始まりの日
始めまして。シママシタと申します。
陰陽師ものの小説となります。これからもよろしくお願いします。
日は沈みかけ、あたりをオレンジ色に染める。しかし、この森は一層闇が深まるばかり。
「パパ…ママ…」
少女が暗い森の中、今にも消えてしまいそうな声で助け呼んでいる。
少女は後悔していた。何故こんな所に来てしまったのか。ちゃんと両親の言いつけどうりに、家で留守番をしていればこんな怖い思いしなくてよかったと。
元凶はふと耳にした声。何処から聞こえているのか?誰の声なのか?そんな情報はわからなかった。だが、確かに少女のことを呼んでいた。そして、その声に誘われるがまま、この暗い森に来てしまったと訳だった。さらにやっかいなことに、気がつけば何処から来たかもわからず。しまいには声すらも聞こえなくなってしまい、訳も分からないまま現在にいたる。そんな状況の中、少女は森から出るためにフラフラと森の中を歩いていた。
突如、背中に寒気を感じた。体がガタガタと震える。季節は春。いくら夕方の森の中だとしても、震える程の寒さにはならない。では、どういう訳か。それは後ろを振り向けばわかることだった。
「ヒッ!」
不気味な女性が、不気味な笑みを浮かべながらユラユラと立っていた。少女の倍以上、いや、少女の父親の倍程の高さ。白い着物着ており、髪は足元に付くほどの長さ。そして、異様な程白い肌が真っ赤な目を引き立たせていた。
「ひぃやぁぁぁ‼︎」
掠れた悲鳴を挙げる。ガタガタガタガタと震えが止まらない。恐怖が体を支配する。そして、本能は頭を支配する。逃げようと試みても体が全く動かない。
(に、逃げなくちゃ……でも、体が……)
まるで、自分が自分ではないかのよう。矛盾した思いがせめぎ合う。
「だいじょうぶよ…」
白い女が少女は妖しく、そして、優しく話しかける。その声は先程まで、少女を呼ぶ声と同じだった。
「た…す……て…」
恐怖で声が出ない。出したくても出ない。少女は涙を流し、引きつった表情で白い女を見た。
震える声で助けを呼ぶが誰にも届かない。
「つぎおきたときには、わたしのおなかのながだからぁぁぁぁぁ‼︎」
「いやぁぁぁぁぁぁ‼︎」
白い女は少女を丸呑みに出来そうなほど、大きく口を開けた。少女は恐怖で叫び、気を失い始める。
朦朧とする意識の中、様々な思いが駆け巡る。言いつけを守れなくてごめんなさい。最後に友達にさよならが言いたかった。ケーキが食べたかった。おもちゃが欲しかった。
私はここで死んじゃう。少女はそう悟った。ふと、ある少年の背中が思い浮かぶ。少女にとって、家族同然に大切な存在。いつも弱い私を守ってくれたヒーロー。
ーーーなーーー
最後に会いたかった。
ーーせーーーーーな
聞き慣れた声で誰かが少女を呼ぶ。
「せいなっ‼︎」
ここで、少女の意識はプツリと切れた。
♢♢♢
「う、ふわぁ。」
列車はトンネルを抜け、暖かな太陽の下に現れる。列車の窓に眩しい光に差し込み、その光に気がつき、春海 星奈は大きなあくびをしながら目を覚ます。
長旅疲れからいつ間にかに寝てしまっていたようだ。半覚醒のまま、目的地の駅までどのぐらいかを調べると後2駅であり、乗り過ごしていないことを確認し、安心する。
ひと段落したところで、先の夢のこと考える。
小さい頃からずっと見ている夢。いつも同じところから始まり、同じところで終わる。
一体、あの少女は安否はどうなったのか?そして、あの少年は何者なのか?
この夢を見るたびに同じことを思う。そして、憂鬱な気分ともどかしさが入り混じる。
「……所詮、夢だよね。考えても……仕方がない」
これ以上考察してと特に得るものはないと頭を切り替え、気分転換に窓の外を見る。綺麗な青の海が水平線まで広がっている。ふと、窓にうっすらと映った自分の姿を見る。一際目立つ、オレンジ色のポニーテール。
大きな瞳に長いまつ毛。寝不足なのか少し肌ののりが悪いようだった。もう少し化粧してくればよかったと星奈は心の中で呟く。
『次は〜文目町〜文目町〜』
アナウンスが高々に目的地を伝える。
すると、星奈は傍にあった荷物を持ち、席を立つ。
『文目町〜文目町』
ドアが開く。星奈は期待と不安を抱きながら、懐かしの地へ足を踏み入れた。
♢♢♢
文目町。母方の祖母が住んでいるため、星奈は幼い頃たびたび足を運んでいた。年を重ねていくにつれ、足を運ぶ頻度が少なくなった。
星奈はこの文目町に来るのは約10年ぶりだった。両親が海外に仕事に行くことになり、最初は星奈も一緒に行く予定だった。しかし、星奈が日本を離れたがらず、急遽、祖母に家に預けられることになった。
「んん〜、いい天気。」
懐かしの地の匂いと風を感じながら悠々と祖母の家に向かっていた。すると、その途中である屋敷が目に入る。それは木造の武家屋敷。なかなかの風情があり、歴史を感じる建物だった。
幼い頃に何回か通ったことでもあったのだろうか、星奈はこの屋敷を知っていた。
「ねぇ、君?」
「は、はい⁉︎」
屋敷の前で立ち止まっていたのを不審がられたのか、横から声をかけられる。星奈は背筋を貼って、返事をして、声がした方を向いた。
そこにいたのは少年だった。第一印象は大人のようで、落ち着いた人。身長は星奈より一回り大きく、モデルのような体型。少しツンツンとショートヘア。そして、神秘さえ感じられる透き通った青色の瞳。年齢は恐らく、星奈より一つか二つ上だろう。そして、何より整った顔立ちが一際目を引き、思わず青年の顔を凝視してしまう。
「あの、僕の顔になんかついてます?」
「あ、いや……」
気まずい空気になり、星奈は視線を外す。あまりにも少年の顔立ちが好みどころか昔から思い描いていた理想の男性像そのものだったので、思わず気を取られてしまった。
「まぁ、いいや。ところで君はこんなところで何をしていたんだい?」
「あっ……なんかこのお屋敷が立派だななんて思ってて……」
「ふぅん、それで魅入ってたと。」
「はい」
これ以上変な人とは思われないように上手く受け答えをする。
「そうかい。いやー、この屋敷の住民としては鼻が高いことだ」
星奈は驚きで口を大きく開ける。目の前にいるこの少年がこの立派お屋敷に住民ということに。それ以上にこのお屋敷が住めるということに驚きを隠せなかった。
「えっ⁉︎そうなんですか!?いいなぁ、私もこんなお屋敷に住んでみたいです!」
「…うん、そうだね」
青年がやけに哀しげな表情で答える。気付かないところで失礼なこと言ってしまったのかと、星奈は心配になる。
しかし、少年は直ぐに表情を元に戻し、話を続ける。
「なら、今度遊びにおいでよ。」
「えぇ⁉︎いいんですか?」
青年に誘われ、星奈は快く受ける。普通なら遠慮するはずだが、この時何故か、星奈は遠慮という考えが思い浮かばなかった。
「もちろん、ショートケーキ買って置くからさ。」
「本当?やった‼︎私、ショートケーキ大好きなんだ♪…あっ、すいません…急に馴れ馴れしくなって…」
つい高ぶってタメ口で話してしまったと星奈は反省する。青年を一瞥する。すると、青年は怒るどころか少しだけ嬉しそうにしていた。
「あの、どうかしました?」
「べ、別になんでもないよ」
少年はバツが悪そうに答える。
「それじゃあ、私はこの辺で。あっ、私、春海 星奈って言います。今日をこの町に引っ越してきました。どうぞ、これからもよろしくお願いします‼︎」
「僕は神代 始。よろしくね。星奈ちゃん」
始が星奈の名前を呼んだ時、星奈は何とも言えない安心感に包まれた。
まるでパズルのピースがはまったようなしっかりとした感覚。
「それじゃあ、また今度、遊びに行きますね。神代さん。」
最後に始にお別れを言ってその場を後にした。
祖母の家に向かって歩みを再開した後、星奈は始のことについて考えた。初対面にしては初対面らしい感じがしなかったこと。そして、始から懐かしさと安心感を感じたことを。
どうでしょうか?感想等お待ちしております。
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