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化け猫のりんごさん  作者: 石山乃一
化け猫ことはじめ
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公園の小道

夕日もとっぷりと沈み、時間帯は夜へと変わって行った。

次第に家へ帰宅する人の通りが多くなり様々な話題で道は騒がしいくらいだ。


しかし、りんごは人通りの少ない道を歩いていた。


お兄ちゃんを倒した男たちの身元を確認するためである。そう、世界征服した後、お兄ちゃんを倒すための軍勢に入れるために。


「(けどニャ~)」

りんごは困った顔をした。


この通りの先に合流する道にはあまり行きたくないのだ。


なんてことは無い。

区で作られた公園の隅にある、うっそうとした雑木林とそれなりに管理されている芝生で囲まれた小さい脇道である。


しかし、物心ついた時からりんごの目には一般の人間の目には見えないもの…平たくいうと幽霊、化け物、妖怪といわれるものがのだ。


りんごの住むこの谷地町は、元々の土地の因縁がらみで色々な物が近寄って来やすい場所なのだ。


中でもこのわき道である。


今は公園の一部として整備されているがここの道は昔、人間の死体が捨てられた場所であったらしい。


しかも死体だけでなく、じきに死ぬだろうと見込まれた老人、病人、怪我人までもがここに運ばれ置いていかれ死んで行った。


なぜ分かるのかというと、りんごには視えるのだ。

生きているままここに捨てられ、苦しみうめき、この世を嘆き悲しみ恨むモノたちの姿が。


その所為なのか、それとも間隔狭く植えられた雑木林のせいなのか。この道は昼でも暗く見え、ここを通って幽霊にすがられ気分を害する人間の姿を何度も見たことがある。


動物…自分や他の猫、鳥や犬もこの道は避けて通り、虫の声もこの雑木林から聞こえることはまず無い。


その事に気づくほど気配りのできる人間や勘の鋭い一部の人間もここには近寄らない。


その他の鈍い人間はここを駅からの近道だとここを通り、耐性の無いものは憑かれて倒れていく。


しかも今は日の暮れた夜である。完璧に向こうが活発になる時間帯である。


そしてお兄ちゃんを殴り倒した三人組はその第六感が鈍い連中であるらしい。

お互い談笑しながらその道をズカズカと歩いていく。


「よくこの中を歩いて行けるもんニャ…」


りんごはため息をつきながらあまり周りを見ないように地面を見つめながら歩き進める。幽霊と目が合ったら見えるもんだと思われ、付きまとわれる。


怖いわけではない。面倒くさいのだ。


野良猫時代に一度だけ情けをかけて幽霊の頼まれごとを引き受けたことがあったが、どこでそれを聞きつけたか、他の幽霊たちが自分も自分もと途切れなくやってきて、りんごは逃げるようにその町を去った時があった。


それ以来、そういう者たちとは一線を引いた付き合いを心がけるようにし、あまり係わりを持たないようにしている。


それが一番だ。


特に古くからいる者たちがいるところは危険だ。長年のつもり積もった様々なものが非常に重苦しいからである。


と、りんごの前に白い服を着たものが這いずってやってきてりんごを掴もうとした。


「ふっ」

りんごはその手に向かって息を吹きかけた。


すると、その手と主は突風に吹き飛ばされるかのように飛んでいって空中で消えた。

しかしまた現れ、こちらに向かってきて這いずってくる。


その苦しげな表情と爪を削りながら進んでくる様は助けを求めているのか、道連れにしようとしているのかもはや区別がつかない。


「数百年もそんな事してるなんて可哀想ニャー」


りんごはもう一度ふっ、と息を吹きかけた。同じようにその者は吹き飛ばされ空中で消え、そして現れ、同じように這いずってくる。


りんごは追い払う事はできるが、成仏させるなどはできない。そもそも成仏できる者は人の話が聞ける精神状態のものだけだ。


このように無我夢中に動いてる者は周りのいう事を聞き入れる精神状態ではない。成仏できるのは自分の状況を察知し、何もかも受け入れる者だけだ。


「つまり、僕は何もできないってこった」

りんごは自分に掴みかかろうとする手にもう一度息を吹きかけ、飛ばした。


もちろん、人間も対策をしているのは知っている。


雑木林の中で隠れるように置かれている石碑である。


そこに二つ…一つは古くからある小さなもの、そしてもう一つはきっとこの公園の道を作るときに作られたと思われる新しく大きな物である。


りんごはこの道と新しい石碑を見るたびにそこまでしてこの道を作らなくてはならなかったのかといいたくなる気持ちが湧いてくる。


見る限り新しい石碑は全く機能していない。

ただ石碑を発見した人を不安にさせるだけの不気味なオブジェである。


古い石碑は機能しているが、この場にいる者たちを悼み抑えるものではなく、もっと別の…。


りんごの脳裏に、その古い石碑の情報が流れてくる…。


が、瞬間、りんごの体が総毛だって膨らんだ。


「うおっ」

思わず飛びのいた。


いつもこうである。あの古い石碑を探ろうとすると体中がゾワゾワして毛が逆立つ。


りんごはその石碑を見て、その場をウロウロした。


お兄ちゃんを倒した男たちの家は押さえておきたいが、この時間帯にあの石碑のそばはできるだけ通りたくない。


どんどん遠ざかって行く三人組をりんごは名残惜しい表情で見送っていると、その三人とすれ違いに見覚えのある男が近づいてきた。


「お、りんごじゃないか」


その男からのっぺりとした聞き覚えのある声がした。りんごが見上げると、そこにはお父さん…屋久島家の父・和義が立っていたのだ。


「何だ、お父さんニャ!」

りんごは嬉しくなってお父さんの肩に飛び乗った。


「お父さんお帰りニャー、今日も疲れたニャ?ふふふ、早く家に帰って一緒にご飯を食べるニャー」


そう話しかけ、肩の上で和義の頬に頭をゴリゴリとこすりつけるが、お父さんである和義にはニャーニャーとしか聞こえない。


「はいはい、分かった分かった」

和義はりんごの頭を押さえつけ、頬から離した。


和義はそのままりんごが来た道を歩いていく。りんごは後ろを振り向いて、お父さんを見た。


「ここをすんなり通るなんて…やっぱり屋久島家の人間は鈍い奴ぞろいニャ~」


りんごはそう言いながら満足そうにお父さんの頬にまた頭をこすりつけ、そしてお父さんに引き離された。


そんな事を繰り返し、りんごはお父さんの肩に乗ったまま家へ帰宅する。


「ただいま」

いつもの通りに挨拶をするが、返事が無い。それに家の中が妙に慌しい雰囲気が漂っている。

和義は何かあったのかと足早に家の中に入った。


すると、こちらに背を向けた龍二の周りで妻の良子が泣き出しそうな顔で言葉次早に話しかけている。


「どうしたのこの顔!誰にやられたの!いってみて!」

「うっせー、ほっとけ」


心配する良子をよそに龍二はあっさりと突き放すような一言を言う。


龍二の前に回った和義は、腫れ上がった顔を見て慌しさの原因が分かった。


「殴られたのか」

「ふん」


龍二は不愉快そうな顔をしてそっぽを向いて立ちさろうとした。


「お兄ちゃん、顔は怖いけど喧嘩は弱いのにね」


妹の八重は心配しているのか茶化しているのか良く分からない事を言って兄の背中を軽く叩いた。龍二は鬱陶しそうに妹の手を体を揺すって払いのける。


「あーあ、顔が腫れたのニャ?」


りんごが和義の肩から飛び降りて、龍二の前に回って顔を見上げた。

それに気づいた八重が、ニヒッと笑ってりんごをヒョイとすくい上げ、龍二の目線にりんごを持ち上げた。


「ほら、お兄ちゃん!りんごちゃんも心配して寄ってきてくれたよ!」


妹なりに殴られた兄のことを心配して和ませようとしているのだろう。そして目の前の龍二の腫れ上がり変色した顔を、りんごはマジマジと見た。


「…これはこれは…随分と腫れて……」

しかし次の瞬間、りんごは噴出した。


「ブホッださっ」


それと同時にムカッときた龍二によって、りんごの髭がギチギチとひっぱられた。

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