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化け猫のりんごさん  作者: 石山乃一
化け猫ことはじめ
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公園の小道での事件

りんごが龍二に髭を引っ張られ、さらに龍二とりんごの心の距離ができているその頃。


外での出来事である。


りんごが通るのを躊躇した道を、例の三人組…龍二とは違う学校の高校生であるスキンヘッド、モヒカン、リーゼント頭の男たちがまた通っていた。


「つーかさ、誰だよこっちが近道だっつったの」

スキンヘッドが不機嫌そうに呟く。


それを聞いてリーゼントがチラッとモヒカンを見た。


「ご、ごめん、姉ちゃんからこの道が駅に出る近道だって聞いてたから…」


モヒカンが申し訳無さそうに髪の生えていない部分をポリポリと掻く。

それを聞いてスキンヘッドがクワッと目を見開いた。


「ばっか野郎!駅じゃなくてゲーセンに行きてぇんだよ!誰だよ、この辺にカモがたくさん居るゲーセンがあるだの、道に詳しいとか言ってた奴!」


それを聞いてリーゼントがモヒカンをチラッと見る。


「い、いや、姉ちゃんがこの辺の会社に勤めてて、昼に弁当渡した帰りに高校生の多そうなゲーセンがあったくらいしか言ってないんだけど…」


モヒカンは不条理だと思いながらも申し訳無さそうに頭を下げている。


「つーか、迷っちまったじゃねーかよ!ここ通るの何度目だよ!」

スキンヘッドがモヒカンを叩いた。


「だ、だって人の話を聞かないでさっさと歩いていくから…」


モヒカンは口を挟むが、スキンヘッドに睨まれ黙り込んだ。


「ちっと休もうぜ。どうせスマホの地図で帰れるだろ」

リーゼントがそう言い、雑木林の中へと入っていった。そして懐から煙草のケースを取り出し、プラプラと振ってみせる。


「だ、な」

スキンヘッドもそれには反対せず、雑木林に入っていった。

モヒカンは雑木林に入るのを躊躇した。


そろそろ蚊も出てくる季節であるし、そもそも煙草の臭いが嫌いなのだ。

しかし、一人この道に立っているのもおかしいので、渋々と後を追いかけ雑木林に入っていく。


三人は道から見えづらいところにしゃがみこみ、銘々煙草に火を灯し始めた。


一服し終わる頃、落ち着いたスキンヘッドがスマホを取り出し、地図のアプリを立ち上げる。

「つーか今どこなんだよ」


「谷地駅の近くだよ」

モヒカンが口を出すが、

「全員Suica切れてるし現金だってねーだろ、それともてめえ全員電車に乗れる分の金でも隠しもってんのか」

とスキンヘッドに突っ込まれ、モヒカンはしんなりと黙り込んだ。


「こんなことならあの、顔は怖いくせして一発でのされたあいつから金取っときゃよかったなー」

リーゼントが惜しい事をした、とばかりに呟きながら

「で、家の方向どっちか分かった?」

とスキンヘッドに向き直った。


「あー、今ここな」

スキンヘッドはスマホを皆に見せた。


それを見たモヒカンが驚いた顔をして辺りを見渡した。

「ん、もしかしてここって…」


「ん、なんだ、知ってるか」

スキンヘッドがモヒカンを見ると、モヒカンの顔が酷く脅えたような顔で縮こまっている。


「そういえば…姉ちゃんが言ってたんだ…」


モヒカンは心を落ち着かせるように深呼吸をすると、二人に向き直って口を開いた。


「ここ、幽霊がでるんだってさ…」


それを聞いた二人は目を見開き、お互いに顔を見合わせた。

ザッと生暖かい風が吹いて煙草の煙が空中に流れ、木々の間にかき消える。


そして二人は口元をゆがめ、プスッと噴出した。


「幽霊…(笑)」

「幽霊ね…(笑)」

その二人の笑いをかみ殺したような顔と口調を聞いて、モヒカンはムッと口を尖らせた。


「本当だって!姉ちゃんが残業して夜遅くにここを通ったとき…!」


モヒカンは熱く語りだした。



その夜、姉ちゃんは残業続きで帰りが夜遅くになったんだ、そして駅への近道であるこの道を通ったんだよ。


この道はほら、みての通り公園の一部と言っても本当に隅の方だから電灯が少ないし、木が鬱蒼と茂ってるから朝の通勤でも暗く感じるんだって。

で、夜ともなるとこんな感じで明かりがポツポツと十メートルおきにしかないから、一人で通るとなると心細いし怖いんだって。


あまり通りたくない道なんだけど、やっぱ駅への近道だし、早く家に帰りたいからその日もこの道を通ったんだって。

姉ちゃんは急いでこの道を通り抜けようとしたんだってさ。なんでかって次の電車にギリギリ間に合いそうだったから。


そして半ばまで来た時。


急ぐ姉ちゃんの目の脇に白いものがふっと映ったんだってさ。

で、目の脇に何かが映ったから姉ちゃんも小走りで右を見たんだって。


そうしたらさ、なんか人が立ってたんだってさ。


だけどおかしかったんだって。

服は良く見たら縦縞の古そうな着物で、夜にこんな着物を着た人が茂みの中にいるかって。


しかも一番おかしいって思ったが高さだったんだって。


すげー背がでかかったんだってさ。男だとは分かったんだけど、視線の先に帯が見えたんだって。

腹だぜ?姉ちゃんそんなに背ぇ低くないのにさ。


その男はゆっくりと指を広げながら手をこちらにスルスルと伸ばしてきてさ、姉ちゃん気づいちゃったわけ。


その男の足は地面について無いって。


で、見なければ良かったのに、思わず見あげちまったんだって。


その顔がさ、ぼやけてたんだって。


ほんと、目鼻口がしっかりとしてなくてぼやけて見えたし、おかしいじゃん?こんな暗いのに、顔がぼやけているのが分かるとかさ。


姉ちゃんはそこでようやく気づいたんだって、「これはこの世の人ではない」って…。



モヒカンはそこまで話すと、ゾゾッと体を震わせた。

「で、姉ちゃんはもう無我夢中で走って逃げたんだって…」


話し終わって、モヒカンは二人の顔を見た。静かな沈黙がしばらく流れ、


「それ痴漢じゃねえの?」


と二人が声を合わせて言い、返ってきた返答が予想外でモヒカンはガクッとこけた。


「違う!」

モヒカン男は力強く言うが、


「ってか、お前の姉ちゃんそんなに美人なのかよ」

「どーせお前とそっくりな不細工な姉ちゃんだろ、写真ねえのかよ」

とスキンヘッドとリーゼントは茶化すようにケラケラ笑っている。


モヒカンは、

「けど、姉ちゃんは結構霊感があって…」

と、どうにも譲れないようで必死に言い続けるが、二人はまともに取り合わずに適当にあしらった。


「はいはい分かった。分かったから落ち着けよ」

「信じてないだろ!」

モヒカンは憤慨したようで怒った声で怒鳴った。


これくらいの小競り合いはよくあることなのでリーゼントは

「お前って変なところで怒り出すなー」

と笑い、ふっと静かになって横を見た。


その目の動きに気づき、モヒカンとスキンヘッドも顔をそちらに向けた。


そこには木がある。


地球温暖化が騒がれ始めた時期、緑化を望んだ偉い人が考えなしに木を植えすぎたせいでこの小道には木が鬱蒼と茂っている。

そんな何の変哲の無い木だが、妙な感じがした。


「あっ…!」

モヒカンが声を上げた。続いて、スキンヘッド、リーゼントも気づいた。


木の陰からゴツゴツした男の手が覗いている。


すると、つつっと手の上から何かが現れた。

頭だ。人間の頭がジワジワと木の陰からせり出してくる。


「う、うわああああ!」

三人とも、一斉に叫び声を上げて駆け出した。


「いぎぃいいい!」

「いやああああ!」

「マジか!あれマジか!」


各自好き勝手に叫んでいたが、一番手前を走っていたモヒカンが何かに蹴躓いて倒れた。


そして後から二人が倒れこんだ瞬間、三人の足元からゴリゴリと固い音が聞こえたが、三人はすぐに起き上がると再び走り去っていった。


その走り去った三人組を見つめるのは、木の陰に隠れた男である。この男は幽霊でもなんでもない、生きた人間だ。


しかしこの男の出で立ちは、季節にはそぐわない膝まですっぽりと隠れるトレンチコート。そこから覗くのは、毛深い素肌である。


「ふん…!この俺の痴漢スポットを、男が汚すのは許さないぜ…!」


この痴漢は走り去った三人組に中指を立てて捨て台詞を吐いた。


「しかし…」

痴漢は考えた。


この道は鬱蒼と茂った木々、そして電灯の少なさ、しかし知る人ぞ知る駅への近道という事で、仕事帰りや学校帰りの女の子たちが多く通る。


なのでこの小道は痴漢にとっては庭のようなものであり、自慢の宝刀を見せ付けた後に素早く逃げるにはもってこいの場所であった。


この痴漢はそのような理由でこの道を気に入ってよく出没していたのだが、どうもここ最近は女の子が通る頻度が下がってきているのだ。


通るのはサラリーマンや、今のような男の学生たちばかり。


男相手では見せ付ける気もないし、いくら待っても女の子が来ないので暇だし時間が勿体無い。


かといって、あまり地の利が無いところで痴漢行為をしては逃げ遅れて警察に捕まってしまうかもしれない。


「どうしたもんかね…」

痴漢はため息をつきながらトレンチコートの襟を正しながら歩きだした。


すると、先ほど走り去っていった学生たちが吸っていた煙草に火がついている。


「まったく、最近の若い者は!火事になったら大変だろ!それより学生が煙草を吸うなど、言語道断!」

痴漢に言われる義理はないだろうが、妙な正義感はあるらしい。


痴漢はプリプリと怒りながら煙草の吸殻をブーツでグリグリと消した。


と、痴漢の足の先に何かが見えた。

「ん」

そのまま視線を上げていくと痴漢は目を見張り、小躍りしたい気分になった。


目の前に女の子が立っているのだ。


黒く艶やかな髪の毛。その髪は長く腰よりも長い。前髪は頭の上で軽くつなぎ、後ろに流している。


暗闇でも映えるほどの白い肌、男心をくすぐるような潤んだ黒い目、真っ赤でプクッとした唇。可愛らしいともいえる顔立ちであるのに、大人の色香をまとったその体の豊満さ。


そして何より一番しびれるのがその雰囲気だ。

まるで絡み付いてくるかのような、誘われているかのようなその甘い雰囲気。


「(じょ、上玉だ)」

痴漢は一気に興奮し、トレンチコートの腰のベルトをガチャガチャと外そうとした。


その女の子は、年のころは十代後半から二十代前半ほどであろうか。

どこかボンヤリとした表情で、薄く口を開いているその仕草もセクシーである。


「お嬢ちゃん、おじさんの…」

そこまで声をかけて、痴漢はふと気づいた。


その女の子の服装が白い着物なのである。それに裸足だ。


考えれば、いつの間に自分の傍に寄ったのであろう?

公園の芝生はしっかりと整備されているが、この雑木林の中はあまり整備されておらず、草がまばらに生えているところである。


草を踏めば音がするはず。痴漢行為を行うため、誰かが近寄る音には敏感なほうだ。


音も無く自分の前まで来るとはあまりに不自然…と痴漢が考えたのはここまでであった。


まるで花がほころぶように女の子が自分を見て笑ったのである。


思わずその女の子の笑顔に引き込まれた。

今まで様々な女の子を見てきたが、ここまで妖艶に且つ愛らしく微笑む娘は見たことがなった。


思わず鳥肌が立ち、言葉無くその女の子を見つめた。


女の子は愛らしく微笑んだまま黒目がちの目で自分の目を見据え、その細くしなる指をソッと上げると自分に向かってチョイチョイと軽く上下に動かした。


招かれている。


普段なら顔をしっかり見られないために一定の距離を取るところであるが、思わず一歩、二歩と女の子の傍へと操られたように近寄った。


間近に寄ると、女の子はツツッと近寄ってきて、自分にしなだれかかってきた。


その匂いは何だろう。香水…いや、どこか線香のような気もするが、甘い香りがする。


「…よぅ」


耳にか細い声が聞こえてきた。


声のしたほうを見ると、女の子がどこか甘えるような顔で自分を見て、首に腕をスルスルと伸ばしてきた。


その首に触れる腕があまりにヒンヤリとしていて、思わず背筋がゾッとする。

「お腹、空いてるんですよぅ」

鈴を転がすかのような声ではっきりとそう聞こえた。


「え?」

と女の子の顔を見ると同時に、女の子の弧を描く眉の上と、目の下にピッと線が入った。何事かと痴漢が目を見開くと、女の子の顔の線が開いた。


目玉だ。


潤んだ黒目がちの目とは違い、瞳孔が開いたかのようなギョロッとした黄色い濁った目が四つ、自分を見据えている。


「ヒッ」


痴漢は女の子を振り払い逃げようとしたが、どうだろう。


その細い体からは想像できないほどの力で首を押さえつけられ逃げられない。


すると、女の子の体もボコボコと変形している。

「ああ、食事なんて、久しぶり…」

女の子の声が耳元をかすめ首筋に伸び、何かが刺さった感覚がした。


そこから次第に目の前が霞んで行き、記憶が途切れた。

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