが、それはそれ。
「チートでハーレムなSS」の次なる投稿サイトとして頭角を現しました。
思いっきり「ド直球のテンプレ」は主にここへ投稿されて、にじファンで愛好していたユーザーもここへ集まりました。
しかし、高速に、かつ貪欲にユーザーを取り込んでいったのは、「ハーメルン」です。
2chのスレが発祥のこのサイトは、生まれて間もなく一気に規模を拡大しました。
その原因こそ、Arcadiaの完全な廃墟化です。
長期のサーバーダウンや管理人不在でのスパム投稿の放置などなど、投稿サイトとして使う事すら難しい、という状況が作者・読者の間に広まるにつれて、「ここはもうだめだ」と感じる方が増え、Arcadiaのユーザー達もまた、次の理想郷へ移動しました。
何せ、数週間もの間、ほぼ完全にサイトを閲覧できない状態だったのです。「もう閉鎖した」と思われても仕方がない。
そうなれば人々は次の投稿サイトへ行くわけですが、そのあとで復活しても覆水盆に返らず、もはやArcadiaは復活できませんでした。
そう、Arcadiaのユーザーはハーメルンに集まったのです。
ここに「にじファン」「Arcadia」というSS業界の二大巨頭が集まるサイトが誕生しました。
ハーメルンが他の二サイトに圧倒的な差をつける結果となったのは、ここがポイントだったのでしょう。
にじファンだけではダメ、Arcadiaだけでもダメ
両者を満足させるシステム作り、そしてサイト開発から今に至るまで6年もの間、開発者が止まらず機能改善に邁進したからこそ、ハーメルンは今、なろうに次ぐ規模の小説投稿サイトとなったのです。
さて、そんなアットノベルスとハーメルン。
アットノベルスがどんなサイトだったかと言えば、先ほど書いた通り
「にじファンそのもの」だったと言えます。
イメージが難しいならば、なろうでよく見られる「テンプレ」に限りなく近い内容の作品が展開されていました。そう言えば分かるでしょうか。
主人公がひたすら強く、絶対負けず、あらゆる登場人物より主人公が上の立ち位置にある。
男と生まれたからには誰もが一生のうち一度は夢見る世界最強となったり、ハーレムを作ったり、スローライフを送ったり、原作キャラの言動を否定してみたり、馬鹿にしてみたり、内政したり。
作者も読者も、そういった「よくあるテンプレ物」を好んでおり、両者ともに「そういうもの」が書きたい・読みたいと思って集まったサイトなのですから、当然、そういう作品が大多数を占めます。
このサイトがあったことで、他サイトに「にじファンそのもの」という作品があまり入らなくなったと思います。
つまり、他のサイトへ移ったユーザーは、そこで独自色を出して「脱にじファン」である新しいテンプレを作っていった。
そう考えると、影響は大きかった、と言えるでしょう。
では、ハーメルンはどういった作品が多かったのか?
答えは簡単で、つまり、そう。
「Arcadiaそのもの」です。
こちらもテンプレ要素、チートや俺TUEEEは好きでした。
しかし、直球に「主人公に感情移入して気持ちよく読める」事を主眼にしていた(とされる)直球のテンプレに比べると
そう、とてもひねくれていたのです。作者も、読者も。
つまり、
・チートは好きだよ俺TUEEEも好きだよ。でもド直球はダメ。捻れ。
・捻ったチートが好き
・明るいのも好き。白熱のバトル! 主人公の踏み台ではない登場人物! サブキャラが凄くいいのが好き!
・むしろサブキャラにファンがつくレベルの物をお出しして欲しいなぁ
・暗いのも好き。チート主人公でも避けられないダークな展開、主人公に隠された恐ろしい真実が好き
・神様転生だと思ってたら実は神のおぞましい計画で急にホラーになるとか最高
・どんでん返しも好き
・展開はしっかり作りこんで、チートキャラがいる事についてしっかり掘り下げてくれないとね。原作通りのテンプレとかダメっしょ……
・原作に居ないキャラが現れることについての影響! これ大事!
・オーバーロード面白いよね……
・ダンまちも好き……
・幼女戦記も面白い……
・あ、勘違い物も好き
・原作のテーマやストーリーのエッセンスを残しつつも思考実験としてのif展開をエンタメに昇華させて云々
という感じの作品達。
そう、どちらかと言えば「作者の技巧やストーリーの展開の仕方、原作からの変化」を楽しむ風な作品が増えたのです。
これらが高評価を受け、
逆に「にじファンそのもの」はそこまで好かれず、ごく一部の例外が高評価を受ける、という、Arcadiaに移民がなだれ込んだ時と同じ流れとなりました。
「にじファンそのもの」の大多数がアットノベルスに行った結果、ハーメルンはにじファンとArcadiaの両方の文化を取り入れながらも、かなりArcadia寄りのサイトだったのです。
今でもその気風は残っており、
以前、オリジナル作品の需要についてハーメルンの2017年中の投稿作品の評価平均を調べたところ、
あらすじを読んで「いかにも」な感じのなろう系テンプレ作品は低評価を受け、
「あ、これは捻ってるチート物だな」と感じられる作品は高評価を受けていました。
二次創作についても、近い気風があります。
にじファンというサイトのテンプレをアットノベルスが引き継いだ一方で、
ハーメルンはArcadiaというサイトのテンプレを引き継いだ形となりました。
ユーザーは正直です。
「自分の作品はこっちの方が読まれそうだな」と思ったら、遠慮なくウケそうなサイトに投稿します。
にじファンで投稿していても「テンプレそのもの」という風ではない物を書く人は、自分のファンを引っ提げてハーメルンに現れ、
逆に、にじファンのテンプレ物を愛好する人は、ファンを引き連れてアットノベルスへ移動しました。
なろうからSSが消えてからしばらくはこの雰囲気のまま、アットノベルスとハーメルン、そして暁は動き続けていました。
日本最高峰の執筆量のウェブ小説化が暁に移動して、「専用除外ボタン」が設置されるなどの珍事件などが起きつつも、
どんどん巨大化するなろうの隣で一緒に大きくなっていきました。
その中で生き残ったのは、結局、ハーメルンでした。
暁も生きていますが、アクセス的にはかなりの差があります。
アットノベルスがいつまで存在したのか、どう衰退したのか、私は知りません。
ちらと聞いた話では、ここもサーバーダウンが多発していたようです。
その結果としてユーザーが去った、というのは恐らく事実でしょう。
ただ、かなり盛り上がっていた時期に読んでいた私にとっては、あの場は「にじファン」でした。
新しいジャンルが生まれたり、新しい流行が生まれたりはせず、ただ、本当ならにじファンで連載されるはずだった作品が並んでいる。
そんな印象がありました。
だからこそ、「なろうテンプレ」という新しい時代に飲み込まれていったサイトの一つに見えました。
そう、二次創作でもオリジナルでも同じように「テンプレな俺TUEEE」が書けるようになった時代です。
「原作」というあらかじめ設定された世界観がなくても、なろうテンプレが読者の想像力と作者の表現力に補正をかけてくれました。
二次創作でテンプレを展開しても、なろうでは投稿できません。
そして、テンプレート的な展開の俺TUEEEであるならば、なろうで投稿するのが最も読者の反応が良いのです。
これも、私の目から見えた感想です。
もしもアットノベルスの最期を看取った方がいたら、本当はどんなサイトだったのかを教えてください。
現実として今、にじファンからの分派の投稿サイトの中ではハーメルンがトップにいます。
私は、ハーメルンがこの位置に来た理由は幾つもあると思っています。
Arcadiaユーザーの取り込み、凄まじい勢いで機能改善される開発、使い勝手がなろうそっくりで、それ以上に使いやすい。
なろうによく似た見た目は、作者にとっても読者にとってもとっつきやすく、本当に使いやすかった。
使い勝手、という意味では間違いなくなろうの相互互換(上位互換かもしれない)サイトでした。
でも、ハーメルンが他のサイトを圧倒した決定的な理由はこれでしょう。
そう、
「なろう作品のSS」です。
「小説家になろう」から多くの作品が飛び立ち、中にはアニメ化を通してオタク社会の中で一定の存在感を示した作品が生まれました。
「オーバーロード」「ダンまち」「劣等生」などがこれに当たるでしょう。
……前者二つはArcadia産だって言ってるだろ!(元理想郷民の意地)
そんなこれらの作品がヒットすれば、当然、ファン創作が活発になります。
かつてエヴァがそうだったように、Kanonがそうだったように、リリなのが、ネギまが、Fateがそうだったように。
でも、大本のなろうでは書けません。二次創作禁止ですから。
そうなれば、どこで書く?
なろうにシステムがよく似ていて、使い勝手が良くて、にじファン・Arcadiaからやってきた沢山の読者がいる。
しかも、どんどん新しい原作カテゴリが追加されていき、活発に感想も貰える。
そして新しい人気な原作が増えれば増えるほど、そこに読者が集まってくる。
他の投稿サイトが「なろう作品の二次創作」という新しい時代に着いていけなくなる中、ハーメルンは見事に追従してみせました。
なろうとArcadiaで生まれた作品が人気を作り出し、
その作品達が原作になって二次創作が作られる。
なろうとの距離が最も近く、新しい原作に最も寛容だった。
ハーメルンが選ばれたのは、偶然ではなかったと思います。
個人的な視点となりますが、
「にじファン的」な作品は、作品の中心とストーリーの中心が共に主人公であり
「Arcadia的」な作品は、作品の中心は主人公だけど、ストーリーの中心点は主人公ではない、
という風な違いが見受けられます。
サブキャラが主人公となるストーリーが存在する、あるいは主人公が複数存在する、という方が近いかな?
より細かく言うと書籍版「オーバーロード」とArcadia版「オーバーロード」の違いですね。
書籍版のアインズ様は主人公です。立ち位置的にも、ストーリー的にも間違いなく。
しかし、Arcadia版のアインズ様は「ナザリックの王」であっても、主人公というよりはナザリックの頂点にいる魔王だった。
作品の中心には常にアインズ様がいましたが、その作品の中で展開されるストーリーを回していたのはアインズ様ではなかったのです。
Arcadiaのオリジナルでは「竜と紅の少女達」「自由帝国の王」(なろうにも投稿されていますね)が好みです。
あれらも「主人公とされる人物は作品の中心にいるが、ストーリーの中心にはいない」パターンですね。
もちろん、両サイトに例外はあるのでそこはそれとして、私はこんなハーメルン万歳するだけのブツを書くだけあって後者の方が好みです。
ハーメルンのブクマ作品数、気づいたら1000超えてました。