オッサン、幼女を拾う
以前書いてたやつの改訂です。これって大丈夫なのかな?
酒、タバコ、女。この三つがあれば俺は何もいらない。世の中は不況だがそんなこと知ったこったゃない。俺は俺が楽しけりゃぁいい。 現にそうさ、数百年に一度の飢饉だとか言われようが夜の街はかわらねーんだ。露店商が声をあげりゃあそれに群がるアホどもがいる。暗い街に、明るい光り。全部が愉快さ。
手に持った空き瓶。すっかり冷え込んじまったが最後の一滴まで味わうように飲み干す。
酒だ。酒が足りん。
まだ酔い足りない。もっと酔わなければ、ふらふらになって記憶がぶっ飛ぶくらいに酔わなければ。じゃないと……。
「おい!クソジジイ!今日もただ酒かよ!テメーなんぞにやる酒なんてねーんだよボケ!帰れ!」
……惨めになる。
聞き慣れた罵声と共に周りからぶん投げられる椅子やゴミ。毎回このパターンだ。それまでは楽しく飲んでたやつらは俺が店に入った瞬間に冷めた目でヤジを飛ばしてくる。酒だ。酒が欲しいだけなんだ。こんな辛い現実をぶっ飛ばしちまうくらい酔ってしまいたいだけなんだ!気に入らない。気に入らない!俺は人生を楽しみたいだけなんだ。自由に生きて……何が悪い。
「うるせぇなぁ、はいはい、わかりましたよぉっと。出てきますから食いもん投げんじゃねぇよぉっと。ああ勿体ねぇ勿体ねぇ。」
渋々と投げられたもんを拾い集めつつも出口へと向かう。こういう奴らは話すだけ無駄だ。さっさと逃げるに限る。いいじゃねぇか、少し酒をたしなむくらいよぉ。それに値段がつくかつかないかっていう話だけだろ。。
中の冷めきった雰囲気とは反対に暖かい熱を持った扉を開ける。そんな外は雪だ。寒い。それまでほろ酔いだった俺の胸に質量感を持った鉄を乗っけられた気分になってしまう。冷たくて重くて外に出たくない。
それにしても寒い。本当に体の芯から寒い。浅く積もった雪はふらふらな俺の足取りを絡めとるようにしがみついてくる。今日はもう終わりだ。どこに行こうと追い払われるんだ。さっさと帰ろう。歩き慣れた裏路地を壁伝いながら辿っていく。いつもはこの廃れた感じの壁が好きだったんだけどなぁ。
世の理を表しているかのように高く立つ建物。狭い路地。そして夜道。一昔前なら一人でこの趣を味わっていたはずだ。
なのに、なのに今は何故かつらい。切り立った壁は俺を押し潰してしまいそうなほどの圧迫感を醸し出している。皆敵なんだ。寒い。体の芯から寒い。
たまらず屈んでしまう。何かが足に当たった感覚がある。だが、そんなことは関係ない。何故なら、いたたまれない位寒いのだ。体が言うことを聞かない。いっそもう歩きたくない。このまま、うずくまって死んでしまいたいと思う。そうすればどれだけ楽なんだろう。死んでしまえば苦しむ必要なんてないんだ。
ん?苦しむ?俺はなんで苦しんでいるんだろう?酒、タバコ、女。酒、タバコ、女。……あぁ今は全部持ってないのか。なんだ、単純な理由じゃないか。そうさ。俺が皆に無視されてるからってこんな気持ちになるはずがないんだ。絶対ないんだ。
次第に積もっていく雪が俺の体を覆いはじめる。
ふと思う。以前はこんなんじゃなかった。若い頃はもっとこう人生は希望に道溢れていて、楽しくて騒がしくて。何より夢があった。魔物を狩る時には命を実感できたし、次第に腕を上げていく自分にも酔えた。夢にまでみた英雄になれるとすら思っていた。なのに、なのに何でだろう。俺はどこで道を間違えたんだろう?
あぁ、そいやあ夢があったんだな。それが原因だった気がする。確か、英雄になるっていうな。今考えてみればとてつもなくアホらしいことを考えていたもんだ。物語の英雄なんかに憧れて貴重な二十代を鍛練につぎ込んでしまうなんて。なんであのとき周りの助言に素直に頷けなかったんだろう。何回も何回も才能が無いといい聞かせられてきたのに。英雄なんて所詮は物語さ。現実は一人で龍を倒すこともできなけりゃ、国を救うことだってできやしねぇ。目指すだけアホな話だ。なのになんで気付かなかったんだろう。
そうして気づいたのは30の後半に差し掛かってからだっけな。俺は大したことのない存在だっていうことに。あくまでも実力は一般人レベル。どんなに努力しようが英雄なんかにゃとどかねーんだってな。そっからだっけか?毎日酒のんで食って娼婦吹っ掛けて遊び始めたのは。楽しかったなぁ。これが生きていることかって実感したんだもんなぁ。そいやぁ、そんときくらいからだったな。今まで気にかけてくれてた皆が俺から離れてったのは。なぁんだ、やっぱり変な夢のせいじゃないか。
「俺は、英雄なんかじゃないんだ。」
「えっ?そうなの?」
突然下から聞こえる声。いや、俺の腹から聞こえる声だろうか。俺の薄汚い服の中にはこれまた薄汚い女の子がうずくまっていた。どうやら先ほどの違和感はこの小さな汚ない女の子だったようだ。ぴったりと俺にくっついている。自分でも分からない間に彼女を抱き抱える格好となっていたようだ。
「えへへ、おじさん、えいゆーっていうのはひとをたすけるひとのことをいうんだよ!」
そんなことは知っている。英雄はいろんな人をたすけるんだ。当然こんな弱々しい少女もな。飯を食ってないのかガリガリの体つきをしている。本来ならたすけるべきなんだろう。
「そうか。だかなガキ。俺は英雄じゃない。何故なら俺は誰も助けたことが無いからだ。今も昔もな。当然お前もだ。」
「ううん、そんなことない。助けてるよ。だってあったかいんだもん。おじさんあったかいなぁ。」
そういってギュッと俺の胸にしがみついてくる。相当寒かったんだろう。未だに体がプルプル震えている。
「やめろ、糞ガキ。俺はそんな出来た人間じゃねぇ。そんなもん求めんだったら白馬の王子様でも待ってることだな。」
「おーじさま?そんなひとひとまつひつようないよ。だっておじさんはえいゆーなんでしょ?だれかがいってたもん。えいゆーはひとにえいゆーってさとられることをきらうって。だからあたしをたすけてください。ここはくらくてさむいんです。」
弱々しく、震えるガキ。どうやら死にかけているらしい。呼吸がとても浅くなっている。
この街ではありふれた光景だ。人の命は容易く消える。当然、いつもの俺だったら見捨ててただろう。
だけど、何故か今日だけは見捨てられなかった。
こんな死にかけのガキ見捨てたら後味が悪い。はぁ、ガキは嫌いなんだよ。めんどくせぇ。
仕方ないから一旦助けてやるか。これは気まぐれだ。さっさと終わらせて寝てしまいたい。はぁ、めんどくせぇ。
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