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蒼炎の装者  作者: シママシタ
3/5

霧かかる心

説明回です

「やっぱり広いね〜。」


次の日の放課後、星奈は始に言われたとおり、始の家に赴いた。家は昔ながらのお屋敷で、小さいころからしょっちゅう遊びに行っていたのを思い出し、懐かしさを感じる。


「はい、ケーキとコーヒー。」


「あっ!これって商店街のケーキ屋さんのでしょ!」


「うん。星奈はあそこのショートケーキが好きだって言ってたからね。」


小さな頃から好きだったケーキ屋のショートケーキを目の前に子供のようにはしゃぐ。


「それじゃあ、いただきます!」


目の前にある、イチゴがまるまる2つも乗ったケーキを口一杯に頬張る。スポンジ特有のほのかな甘さとしっとりとした食感。そして程よく甘い生クリームと酸味の効いたイチゴが上手く混じり合い、思わず唸りそうになる。


「さて、とりあえず食べながら話そうか。まず、僕について話そう。」


「簡単に言うと僕は陰陽師なんだ。」


「陰陽師って……あのTVとかマンガで見るあれ⁉︎妖怪とかを退治するやつだよね⁉︎じゃぁ、式神とか使えるの⁉︎」


まるで、子供がおもちゃを買ってもらうように星奈はワクワクしながら、始に迫る。一方、始は冷静に対応する。


「まぁね。でも星奈の認識はちょっと違うかな。僕たち、陰陽師の仕事は妖を滅するだけが仕事じゃない。妖が人間の領域を、逆に人間が妖の領域に深く入らないように監視したりとか主な仕事で……簡単に言うと妖と人間を取り持つ警察ってことかな?」


「へぇー。それだと妖も生きてるみたいな感じだね。」


「……うん。熊とか野良猫のようなイメージも持ってくれればいいかな?」


妖に対するイメージが中々掴めずにいたが、始の例えで何とか理解することは出来た。


「なるほどね。でも、昨日は妖と戦っていたよね?何で?」


「あぁ。あれはね、妖の中でも上位の存在である鬼と呼ばれるものなんだ。」


「鬼?」


鬼と聞いて、星奈は怖いイメージを連想する。同時にそんな怖いものに追われていたのかと再確認し、改めて自分が危険な目にあっていたことも同様に確認する。


「うん。妖と一言で言っても、たくさんの種類がいるからね。人に友好的な妖もいれば逆に反抗的な妖もいてね。鬼はその後者だね。」


始は星奈の空のコーヒーカップを取り、コーヒーにおかわりを注ぐ。そして、また星奈の前に戻し、話を続ける。


「あの鬼は前から被害を被っていたからね。それで僕はあの鬼と接触して、滅しようと追跡していたんだ。その最中に星奈が巻き込まれたって話だね。」


「えっと……そういうことは……私って……」


「うん、相当危なかったね。」


「ご、ごめんなさい。」


さらに、あの鬼がとても危険な存在であったというのを教えられ、恐怖をも通り過ぎ、申し訳ない気持ちになる。


「正直、僕も装像式使いじゃなかったら危なかったよ。」


「そうぞうしき?それってあの鎧のこと。」


あの青い鎧が思い浮かぶ。青い炎を纏った戦士。思わず見惚れてしまうほど綺麗で神秘すらも感じたあの姿。あの青い炎によってなのか、あの姿が目に焼き付けられ、忘れることが出来ない。


「うん、式神の一種さ。まず式神って言うのは妖に対抗するために作られた兵器さ。」


兵器。星奈はその言葉の重さが理解出来ず、ただの言葉として聞き流した。


「そして、式神は基本的に五行のどれかに属していて、陰陽師は五行のうちの1つを使い、極める。全部の属性を使う人はあんまりいないんだ。」


「じゃあ、全部を使う始君は?」


「まぁ……例外だね。」


始はコーヒーを啜り、一息をつく。


「そして、式神には基本的に三種類あるんだ。まず1つは……」


始は服のポケットから様々な線が引かれた札を取り出し、星奈の見せる。一体、こんな紙切れから何がどう出るのかと星奈は不思議でたまらなかった。


「技式と呼ばれる式神さ。名前のとうり、『技』そのものさ。」


そう言って、始は掌に赤い式札を置く。すると、札から突然、青い炎の球が現れ、掌の上に浮く。


「こうやって炎の球を出したり、風を起こしたりすることが出来るんだ。」


手品のように軽々と扱うマジシャンのような始。その姿を目を輝かせながら星奈はジッと見つめる。


「そういえば、始君が使う炎って何で青いの?」


「オーラのせい。」


「オーラ?」


「うん、素質の高い陰陽師に見られる現象。相性の良い属性の式神を使うと、式神が自分のオーラに染まるんだ。」


始は淡々と説明するが、難しそうな星奈を見 て、気を使い、説明を止める。そして、別の式神を出す。今度は青白い狼が現れ、星奈は驚き、一歩後ずさる。


「お、狼⁉︎」


「大丈夫。僕が操ってる限り、星奈に被害はないよ。」


何だと呟き、ホッと胸をなでおろす。もしかしたら、このまま食べられてしまうのかと星奈は思っていたのだ。


「それで、この獣式は僕達の代わりに戦ってくれたり、妖の索敵なんかが役割の式神。因みにこれは青星っていうんだ。」


青星と呼ばれる狼は、殺気も何も漂わせず飼い主である、始の元に擦り寄る。そして、始は青星の頭を撫で、青星は気持ち良さそうな顔をしてその場に座り込む。星奈は狼だからといって驚いたことに後悔した。こんな犬みたいなのに、恐る要素はなかったのだから。


「最後に武式。これは武器になる式神。妖に対する封魔効果があるのが特徴だね。武器と言っても銃とか刀とかがあってね。僕は刀を使ってるんだ。」


そんなふうに星奈が思っていると、いつ間にかに青星はいなくなっており、代わりに左手には刀が握られていた。


「ほへぇー。あれ?三種類?装像式は?」


「装像式か……あれは特別でね、ごく一部の陰陽師しか使えないものなんだ。だから、基本的な式神には入らないって話なんだ。」


「そうなの⁉︎それじゃぁ、始君すごいじゃん!そんな特別な物を使えるなんて!」


星奈の目が尊敬に満ちたものへと変わる。誰にでも使えないようなもの、始は使っている。それが本当にすごいと思ったのだ。

だが、始の表情は曇っており、時折、悲哀の表情を伺わせていた。


「いやいや、そうでもないよ。それにこの街にはもう1人だけ装像式使いもいるしね。はっきり言ってあいつの方が強いしね。それにあの方法なら装像式は……」


「どうしたの?」


そんな始を見て、星奈は心配になり、声をかけるも、始は無理に笑顔を作って心配をかけまいとする。

それが、星奈にとって不愉快に感じた。まるで、気を使わせてるようなのが嫌なのだ。昔はもっと分け隔てなく、色々話していたのにと思い返す。


「いや、何でもないよ。他に何か聞きたいことがあるかい?」


「そうだね……あっ、なんで私は始君のことを忘れていたのかかな?」


星奈が一番気になっていた疑問をやっと投げかける。その疑問に始は覚悟を決めたような表情になり、真面目な雰囲気へとなった。


「それか……あれは……うん、星奈が妖に襲われたのは思い出しているかい?」


「う…うん。」


思い出してるというのは少し違う。ずっと夢として見ていた。だから、記憶の一部として既になっていた。だからこそ、疑問を抱いたのだ。何故、あの部分だけ、夢として出てきたのか。何か、大切なことを訴えかけてる。そんな感じがするのだ。


「小さいころにあんな出来事があると、トラウマになって、いろいろ問題があるからって親が考えて……。それで、その部分だけ記憶を失くさせようとしたんだけど……」


確かに既に、見続けていたせいで少しトラウマになりかけてはいた。しかし、結果として始と再会するきっかけになったのも事実。終わりよければ全て良しと開き直った。


「けど?」


「親がね、ちょっと間違えたらしくて、妖の記憶と共に僕の記憶も一緒に消してしまったんだ。」


「そ、そうだったんだ。」


なんだか腑に落ちない答えだったが、それが事実なら始からは以上のものは得られない。ならと、当の本人に確認しようと、両親がいるかと始に聞く。


「それで、お父さんとお母さんは?」


「あぁ……遠くに行っちゃったからね。今は家に居ないんだ。」


「そっかー。とりあえず、挨拶したかったなぁ。」


残念なことに両親は居らず、さらに遠くに行ったのなら、恐らく当分は帰ってこないだろうと、星奈は考えた。そうとなれば、これ以上はわかることはない。不本意だが、納得せざるをえなかった。


「……そろそろ、日が暮れそうだ。これでお開きにしようか。」


「あーうん。そうだね、昨日の帰りが遅くなった分、今日は早く帰ろうかな。」


「そうしたほうがいい。きっと、おばさんも安心するしね。」


壁に掛けられた時計を確認する。現在の時刻は17時を指しており、話を終えるにはキリのいい時間であった。ということで星奈はお暇するために玄関へと向かい、始は見送るために、一緒に付いていく。


「今日はありがとね。」


「別にどうってことないよ。」


靴を履き、お礼を言う。今日1日でたくさんのことを知ることが出来た。私の記憶について、始の本当の姿。


「ねぇ、始君?」


「なんだい?」


そして、知ったからこそ、始には何か助けになれないかと思った。


「私にも何が手伝えることってあるかな?」


「だいじょうぶだよ。この町にはもう1人の陰陽師もいるから。」


「でも私、心配なの!始君のことが……」


「星奈は僕の心配なんてしなくていい。」


冷たく、星奈へと突き返す。わかっていた、こんな答えが帰ってくることは。考えてみれば、至極簡単。関係ない人を巻き込ませるなんてしない。それにあの優しい始だ。了承するわけない。でも、星奈だからいいって言ってくれるのじゃないかと星奈は本気で思っていた。

いや、言われたかったのだ。必要とされたかった。


「……わかった。じゃあね。」


「うん。気を付けてね。」


星奈の良さである元気は跡形も無く、ただ無気力に別れを告げ、始の家から去っていた。

そして、そんな星奈の背中を悲しそうに目で始は見送った。


「ごめん、星奈。君には悪いことをした。」


1人玄関に取り残された始は自分の言葉に後悔し、反省する。始自身も星奈の思いには気づいてはいた。しかし、それをわざわざ気づいていないフリをし、結果的に星奈を傷つけたことが何よりも後悔した。


「でも……君にこの戦いを巻き込むわけにはいかないんだ。」


拳をギュッと握りしめ、見つめる。そして、始は星奈と別れたあの日から今日までの出来事を思い返す。


「僕は君の傍にいてはいけない。それはわかってる。……でも、それでも僕は君を守りたい。」


はっきり言って最悪の出来事しかなかった。自分の我儘でたくさんの人を傷つけ、奪っていった罪。そして、それを抱えて生きる断罪の日々。


「君を守ることで罪滅ぼしが出来るとは思ってない。これは責任なんだ。僕が引き起こした……責任。」


だが、始は後悔などしていなかった。そうでもしなければ、自分の守りたいものなど守れないのだから。

力のある者が、全てを決め、思い通りに出来る。それが戦いの世界。ただ、始はその世界の摂理に従ったまでなのだ。


「星奈、僕のために、夢の為にも君には生きてて欲しいんだ。いや、生きなくちゃいけない。僕の命に代えても、君は生きるんだ。」


始は改めて自分の覚悟確認し、そして家の奥へと消えていった。


始に対する不信感が募る一方、それでも始の力になりたいという思いも強まる星奈は、個人で行動することを決める。

しかし、その最中に妖の事件に巻き込まれてしまう。緊迫した状況の中、星奈の元に新たな陰陽師が現れる


次回 岩鉄の戦士

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