クスリはダメ、絶対!
あいつが奇行に走るようになったのは、去年の八月ごろだった――。
「……」
「よう」
机に脚を乗せ、へらへら笑いながら挨拶をしてくる。
部屋の中はまるで強盗にでも入られたかのように乱雑だった。
全くもって、情けないったらありゃしない……。
「へへ、俺とよりを戻しに来たのかぁ?」
「……」
「どうよ? この薬使って気持ちよくなろうぜぇ?」
「それ、覚せい剤でしょ?」
「ああん?違う、違う!」
「じゃあ、大麻?」
「そんなんたいそうなもんじゃねえよ」
「MDMAね――」
ひひっと、あいつは厭らしそうに笑ってくる。
「で、何しに来たんだ?」
「逮捕しにきたの。あんたを」
「お前が?くっくっくっ!笑る冗談は――」
「いや、嘘じゃないから。……やっちゃって」
ワタシの合図とともに、後ろから警察官や検察官たちが続々と乗り込んでくる
「……っ!」
あいつは一瞬驚いて抵抗して見せようとしたが、あまりにも捜査官の多さにすぐさま観念した。
「やりましたね!」
後輩がワタシに近づきそういってくる。
「ん……」
けどワタシは、複雑な思いだった。
ワタシはこいつのせいで人生をめちゃくちゃにされた。
こいつに気持ちよくなる薬だと騙されたのだ。
その後ワタシは意識を失い、気が付けばこいつに性的暴行を受けていた。
薬の影響で抵抗もままならず、最後までこいつにされるがままだった。
その後のワタシはいわずもがな。
ワタシは復讐を誓った。
そして、ワタシをだまし薬漬けにしやがったこいつを探していた。
そう、ワタシの人生をめちゃくちゃにしたこいつを……。
けど、何なのだろうこの喪失感は……。
ああそうか。こいつを逮捕したところで、何も変わらないからか。
こいつも、もし薬に手を出さなければ――。
「先輩?」
「ん、すぐにいくわ」
考えるのは辞めよう……。
ワタシにはまだやらなければならないことがあるのだ。
違法薬物から、か弱き女性を守るという役割が――。