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音楽中毒キラー

 音楽プレーヤーをもらった。喜んで音楽を入れた。

 イヤホンを耳に、手のひらサイズのプレーヤーを手に。

 聞きながら散歩でもしようと、外に出た。

 まるでドラマの主人公になったよう。足取り軽く、いつもより遠くへ。

 音楽に合わせて、裏拍をとるように足音をたてたり。

 人気の無いところでくるくる回ってみたり。

 楽しい。楽しい。


「ちょいと、そこのお姉さん」

 かすかに、そう聞こえた。


 そんな台詞、この曲にあったかしら。


 振り向いても誰もいない。気のせいだろう。

 陽気な音楽は徐々にラストへ向かい、次の曲へと腕を伸ばす。

 しっとりしたバラードに変わる。そう、これは確か、彼がくれたCDアルバムの最後の曲。

 近くにあったベンチに座って、目を閉じた。


「ねえ。お姉さん」

 また、ちらりとそう聞こえた。


 何よ、今私はあなたに構っている暇なんて。


 目を開けても誰もいない。気のせいだろう。

 何曲ほど入れていたかしら。

 小さな画面に映る曲名を眺めて思う。

 そうそう、この後に流行の新曲を入れてあるんだわ。

 CMで有名な曲。少しだけ首を揺らしながら空を見上げた。

 なんて幸せなんでしょう。

 なんて素敵なんでしょう。

 もっとたくさん音楽を聴きたい。

 でも空は夕闇に染まっていく。

 家へ帰ろう。

 音楽を聴きながら、夕飯を食べよう。

 テレビを見るより、音楽を聴こう。

 家の門をくぐると、最初の曲に戻っていた。


 音楽を入れている間、ラジオを流す。テレビを付ける。

 改めて思う。つまらない。リクエストなんてどうでもいい。さくらの笑い声もいらない。

 音楽が聞きたいのに。

 急いでイヤホンを耳にさした。

 ああ、これだ。

 両耳に流れ込む、音。音楽。


「……」

 誰かが何か言っている。

 どうせ誰もいないのだろう。

 ……これはもしかして幻聴だろうか。

 ふと不安になって振り返る。

 誰もいない。

 病院へ行った方がいいのかもしれない。

 不意に耳が涼しくなって、音が途切れて、空虚感が襲った。

「こっちだよ」

 流れ込む冷気より鋭く、その声は入ってきた。

 次の瞬間、頭に強い衝撃があって、それから――

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