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あしからず
ややあって、痺れを切らしたように王が、側近に目配せをした。この間の悪い沈黙をどうにかせい、とでも言いたげに。
側近は、何事も如才なく振る舞える男だった。なので、その視線の意味をとっさに察したらしかった。側近は、やがて、王にまっすぐな眼差しを向けると、こう進言した。
「どうでしょう、王様。ここはひとつ、これを僥倖ととらえてみるというのは」
「僥倖?」
「さようでございます」
そう側近は相槌を打つと、よどみなく、その解をこう披露する。
「現に、井戸に月は落ちておりません。蒙昧な家来どもが月影を見て、無闇やたら騒ぎ立てているに過ぎないのです。そんな彼らに、知恵者であられる王が、実際のところを嚙んで含めてやるのです。さすれば、改めて、王の知識の深さを彼らは認識し、ことさら従属するに相違ありません。少なくともそうである以上、これは、偶然に得た幸運、畢竟、僥倖でしかないとわたくしは見做すのです、王様」
「ほう、儂の知恵をひけらかす僥倖ととらえよということか」