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深い森と荘厳な山々に囲まれ、自然の恩恵と人の技術を共存させる国、ドルマン。
その名は陸続きに広く知れ渡り、活気ある中心部には隣国からの商人をはじめ、学者や画家と様々な生業のものたちがそれぞれの業を学ぶ姿があった。いまや百数十年前に収束をみせた諍いの名残も薄く、その教訓を活かすかのように、衣食住のみならず知や和といった面での豊かさをも求めた国はいつしか民衆の意を得ることに成功し、時代の大きな先駆けとなるべくその躍進を遂げたのである。
近隣各国との国交を結び、現在の友好関係を築いた三代前の国王は勿論既に天上の人となってはいるが、その誉れは今尚讃えられ、この土地に住まう人々の誇りともなっている。故に彼の意思を継ぐとされる王族への信望も他国とは明らかに異なり、そんな彼らが信頼に足ると認めた重臣たちもまた同じように尊い目で見られてきたのである。
幸いなことに続く指導者たちも優れた人格者に変わりなく、その人選も確かであったことから、国政を担う者たちと、国を盛り立てる国民との関係は非常に良好かつ理想的なものとして育まれてきていた。
しかしここにきて一つ、負の性質を持つ種が芽吹く。
一年前病床に臥せった現国王には後継となる息子がおらず、ただ一人、十二年前に行方知れずとなった娘がいたものの、彼女の足取りは年月を経た今でもつかむことが出来ない。その生死さえわからぬ姫を後継とするなど当然出来るわけもなく、頭を抱えた重臣たちはまだ年若い王の義弟を後の王座にと考えた。
しかしその教育を始めるも、ことのほか母に甘やかされて育った皇子は中々に手強い相手であり、国を思う者たちの間には憂いの表情が広がる現状が待っていた。
真に王を次ぐ資質を持つは誰か、という論議が目に触れぬ場で持ち上がり、それはやがて邪な損得勘定を含み始めた。真っ直ぐに伸びてきた道は、発芽した不穏なモノの成長にその開拓を危ぶまれることとなてしまったのだ。
決して小さくはない不安を内包しながらも時は味方になるはずもなく、残酷なほど変わりなく過ぎていく。
抱える問題をそのままに、国は一つの節目を迎えようとしていた。