語られた真実
「どうして江藤が犯人だとわかったんだ? 現場を見たのか」
拓也くんはゆっくりとかぶりを振った。「ちょっと違う。部活のとき、あいつがテニス部の部室から出てきたところを偶然見かけたんだ。退部したとはいえ、あいつもテニス部だったから、そのときは特になんとも思わなかったけど、次の日、竹ノ内くんのお守りを見て、わかったんだ。あいつがあのとき部室にいたのは、鞄についていたお守りに細工をするためだったんだって」
「二人は同じ部活だったのか」俺は驚きの声を上げた。
「隆平、水を差すな」
「わ、悪い」
「異変に気がついた僕は、すぐにお守りを確認しなきゃ、って思った。それで竹ノ内くんに貸してくれるように頼んだんだ。あとで落ち着いて考えてみれば、彼女からもらった大事なものを貸してくれるはずがないってわかったんだけど、あのときは焦っていて、そこまで気が回らなかった。だから竹ノ内くんが席を立った隙に、お守りを開けて中身を見たんだ。そうしたら――」
拓也くんは拳を握りしめる。怒りを必死に抑え込んでいるようだった。
「お守りの中には、短冊が一枚入っていた」
「え」と俺は声を漏らす。俊も眉をひそめていた。
「抜き取られていたんじゃなかったのか」
「違う。もっと悪質だった」拓也くんはそのときの光景を思い出したのか、歯をぎりっと食いしばる。「短冊には、一言だけ書かれていた」
「なんて書いてあったんだ」と俊。
俺はごくりとつばを飲み込む。
拓也くんはためらう素振りを見せたあと、吐き捨てるように言った。
「死ね」
俺と俊はそろって瞠目した。
「まさか……」
言葉が続かない。お守りにそんな言葉を仕込むやつの気が知れなかった。
「あいつは、短冊をすり替えたんだ。よりにもよって、竹ノ内くんが彼女からプレゼントしてもらったものを。もし、気づかずに一年が経って、あのお守りが開かれていたと思うと……」
「ぞっとするな」
俺はぶるりと身震いした。薫くんはもちろん、渡した栗原さんだって相当ショックを受けるはずだ。
「最初は竹ノ内くんに打ち明けようかと思ったんだ。だけど、竹ノ内くんはなにも悪くない。正しいことをしただけなのに、あんなふうに悪意を向けられるなんて、どうしても許せなかった。なによりも、そのことを竹ノ内くんに知ってほしくなかった。だから!」
「薫に黙って、すべてをなかったことにしようと考えたわけだ。それで栗原に願いの内容を訊き、本来の願いの書かれた短冊を自分で作ろうと思った。ところが彼女は内容を明かさなかった。どうしようかと考えた挙句、江藤に直談判しに行った」
拓也くんは力なく頷いた。
「短冊を入れ替えたかどうか、馬鹿正直に尋ねたのか」
「あいつは僕の顔を見た途端、にやりと笑ったんだ。そのあと、あいつらの恋愛ごっこはまだ続いているのか、ってにやついた顔で言ってきて。それを聞いたら、つい頭に血が上って……それで、短冊をすり替えた犯人はおまえなんだろ、って言い返した」
「江藤の反応はどうだったんだ? ぼろは出したのか」
俊の問いに、「出さなかった」とか細い声が返ってくる。「難癖つけやがって、って最後は逆ギレされた」
「最低の先輩だな」俺は言う。「ぶん殴ってやればよかったのに」
「そんなことすれば、こいつが処分を受ける。殴らなかったのは正解だ。もっと迂遠な方法で追いつめてやれ」俊が過激なことを口走る。
「結局、僕はすごすごと退散するしかなかった。なにもできなかったんだ……」
「薫にそのことを打ち明けたのか」俊が訊いた。
「うん。短冊のすり替えに竹ノ内くんが気がついたと知ったら、あいつはきっと確認をしに来る。あいつの口からばらされる前に、説明しておかないといけないと思って。だから電話でぜんぶ話した」
「なるほどな」俊は腕を組み、机の上にふんぞり返る。「そうやって事情を知ったわけだ、あいつは」
「だけど、それならどうして栗原さんにあんな嘘を」俺は呟く。
「嘘?」と拓也くんが訊き返してきた。
「薫くん、栗原さんに嘘をついたんだよ。お守りをなくしたって」
「ちなみに、栗原はその嘘に気がついている。おまえが短冊の内容を訊いてきて、不信感を抱いたそうだ。普段なら、そんなプライベートなことには首を突っ込んでくるはずないのに、って」
拓也くんは一瞬びっくりしたあと、すぐに納得した表情になった。
「なにか心当たりが?」
「竹ノ内くんが電話で言っていたのを思い出したんだ。短冊がすり替えられたなんて話したら、彼女に余計な心配をかけさせることになる。とられた短冊にどんな願いが書いてあったかわからない以上、元通りには戻せない。だったらいっそのこと、自分がなくしてしまったことにするつもりだって」
「どうせ一年も経てば、お守りの存在なんてころっと忘れているんだ、そのままつけっぱなしでもよかっただろうに」
そもそも関係が続いているかどうかさえ怪しい、と俊が身も蓋もないことを言ったので、とりあえず脛を蹴っておいた。自分を悪者にしてまで彼女を気遣った薫くんに謝れ。
「恋人のいない磯井くんにはわからないよ、竹ノ内くんの気持ちは」
「ならおまえにはわかるのか。根暗で異性とまともに話したことすらないおまえが」
拓也くんと俊が睨み合う。
「俺から言わせてもらえば、おまえらみんな不器用すぎる。薫を守ろうとしたおまえも、栗原のことを思いやろうとしたあいつも、空回りした挙句に新しい問題を引き起こしただけじゃないか。だったら最初から、ぜんぶ素直に話すべきだった。変に智慧をまわさないで」
拓也くんは顔を伏せた。俺は咳払いをし、俊、とたしなめる。
「いくら働かされたことへの愚痴を言いたいからって、それ以上拓也くんを責めるなよ。彼だって、竹ノ内くんをなんとか守りたいって思ったが故の行動なんだから」
「それで厄介ごとに巻き込まれていたら世話ない」
「おまえ、頼まれないときは勝手に首を突っ込んでいくのに、人から頼まれると途端に面倒がるよね」
天邪鬼野郎、と俺は内心でこぼす。俊はまだなにか言いたそうだったが、大袈裟にため息をつくと、そのまま言葉を飲み込んだ。
ほんの些細な悪意が、容赦なく人を狂わせることもある。そんな悪意から友達を守ろうとした拓也くんの行動は、間違ってはいない。だけど、もう少し薫くんの強さを信じてみてもよかったのではないだろうか。真実を隠して守ろうとするのではなく、真実を明らかにしたうえで対応を模索していければ。拓也くんのような友達がいてくれるなら、悪意に負けることもそうないはずだ。
まあ、と俺は拓也くんに視線を戻す。彼らなら、あまり心配はなさそうだけど。きっとこれからもうまくやっていける。なんとなく、そう思った。
穏やかな陽射しが教室を照らす中、俺たち三人はしばらく無言だった。




