優しい騎士様
彼は騎士だった
勇者のパーティの最年長だった
快活で前向きで勇者達はいつも彼に励まされていた
魔物が恐ろしいと弱音を吐けば先頭に立ち魔物と戦ってくれた
疲れたと愚痴を零せば自分が居るから休めと言ってくれた
怪我が痛いと泣けばまじないを唱えてくれた
自分を見失った時は側にいて支えてくれた
顔色が悪ければ休みをくれて好物を作ってくれた
相談をすれば解決まで一緒に考えてくれた
そんな彼に支えられてやっと魔王を倒せたのだ
魔王を倒して国に帰ってたくさんの人に迎えられた
魔王を倒したお祝いにパレードも行った
凱旋パレードの翌日彼は死んでいた
喉を掻き切って自殺していた
誰も気付かなかった
それほど彼は繕うのが上手かった
けれど彼はもうとっくに壊れていたのだ
笑うことにも励ますことにも疲れていた
だって自分のことだけでも精一杯だったのだ
異形の魔物と戦って怪我をして治したらまた戦って
戦いの合間の休めるはずの時間だって
仲間の心が折れないように気を配り続けて
それで疲れないはずがなかったのだ
それが辛くないはずがなかったのだ
けれどそれを見せることは無かった
だって自分が壊れてはいけなかったのだ
最年長で支える立場で
みんなの心が折れないようにしなければ
旅が進まなかったのだ
だから笑っていた
だから見せなかった
けれど限界なんてもうとっくに越えていた
心は既に壊れていた
継いで繋いで貼り付けて
もう元の姿なんて残っていないくらいで
それでも壊れないように保っていたのだ
それが自分の役目だったから
そうしなければ世界が滅ぶとわかっていたから
だから見せかけだけでも普通を装った
いい騎士様を演じていた
けれどそれが壊れるのは一瞬だった
当然だ
だってもう限界だったのだから
心を締めあげていた糸が緩めばもう終わり
ばらばらになって崩壊したのさ
心が壊れた結末なんてそんなものさ
誰にも頼れない
いや頼ってはいけなかった
そんな騎士の結末なんてこんな寂しい終わりなのだ