異世界旅情編:第5話 「熱志!おはようございました・・・」
主人公が主人公していませんが次回からそろそろ・・・
冷たく暗い世界・・・体を動かすこともできず、意識だけが覚醒している・・・
「ああ・・・また、ここか・・・」
滝壺におちて人生の終わりを感じたあの時と同じ・・・
「また、死ぬのか・・・いや結果的に生きてたけど・・・こうして考えられるってことは仮死状態ってことか?」
なにか自分の中身が半分ぽっかりと欠けたかのような喪失感がする
「俺・・・今度こそ死ぬのかな?・・・あ~死ぬんだったら色々やっておけばよかったな・・・ちくしょうぅ・・・」
(・・・・・)
「彼女・・・欲しかったなぁ・・・童貞のまま死にたくなかったなぁ・・・」
(・・・・!)
「本気の親父に勝ちたかったなぁ・・・」
(・・・)「・・・っ!」
「もっと・・・旨い物食べたかったなぁ・・・結局、味噌や醤油作れなくて全部塩味だったし!米無いし!炭酸飲料無いし!ビールも!焼酎も!日本酒も!!飲み会も無いし!愚痴に付き合ってくれる奴もいないし!笑わせてくれる奴もいないし!相談に乗ってくれる奴もいないし!!あと・・・」
「・・き・・・つ・・・!!」
「ははっ、そうか俺・・・馬鹿だなぁ・・・一人が嫌だったんだ・・・信じて欲しかったんだ・・・悔しくて!悲しかったけど・・・また、家族とか仲間と旨い物食いながら話して笑って、困って、泣いて・・・平凡だけど、幸せに・・・なりたかったんだ」
「・・・・・・」
「俺は!死にたく・・・無い!生きて、幸せになりたい!!」
「だったら、幸せになれるよう正直に生きればいいさ・・・」
「・・・・・・・・・・え?」
胸に暖かいものが触れ・・・欠けた物が流れ込んできて体を満たすような・・・
バチバチッ!!バリッ!!
激痛が走り・・・意識を刈り取られた・・・
「村長!!このままじゃ!!」
「分かってる!分かってるがどうしようもねぇだろう!!」
集会場はかつて無い人口密度になっていた
「ああっ!窓に!窓に!!」
「くそっ○れがぁ!!」
窓に椅子を突っ込み剥がした床板で補強して塞ぐ!
「くっそ!このままじゃ・・・武器は何がある!!戦える者は窓とドアを塞げ!一歩も入れさせるな!!」
洪水で住処を追われた動物の来襲・・・最悪なことに獣は肉食・・・群れを作る動物で獰猛・・・飢えている・・・唯一の幸運は早期の発見により残った家屋と集会場に分散して避難が間に合ったことくらいだ
「ひぃぃぃ!!」「おかぁさーーん!」「バリケードが!!うわぁあああ!!」「外はどうなってるんだ!!」「もうだめだ・・・おしまいだぁ・・・・」「俺、これが終わったら告白するんだ・・・」「何かが壁を!」「屋根の上に、乗られたぞ!!」「エリック!上だ!!」「か・・・神様・・・」
「落ち着け!!入ってこられなければ俺達の勝ちだ!万一の時は・・・俺が守ってやる!!」
腰の長剣を抜き放つと、全員に見えるように掲げて宣言する
次第に落ち着きを取り戻す集会場であったが外からは獣のうなり声や遠吠え、壁やバリケードを破らんとする音、屋根の上を徘徊する足音が止むことはない
「アレン・・・あたしも戦うよ・・・」
「ステラ、今のお前じゃ・・・悪いが足手まといだ」
「アレンッ!!」
「お腹の子供に障るだろ?たまには俺にかっこいいとこ出させてくれよ・・・」
「だって・・・だって!あんたは足が!!」
アレンの足は治療はされているが包帯から血がにじみ出ており明らかに重傷である
逃げ遅れた村人をかばい負傷してしまったのだ、他にも何人も怪我人が出ており今も応急処置が行われている
「ステラ、俺に何かあったら子供達を頼む・・・」
「嫌よ・・・嫌っ!」
「ステラ!!!」
「!!」
大喝に辺りの音が全てかき消される
「俺は、お前の夫で、子供たちの親で、妻に尻に敷かれる男で、引退した3流の冒険者で、最近娘に避けられて泣きそうな男だ・・・そして、この村の村長だ。村の為に生きて、お前を含めた全員を指揮して、守らなくちゃならねぇ」
「あっ、あああぁ・・・」
アレンは屈み込み、泣き崩れるステラのおでこにそっと口付けをする・・・
「続きは・・・子供が生まれたらな」
片目を瞑り、おどけた感じで笑う
「ぷっ・・・あはははっ!ゲラゲラゲラゲラ!ヒッーヒィーーー!!」
爆笑された・・・
「続きはって!ウッププ!ウィンクで鼻の穴が膨れて!ブフッ!唇まで一緒に上っ!!アハハハハ!!し・・・死ぬっ!!」
台無しである・・・人生初のウィンクは未経験の中年にはハードルが高く・・・究極の変顔スキルと開花した(メルナル村:にらめっこ大会 殿堂入り確定)
「・・・村長・・・俺、何も見てませんから」
「村長・・・ププッ!・・・そろそろ指示を・・・」
「・・・・・・(俯いて何かを堪えている)」
「お・・・お母さん!しっかりして!!」
「ダメだ!笑いすぎで酸欠になっている!!そっと横にして気道を確保しろ!!」
「ステラちゃん!しっかり!!」
そんなコメディな空気とは関係なく破滅の音は刻一刻と迫っていた
ガリガリ・・・バキッ!ドン!ドン!タッタッタッ!アオーン!ヒタヒタ・・・ガッ!ガッ!バシャッ!
そして・・・バギャァ!!「アオォーーーン!!」
壁の一部が破壊され黒い猛威が侵入した
「くそっ!穴を塞げ!!うらぁあああああ!!」
駆け寄り一閃!両断の勢いで振られた剣は野生の反射神経でかわされる!勢い余った剣は床板を割り刺さり、次の行動を一手遅らせる!そんな隙を獣は見逃さない、柔らかな急所、喉元目掛けて牙が!
「なめんなぁあああああああ!!」
右腕を剣から離し、間に割り込ませる!喉を守ったが右腕は噛まれ犠牲になる。勢いで縺れ転がり・・・その後、立ち上がったのはアレンであった、割れた床板が腹に突き立てられた狼の死骸が残された
「狼風情が・・・人間様を舐めんなよ・・・」
壁はすぐに塞がれ、侵入は1匹で防がれたが・・・利き腕1本に対し狼1匹と代償は大きかった
「壁が持たねぇな・・・くそっ!」
決断のときが迫るのを感じていた、激痛に歯を食いしばり村長として告げる
「男全員・・・外に出る準備をしろ・・・」
「ど・・・どういうことです?」
「集会所の周りの狼を村の外まで引き付ける、可能であれば殲滅する」
「そんな無茶です!!」
「そりゃそうだ・・・無茶に決まってるだろ・・・」
「なっ!?」
「最低でも村の外まで意地でも引っ張っていく・・・その後は失敗してもかまわない・・・」
「何を言ってるんです?訳分からないです!」
「村の外で死ねば・・・あいつらの餌になるだろ」
「はぁぁ!?」
「あいつらは獣だ!洪水で餌が無くなったから村に降りてきたんだろ?だったら村の外で満腹になればそのまま森に帰るかもしれないだろ!少なくとも時間稼ぎにはなるだろう!後数日で救援が来るまで生き残れるかもしれないだろう!こんな集会場で全員殺されるのを待つのか!?覚悟を決めろ!!俺は足をやられ、利き腕もやられた!もう戦うことができない!!だけど皆を守るためにやるぞ!お前達はどうする!!」
男全員と村長が入り口でその時を待つ、残りの村人は入り口のバリケード撤去組と、バリケード再構築組、中央に怪我人、病人、老人、女子供が集団になって待機している
「行くぞ・・・引き付けられるように大げさに声を出していくぞ!」
「あ・・ぁ・・あ・・・」
「はいっ!」
「倒してしまってもかまわんのだろう?」
「ブツブツブツブツ(俺はデキルデキルデキル・・・・)」
「村長・・・最後まで着いて行きます!(ぽっ)」
バリケードが一斉に撤去され、扉が開かれ・・・ず
ガシャン!バラバラバラ!「ウォーーン!!」
ドガッ!ベキッ!「グルルルルルル!」
背後の壁と窓が突破された
「うっ、後ろだっ!!」
反応できたのはアレン!しかし、反応ができても負傷した足は付いてこれず無様に転倒する
転倒せずとも到底間に合わない、守るべき者は入り口に固まっており中央に集まった戦えない者達に獣達が襲い掛かる
「キャーーー!!」
「グルアアアアアア!!」
獣の牙は命を引き裂いた
男達が中央に駆けつけるまでの僅かな間に数人が犠牲になった
そのまま戦闘に入り室内中央の集団を囲うように増える狼に追い詰められ、にらみ合いになる
襲い掛るりその肉を喰らう飢えた狂気と死んでも守る覚悟が場を支配している
「・・・る・・・さ・・・」
「おじいちゃん!おばぁちゃん!しっかりして!」
「血が・・・血が止まらない!」
「グルルルル・・・」
「殺してやる!殺してやるぞ!!」
「ガアッ!!」
「うわぁああああん!うわぁあああん!!」
「ウォーン!ウォンウォン!!」
そして、狂気と・・・覚悟が・・・塗りつぶされる
「うるせぇぞ・・・てめぇら・・・」
圧倒的な殺意によって
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