第四咲 告白花
よく考えれば、全然話が進んでいませんね。
なので、今回は話をぐっと進めたいと思っています。
[Chiara]
ハーイ!キアラ&リーネの夜行性化してる方、キアラでーす!(本当にやってしまった)
さて、まずはネヴィルさん&ジェヒョン君(これからは保安官コンビとでも呼ぶか)の様子を見に行きますぜ!(今日の私のテンションおかしいな)
今は朝食の時間、ジェヒョン君がネヴィルさんにスプーンでスープを飲ませていた。はい、あーん的な体で。
私を朝から興奮させてどうすんのさ。
カメラのシャッターを切りそうになる。というより、切った。
と、
「キアラさーん?何やってるんです?」
突然後ろのドアが開き、学校の先生みたいな口調の女性の声が聞こえてきた。
でも、聞き覚えある声だな。
「あ、ロビンさん」
あ、そっか。でもそれにしては声低いな。
「わたくしは『種』、つまり裏人格ですよ」
え、マジか。
名前を聞いてみた。超有名人だった。
「『Hestia』になってみてどうですか?」
「まーわたくし結構オバサンですし?若返れて万々歳ですよ」
それは何より。
「それにしても、看護婦――看護師?わたくしの代とはまるで違いますね。男の人も増えたし権限も大きくなったし」
「チーム医療ってやつですね。ただ、専門家同士の連絡が不十分だと、1人1人言ってる事が違うといった事態になるようですが、ここではそれについて何か対策とかはなされてるんですか?」
「電子カルテは病院全体で共有できますし、院内専用電子掲示板のようなものでリアルタイムの相談も出来るんです。昔とはえらい違いですね。もう私が現役だった時は、わたくしが導入するまでナースコールすら無かったんですもの」
そうか。この人そういう事もやってたな。
何だかんだ言いつつ、彼女は会話の合間合間に、昨日まで意識混濁状態だったネヴィルさんに改めて診療の結果を報告していた。さりとて、私のプチインタビューが疎かになっているわけでもない。意識を集中させる方向を2つに分散しているのだ。
……すげえ。やっぱり歴史に残る人は違う。
「それでは、別の患者さんの所に行かないといけないので、今日はこの辺で」
「ええ。ありがとうございます」
「患者さんをいたずらに撮影してはいけませんよ」
去り際に、しっかり釘を刺されてしまった。笑顔で。
うぅむ。やはり歴史人物は違う。
次にカーチャちゃんの様子を見に――行こうとしていたら、後ろから爆音が近付いてきた。
「おはようキアラ」
見るとその正体は、黒いライダースーツに身を包みハーレーをぶっ飛ばすリーネちゃんだった。
いつもは、ガウェインさん&マリッサさん&セルジオさんに選んでもらった少し薄い黒のパンツスタイルなのだが、今日は濃く引き締まった色だ。
「私結構黒にこだわる女でね」
そんな人いるのか。
「おお、キアラじゃないか」
セルジオさんが警備員室から顔を出した。
「今日も見に来た」
「あいつの事か?」
「何なに?」
あ、なんか首突っ込んできた。
「おい働けよ運び屋!」
「は~い……」
怒られてすごすご引き下がったKYちゃんでした。
「あ、そうだ。昼仕事終わるから、午後からツーリング行かない?」
「いいぞ。どうせ暇だし」
「それじゃ、正午にここに、ね」
「あいよ」
リーネちゃんは再びハーレーに跨り、轟音を響かせて去って行った。
それを見送り、2人は警備員室の地下に降りて行った。
カーチャちゃんは、『Athena』の事を色々話してくれた。
「元々信乃以外には、『種』が無いってことで虐められてたんだ。今さらどうでもいい」
アンドロイドも人間のように差別するのか。果たして、人間の影響か元の記憶の影響か。
「リーダーについては、あたしもよく分からないんだ。祠みたいな所に籠ってて、滅多に姿を現わさないからな。あたしだって見たのは1回だけだし」
その1回の感想を語ってくれた。
「名前はオグナとか名乗ってたが多分偽名だろうな。30歳前後かな?古代日本の巫女装束……卑弥呼が着てそうなやつ……って、分かるか?そんなのを着てるチャン・ツィイー似の美人だよ。噂じゃ相当ずる賢いらしい。『親株』の正体も不明で、処刑された凶悪犯とも、物腰は上品だって事から中国のある民族の王女とも言われてる。実際に、策略を駆使して敵国の大将級の人物を皆斬殺した後自殺したっていう王女がいるらしいからな」
本拠地についても語ってくれた。
「やっぱり『Ultrasonic』があるロサンゼルスだな。最近じゃ、提携しているセントマイケル帝国が首都造る予定だっていうメルボルンに移設しようって案もあるよ。ただ、なぜか社長はナポリに執着しているらしいんだけどな」
「何でだ?」
「こっちが聞きたいよ。でも、戦う当の本人達の中で『Psyche』全体あるいは個人に恨みを持っているやつはほんの一握りだって事は確かだ。それにしては、社長の固執っぷりは異常だ」
「理由は?」
「うーん……。あたしらの間じゃ、シュタイナー博士にどんどん開発を先取りされてたからってのが定説だな。2028年の事件のせいって言ってるやつもいるけど。あと、最近じゃあたしと戦ったあいつ……カロリーネ・フォン・メンデルベルグ?との確執もあるって……。そいつと社長の姓が一緒だっていうから、案外親類だったりして」
「姓が一緒!?その社長って名前何ていうんだ?」
「ヴィーラント・フォン・メンデルベルグ」
聞き覚えがある名前だ。
……あいつでない事を望む。
「そりゃ、調べておいた方がいいかもな。色々貴重な話をありがとう」
そうして、2人は部屋を出た。
私は、幼少期の記憶を頭から振り払うのに必死だった。
時間があったので、リーネちゃんが戻ってくる12時までモルゲンシュテルン一家の部屋に入れさせてもらった。5階建ての最上階だ。
アッシュさんもなぜかいて、ベルンハルトさんと他愛無い話をしている。その横で私は、イレーネさんの新作スピリッツのデザインを考えていた。ロッテちゃんはアッシュさんの白鳩、デービスと遊んでいた。デービスは彼女にじゃれつかれても、攻撃するどころか大人しくしていた。本当に賢い鳩だ。こいつよりアホな人間なんてザラだぞ。
「あら。こんな時間に誰かしら」
ふとノック音がした。
女2人(少女は除く)がドアを開けると、そこには『Psyche』なりたてホヤホヤの若い女の子――確かマリーだったっけ?が立っていた。手紙を持っている。
「どうしたの?」
「あの……これを……」
「何これ。題名的に意見文かしら」
「はい……。リーダーもご存知でしょうが、私達は大方の人間達に理解されておらず、ゾンビ扱いする事も少なくありません。なのになぜ理解を求めるよう行動しないのか疑問に思いまして。それに、先輩方、特にカロリーネさんやガウェインさんは進んで『Athena』と戦っているのに、なぜリーダーは何もしないのかという意見もありました」
「なるほどね……」
彼女は繰り返し頷きつつ紙に目を通す。
「まず、理解を求めない理由?実は大分前、1回本当の機密以外を全て公表した事があるのよ」
「え!?」
ま、新人さんなら知らなくても仕方ないか。
「で、それで何も進展は無かったわけですね。今の状況を見るに」
「――どころか、生物にほぼ近い物を作ったという事で、創造主を穢したとカトリック教徒を中心にした連中から叩かれたわ。バチカンは、私達が自己複製、つまり生殖出来ないという事もあってか、あるいはロボットを認めたという前例があるからか何も言わなかったのに」
「えー……」
マリーちゃんは当然ガックリ肩を落とした。
「で、なぜ私が戦わないか、ね。よく聞かれるのよ」
そう言って、イレーネさんはおもむろにシャツの袖を捲くった。
「ちょっと、と言うよりかなり細いでしょう?」
「ええ……。でも元々なんじゃ――」
「――これね、一部腕の筋肉を抜かれてるの」
「「!!?」」
ギョッとして、ニコニコしている彼女を凝視した。
彼女はクスリと笑って、腕の内側を見せた。
そこには、脇から手首を縦断する大きな傷があった。
「本当はやむを得ない事情があって皮膚を取り替えたから本当の傷は残っていないんだけどね、大体同じ場所を自分で斬ったの。――あの時の事を忘れない為にね……」
「あの時?」
マリーちゃんの素朴な疑問は、私と全く同じものだった。
「いつか2人にも話すわ。でももう少し待って。『Ultrasonic』が恥として隠蔽した事件だからあまり大声では言えないの。ただでさえ連中に睨まれている状況だからね。とにかく、そのせいで重い物が持てなくなって足手まといになりかねないから戦わないようにしているの。これだけは教えるわ。いつか話せる日が来れば言うから、ね?」
結局、何があったのかは聞けなかった。
ただ、珍しい憂いを帯びた相好から、惨憺たる事態だったという事は推測できる。
……機会があったら取材してみよう。
ところで、さっきからマリーちゃんがどこかそわそわしているんだが。
「どうしたの?悩みがあったら言って」
すると、彼女は申し訳無さそうにイレーネさんをちらっと見た。
「……あのぉ……。私の『種』は、イギリスでは相当嫌われているらしいんです。それで、友達にイギリス人がいるんですけど、そのお父さんが『種』の事が大っ嫌いで、もう1回火あぶりにしてやるって言ってるんです。このままじゃあの人、もう1回火達磨になります。何とかして下さい」
「ぎゃふん」
昼になり、リーネちゃんが戻って来た。
ツーリングと言っても、私はバイクも原付も持っていない(AT免許は持っているが)。研究所も、近いから徒歩で来ている。
というわけで、リーネちゃんの後ろに乗る事にした。
「ちょちょちょ!!スピード出し過ぎでしょうが!!さすがに公道で80kmはダメでしょ!!」
「だいじょぶだいじょぶ。これでも現役時代は『疾風の狂犬』ってここら辺では有名だったんだから」
「何の現役!?」
「いやー。それにしても愛人やってた時より捕虜になってた時の方が自由ってのはどうなのよ」
「知るか!!何やってたんだよ!!」
「あー。なんなら九郎さんに替わろうか?鵯越の逆落としやった人だけど」
「お願いしますやめて下さいてかあの人バイクの運転の仕方なんて知ってるんですか」
なす術も無く、彼女の背中にしがみ付く。
頭がグルグルしている間に、バイクは駐車場で止まっていた。
「そんなに怖かったらここから歩こっか。どうせブラブラしたいし」
「ぜひそうしてくれ……」
もう頭の中カオス。
フラフラしながらついて行くと、やがてお洒落なブティックに辿り着いた。
「ちょうど誰かと来たかったんだ。服選び付き合ってよ」
何だかいつもより明るい。カップルみたい。
ふと、腕に何か暖かい物が絡み付いた。
見ると、それはリーネちゃんの腕であった。
「私最近フラワードレスとかいう服が欲しくてね」
「何だそれ」
「裾が薄い生地が重なってるフレアスカートみたいなんだけど、その生地にグラデーションが付いてて、本当に花みたいなワンピース。涼しいし綺麗しで流行ってるんだって。ほら、あの子が着てるアレ。可愛いでしょ?」
確かに、薄い白の生地から奥のピンク色が見えるのはそそる。風が当たると裾が舞い上がってグラデーションが露わになるのも綺麗だ。
着ている本人も美人さんだ。日本人だろうか、知的な茶色の目に白い肌、ストレートの長い黒髪はその手のマニアには堪らない代物だろう。ワンピースとカーディガンの相性は抜群で、お嬢様みたいだ。
――あれ、どっかで見覚えが……。
と、横のリーネちゃんが、口をパクパクさせながら少女を指差した。顔面蒼白でワナワナ震えていた。
「し……信乃!!?」
そこにいたのは、あの飛行機運の悪い、彼女のライバルにして最大の敵の1人、九度山信乃ちゃんであった。
マズイ。さすがにこんな所で暴れられては大弱りだ。
「そう慌てるな。生憎今日は丸腰だ。戦いたくても戦えない」
「こっちもね。今日はただ単に遊びに来てるし。あなたが今着てる服が欲しくてね」
「……これか?あっちにあったぞ?」
「ホント?」
……あれ?なんか丸く収まってる。
「この水色なんてどうだ?」
「いかにも涼しそうだし、いいんじゃないか?」
「さすがにライバルとペアルックはアレだしね。……黒は無いの?」
「暑苦しいわ。つーかどんだけ黒にこだわる?」
「トコトンまで」
「試着してみたらどうだ?黒ではないが、これもいいぞ」
「それじゃ、早速……」
残された私達は小声で囁き合う。
(ぶっちゃけ、あの子の事どう思ってんだ?)
(良いライバルだ。あいつは伸びるぞ。……ところであんたとあいつってどういう仲なんだ?ずっと気になっていたんだが……)
(私はフリーライターでな、あの子達を取材している)
(はー。それじゃあ血縁関係は無いのか。似てるけどな……)
(ん……。一応な)
「どう?これ」
リーネちゃんが、水色のワンピースを纏って出てきた。
単純に言おう。可愛い。
「似合ってるぞ、やっぱり」
「そう?」
まんざらでもないらしい。
とても先日戦ったと思えない。
「これも合わせてみたらどうだ?」
「レースのボレロ?いいかもね。お金的にも大丈夫だし、思い切って買お。キアラはなんか買わない?」
「いいよ。まだ男の恰好は続けるつもりだし」
レジで精算し、店を出る。
「良かったらナポリ案内してくれないか?来たばかりなんだ」
「良いよ。この近くなら…………サンタ・ルチア教会でも行ってみる?ここらじゃ超変わり種って有名だよ。バチカンに化学と宗教両立しろって訴えてたら、弟子がいなくなったんだってさ」
「よくそんなので潰れないな」
「でしょ?だからいかなる物か見てやろうって思ってて」
「それなら行ってみるか」
本当に友達みたい。
歩く事10分足らずで、小さな教会が見えた。
「どうもここっぽいな」
教会の前には『Santa Lucia Chiesa』とある。
「入っても良いのか?」
「『どうぞご自由にお入り下さい』って書いてあるけど」
遠慮なく扉をくぐる。
そこにあったのは、意外や意外、他の教会と比べても見劣りしない神聖な空間があった。
木の椅子がズラリと並び、祭壇には大きな十字架、燭台、説教台、大きなパイプオルガンがある。
そしてそのオルガンの前に誰か若い男が座り、何やら練習している。その横で黒いローブに身を包んだ神父らしき人物が見守っている。
「――おや、どうなさいました」
ふと、神父?が私達に気付いて振り返った。栗毛にアンバーの目の、いかにも賢そうな壮年の男性だ。50歳くらいか?
同時に、オルガンの前に座っていた青年も手を止めて振り向いた。黒髪茶眼のチビ……って、あれ?
「え……。もしかしてあの時の警官?」
「ん?――ああ、そうですよ。デルヴェッキオさんでしたっけ?カルロ――あのノッポが気に入ってたんで知らず知らずの内に名前を覚えたんですよ」
何とそこには、リーネちゃんがマルディーニ・ファミリーに対して「やらかした」時にお世話(笑)になったチビ警官がいた。名前は……何だっけ。
「ルートヴィヒ・カンナヴァーロです。この人はヨハネ神父、私の養父です」
なるほど、父さんの手伝いか。偉いね~(子供扱い)。でもあっちの方が1歳年上らしい。
「ちょっとこの子がナポリ案内してくれって言うもんですから寄ってみたんです」
「それならどうぞ。小さいですが見て回って下さいませ」
なんだ。神父の笑顔を見るに、良心的な教会っぽいぞ。
「あの……少しうるさくなりますが、練習は続けていいですか?」
「どうぞどうぞ」
カンナヴァーロ巡査(……で合ってるよな……)はホッと息を吐き、鍵盤に手を伸ばした。
教会全体が、天使の囁きを彷彿とさせる清らかな旋律で包まれる。
「良い音色ですね。腕も相当のようで」
音楽に造詣の深いリーネちゃんはうっとりと溜め息を漏らした。
一方の信乃ちゃんは、祭壇の壁に掛けられた十字架に目を向けていた。
「どうしたの?」
「…………いや、死んだ親父が、軍人の癖にいつも首から十字架提げてたなって思い出したんだ……」
その影のある笑みに、思わず口をつぐんだ。
「ちょっと話したくなったから、いいか?……親父は昔日本陸軍じゃ最強って言われててな、私もそんな親父に鍛えられてた。だから昔から喧嘩は強かったな。そんなある時、親父が軍の派閥争いに飛び込んで、ついにはクーデターまで起こした。私が19の時だ」
「勝ったの?」
「いや、負けた。質じゃ反乱軍の方が勝ってたが、量はあっちの方が遥かに上回っていた。親父は逮捕され、処刑は免れたが自宅に軟禁された。私も監視の対象だった。……その1年後親父が死んだんだが、日に日に徐々に体調が悪くなっていくもんだから、これはおかしいと試しにその食事つまみ食いしてやったんだ。そうしたら私も気分が悪くなってな。……毒が入ってたんだ」
「知らせなかったのか?」
「知らせたよ。それでも買い物にすら行けなかったから、それを食べるしかなかったんだ。私の食事半分食べるかって言っても、親父、『いや、お前たんと食え』って……」
「で、亡くなったわけだ。でもあんた、もう死んでるんだろ?何があった?」
「軍連中に復讐しようとして、ちょうど聖ミカエル島に住んでいたから、そこの日本軍基地を襲撃した」
「――えっと、お言葉ですが、何でそういう事になったんですか?」
神父がふと話に入って来た。
「親父はあいつらに、顔に泥を塗られた。だからです」
「……よく分からないですが……それはいいとして、どうなったんですか?」
「陸軍連中は、倒すのは容易でした。エリートばかりのはずなのに、です。少し失望しましたよ」
そりゃそうだ。信乃ちゃんみたいな精鋭ばっかりでたまるか。
「最後に戦ったのは、私の抹殺命令を請け負っていた『Athena』の1人でした。鎧ヶ原平八郎っていう、同じ槍使いです。全く敵いませんでしたよ。何せ相手は、表人格も裏人格も生涯無敗の戦の申し子なんですから」
そんな人いるんだ。
なら何で『鋼鉄花』になった?
「後に聞いた話じゃ、ある富豪の御曹司のボディーガードをやっていて、主人が襲われた時に致命傷を負って、その後刺客を全員倒してから死んだみたいだ。――私は軍人共に殺されましたが、平八郎自身はその結果に納得していなかったらしく、私の骸を持って『Ultrasonic』に行ったらしい。そして復活したわけだ」
「――うーん……。復讐にしてももう少し方法があったのではないですか?法律に頼るなど、他にもやり方はあったと思いますよ。明らかに貴女のお父様のケースは犯罪ですし。それに、例え日本軍を全滅させたとしても、お父様は蘇生しません。自己満足に終わるだけですよ」
信乃ちゃんは、びっくりしたように神父を見つめた。
「いや、でも例えば、そこにいる若い人が誰かに殺されたとしますよ?そうしたらあなたはどうするんですか?ずっと手を拱いて、警察が何とかしてくれるまで待っているんですか?」
「それはしませんよ。出来るだけ捜査には協力します。法医学もかじっていることですし。しかし、その犯人を殴ろうとも、増してや殺そうとも思いません。元来傷病人を治す立場であることも原因でしょうが、それよりも、こういう事をしたら相手がどうなるって、先に頭で考えてしまうんでしょうね。だから、自分がされたくない事は他人にも出来ないんです」
「…………」
確かに正論だ。
しかし、石頭どもが揃い踏み(例外もあり)な、しかも閉じられた組織である軍隊の中で、そんな正論が通じるだろうか。
あと、リーネちゃんがすごく耳が痛そうだ。
「……あ、すみません。気分を悪くされましたか?本当に申し訳ございません。自分の主張は人目を憚らず言ってしまうタチなんで」
「いえいえ。むしろ参考になったかもしれません。ありがとうございました」
「それなら良かった」
うーむ。神父は結構単純らしい。でも間違いなく良い人だろう。
「――あら、ここがカロリーネのいる教会かしら?」
「「「!!?」」」
突然の乱入者に、私達と信乃ちゃんが眉間に皺寄せ、開け放たれた扉の向こうにいた人間の影に目を凝らした。
黒髪で色白の美しい少女。リーネちゃんと同じくらいの歳だろう。茶色の目だが、左は無骨な眼帯で覆われている。将校クラスだろうか、くすんだ緑色の軍服に身を包んでいる。本人は貧乳だが色気たっぷりなのに、服がそれを隠してしまっている。もったいない。まぁ、こっちもなかなか良いんだがな。
彼女は、教会内を値踏みするように見渡した。
「カロリーネ・フォン・メンデルベルグはどちらかしら?」
見た目に似合わず、声は随分と色っぽい。
「――ここよ」
キッと口を引き結んだリーネちゃんが、ザッと一歩前に踏み出した。
少女はニヤリと笑う。
「私はシャルロッテ・フォン・ヘルメスベルガー。貴女を子供の頃から追っていたわ」
「ヘルメスベルガー……!!」
ギリリと歯を食いしばるメンデルベルグ家の少女からは、怨恨の色がはっきり見て取れた。
一方のシャルロッテからも、それと共に執念が滲み出ていた。
「本当なら今すぐにでも決着を付けたいところだけれど、さすがに丸腰の人間に勝負を挑むのはプライドが許さないわ。ですから、今夜決闘を申し込みたいの。11時に廃王宮に。よろしいかしら?」
「受けて立とうじゃない……!!」
「良かったわ。それなら今夜、また会いましょう」
「ええ。あなただけじゃなく一家全滅させてやるわ!!」
「やれるものならやってみなさい」
2人互いに睨み合うと、踵を返して、真反対の方向へ歩いて行った。
夜、私達2人は、かつてナポリ随一の観光地だった王宮の廃墟に来ていた。
戦前は、外見に似合わず内装が豪華絢爛な事で有名であったが、今や宮殿内劇場も大理石の大階段も、瓦礫だらけで見る影もない。
その大階段の頂上に、シャルロッテはフランベルジェ(刀身が波打った剣)を杖に立っていた。
リーネちゃんは、相手が防具を使ってないと知り、鎧(私が取材するようになってから、兜は被って無かった)を付けずに来た。スパイみたいにスマートな黒いパンツスタイルと手に持った「薄緑」が、ミスマッチでありながらかっこいい。
「待ってたわ……貴女と戦う日を!」
「いい加減逃げ回るのは鬱陶しいわ。あなたと決着を付けたら次は当主ね」
「お父様の所までなど生かせはしないわ」
「どうなんだかね。……というか、その字はわざと間違えたの?」
一見すごい温度差のようだが、どちらの心も激しく煮え立っているのが、間近では分かった。
「――さあ、邪魔が入る前にケリをつけましょう!」
「そうね。意外とこういうのって邪魔が入るものなのよね。新たな敵とか雑魚とか飛行機とか」
「ひこうき?」
「詳しくは信乃って子に聞いて」
「……まぁ、いいわ。それじゃ、行くわ、よっ!!」
シャルロッテが、剣を大上段に振り上げて階段から飛び降りた。
リーネちゃんはそれを刀で受け、そのまま横に薙ごうとする。
しかし相手はそれを受け流し――剣を彼女の胸に突き立てた。
波打った刀身が、皮膚と筋肉を引き裂く。
「あ……ぐっ……!」
彼女は悲鳴を堪えて刀をくわえて、そのまま両手で剣をぐっと持ち、自分の肉体から引き抜いた。
幸い傷は浅い。
「よくもやったわね!」
リーネちゃんは刀を持ち直し、相手の肩に斬り付けた。
「このっ……!!」
シャルロッテは肩を押さえ、ギッと敵を睨み付けた。
「あらま。あなたすごい怖い顔よ。お嬢様とは思えないわ。畜生みたいじゃない」
お前が言うな。お嬢様らしくないとか。そして精神攻撃に肉体攻撃を追加なんてするな。
迫って来た刀を払い斬りかかるシャルロッテの目は笑っていなかった。
「……そうよ、私は畜生よ!貴女を討つべく、鉄の肉体を得た貴女に対抗すべく自分の体を捨てた、貴女と戦うしか能の無い畜生よ!!でも貴女はどう?私達一族と自分の兄を討つことしか考えていない畜生じゃない!!」
その時、リーネちゃんの顔つきが恐ろしいそれになった。
「――私の前であの下衆の話をするんじゃねぇっ!!」
彼女は、品も恥もかき捨てて、目を剝き、獣のごとき咆哮を上げてシャルロッテに襲いかかった。
ガキン、と、鋼がこすれ合う音。
剣と刀が、本当の意味で鎬を削っている。
「貴女って本当に可哀想ね!お兄様すら信用出来ないなんて!」
再び、刃と刃がぶつかり合う。
「ハッ!!笑わせないでよ!!」
リーネちゃんが荒々しく鼻で笑って、「薄緑」でフランベルジェを払い除けた。
日本刀の方は無傷だが、フランベルジェは歯こぼれが酷い。次に攻撃を食らったら折れてしまいそうだ。
本人もそう悟ったのか、折れかけた剣を捨ててショートソードを構えた。
それでもリーネちゃんは慌てもしない。
「私はお兄様を信用していないんじゃない、自分から捨てたのよ!今じゃ憎いだけだわ!!」
「――へぇー……。そうなのか」
突然、若い男の声が聞こえた。
「なっ……!!」
「何でここに!?」
皆、ギョッとして階段の頂上に目をやる。
そこには、黒髪茶眼で色白の、20代後半と思われるスーツ姿の男がいた。柔らかな微笑みを浮かべているように見えるが、どこか貼り付けたような感じがあった。
「いやぁ、君を観察していて良かったよ、シャルロッテ。おかげで、2人もの人間に再会出来たんだから」
高い靴音が響く。
青年はゆっくり階段を降り、シャルロッテに歩み寄った。
「その声は……」
訝しげに青年を見やる彼女。
彼はニコリと笑って頷いた。
「ああ。……でも、最初は驚いたな。まさか僕の元にヘルメスベルガー家の人間が来るとは。ま、僕が名前を公にしていないからかもしれないけど」
「……は?」
青年は、微笑みを崩さぬまま続けた。
「――僕の名はヴィーラント・フォン・メンデルベルグ。そこのカロリーネの兄であり、『Ultrasonic』の社長であり、メンデルベルグ家元当主ヴォルフガングの長男だ」
「え……!!」
彼女は放心状態に陥り、剣も取り落としてしまった。
「本当にびっくりしたよ。僕の妹を倒すためにって言って、わざわざその兄の所に来るんだから。でも僕だってカロリーネは排除したいから、大いに利用したけど。ちなみに君のオリジナルは社内に監禁している。その時の記憶が無いのは当然だよ。すり替えたんだから、記憶。ま、窮屈な生活?はしているけど無事だから安心してくれ。――おっと」
彼は、あくまで表情を変えずに、リーネちゃんの「薄緑」の鋭い突きをかわした。
彼女は舌打ちし、忌々しげに睨み付ける。
「あなたって本当にろくでなしなのですね!血が繋がっていると考えただけで反吐が出ますわ!」
青年は鼻で笑うのみだ。
「お前は相変わらず頭が硬いというかお人よしというか。人にろくでなしと言われる人間が社会的には成功するんだよ。周りを見てみろ。高い地位にある人間の中に、一般的に下衆と言われている人間がどれくらいいる?いるモノは大いに利用して、いらないモノはあっさり捨てる。これが生きていく秘訣だ。――例えば、こんな風に」
すると彼は、妹に目を向けたまま、何の躊躇も無く、力が抜けきっているシャルロッテを階段から突き落とした。
ドタドタと音を立てて、彼女の体はなす術も無く転げ落ちる。
やがて1番下に着くと、力無くゴロリと横たわった。
「他愛無いな」
そう吐き捨てた加害者が次に向かったのは、私だった。
……やはり、カーチャちゃんに彼の名を聞いた時の確信は間違っていなかったのだ。
よりによって、こんな時に……!!
ここぞの時のスタンガンを取り出し、目の前に突き付ける。
「近付いたら……分かってるな?」
しかし、男が向けたのは、掌中の珠を愛でるかのような狂おしげな笑みだった。
「そう言うな……」
彼は――経験上予想はしていたが――突然私を抱き締めてきた。
気が動転して、腕を振りほどこうと身をよじるしか出来ない。
「ちょっ!放して!!」
「ずっと会いたかった……。クララ――僕の愛しい妹……」
「!!?」
リーネちゃんがギョッとして、私を穴が開くほど凝視しているのが気配で分かった。
「クララ……お姉様……?」
彼女の涙混じりの声色に、罪悪感が頭をもたげる。
ヴィーラント――兄様の腕の力が弱くなってきたので振りほどき、ハラハラと涙をこぼす妹を抱き締めた。
「なんで……っ!何で言ってくれなかったの!?分からないじゃない!名前変えちゃってるし、8年前に離れたっきりになってたんだから!」
「ごめんな……」
愛しさがこみ上げ、さらに強く抱き寄せて頭を撫でた。
「もう。昔っから怒ったらすぐに泣くんだから。……あのな、少し事情があって偽名を名乗らざるをえなかったんだ。それに、実は私もリーネだって分からなかったんだ。カロリーネってのは珍しい名前じゃないし、何より随分と変わってしまったからな。――出来る事なら、生きてる内に会いたかった……」
腕の中の妹が頷くのを肌で感じた。
彼女も、私の腰に腕を回してきた。
「私もそう。でも、今会えただけでも嬉しい」
2人、幸福に浸る。
と、
「お嬢!!危ない!!」
凛とした声と共に、金属がぶつかる音がした。
顔を上げる。
そこには右手を押さえる兄様と、その目の前で鉄パイプを持って仁王立ちになったガウェインさんと、弾かれたらしい地面に転がるナイフがあった。
どうやら、兄様がリーネを刺そうとしたのを彼が助けたらしい。
「ありがとう。助かった」
妹はニコリと笑って彼を見上げた。
「いや。造作もない事だ。……それで、あの娘さんは誰だ」
「私達一族の宿敵である一族の娘よ。あの子も『Athena』だから、そこら辺に転がしておいても大丈夫だと思うわ」
「なるほど」
静かに頷くと、彼は兄様と対峙した。
「俺はガウェイン・ウォリック、カロリーネと同じ『Psyche』であり、彼女のパートナーでもある。もし彼女に手を出すと言うのなら、まず俺が相手になろう。さて、どうする?」
闘志が、確かに溢れ出し、ほとばしっているのを体が感じた。普通の人間ならここで逃げ出してしまうだろう。
しかし兄様は表情も変えずに、腰に差した拳銃を取り出し、いきなり発砲した。
それでも相手も猛者、涼しい顔で、鉄パイプを振り回して弾を弾き返し、敵目掛けて得物を投げた。
銀色の凶器は真っ直ぐ敵の首に迫る。
兄様はそれをバック転でよけ、間合いを計る。ガウェインさんも考えあぐねているようだったが、キッと顔を引き締めると、背中に背負った薙刀を手に意を決したように猛スピードで突撃した。
敵はなおも冷静に狙いを定めて迎撃する。ただ、その銃弾は薙刀によって斬り伏せられてしまっていた。
ガウェインさんはニヤリと笑い、首を狙って斬りつけようとした。
しかし、
「――あら、何をしているのかしら?」
今度は階段の下から、上品な女性の声がした。
「姉御!?」
「や、ヤツか!!?」
イレーネさんだ。頼りになりそうだが、問題は戦闘能力がどれくらいかだ。
それにしても、兄様の反応が過剰だ。真っ青になって、全身がワナワナと震えている。
「お前……本当に生きていたのか……?」
「ええ。そもそも私達は修繕不可能にならない限り、『死』という概念自体に縁が無いのですよ。軍需会社の社長たるもの、ライバルであり武器でもあるものの情報は仕入れておかなくてはいけないんじゃありませんの?」
震える手ながら銃口を突き付けられているにもかかわらず、彼女は余裕綽々だ。
兄様の身長は180cm、私よりさらに5cm程高い。一方のイレーネさんは160cm前後。ところが、オーラとやらか何かの差か、イレーネさんの方が存在が大きいように思えた。
「え……。姉さん、お兄様と知り合いなんですか?」
「そうね。一応知り合いよ。敵同士でね。2028年からの仲よ」
「確かに、どんな事でも、必ずと言っていい程君が邪魔をするね」
そう言う彼の語調には、明らかに敵意と怒り、憎しみが籠っていた。
「君の父もそうだった。やる事なす事全てが我々の障害だった。だから、『Psyche』共々葬ってやった。……あぁ、ちなみにあの時鹵獲した君達のリーダーだが、あれは実験に使わせてもらったよ。おかげで『Athena』改良が思ったよりスムーズに行ったよ」
その時だった。
「――へぇ~……」
場の空気が、凍り付いた。
彼女はいつも通り笑っている。
しかしそれは、処刑道具が笑ったらこうなるだろうと想起させるのに、あまりにも相応しかった。
「だから私の両親と仲間を殺したの?その上生き残りは実験台?」
刹那、一瞬風が途切れた。
次の瞬間には、イレーネさんは兄様の目と鼻の先にまで間合いを詰め、彼の額に銃口をねじり込んでいた。
空気が再び動き出し、肌を撫でた。
ずっと観察していた私でも、彼女がいつ動いたのか、見えなかった。
第三者でさえ戦慄したのだ。当の本人は全身を硬直させることしか出来ない。
「貴方、いくら私を怒らせれば気が済むのですか?よっぽど死にたいらしいですね。何なら、今ここで殺してあげましょうか?大丈夫、今なら頭ふっ飛ばすだけで楽に死なせてあげますよ?ねぇ、聞いてらっしゃる?」
引き金がゆっくりと絞られた。
見かねたガウェインさんが、彼女を諭した。
「それくらいにしておいて下さい、姉御。感情的になっては損をするだけです」
「…………あぁ、そうね……。ごめんなさい。少し激昂してしまったわ。やっぱり駄目ね。幼馴染の話になると」
彼女はどこか寂しげに笑うと、兄様の額を銃口から解放した。
彼は苦笑いしながら緩んだネクタイを締め直した。
「かなり格好悪い所を見せてしまったな。……まぁいいや」
すると彼は、おもむろに階段の手すりを乗り越え、飛び降りた。
「それじゃ、また会おうか」
「……っ!!ちょっ、待て!!」
リーネは激怒し、抜き身の刀片手に飛び降りようとした。
慌てて止める。
「やめろ!後追いするな!」
彼女は悔しそうに唇を噛み、刀を鞘に収めた。
「さ、帰ろう。早い事充電しないとな」
妹は拗ねながらもコクリと頷いた。
「――で、キアラ、いや、クララは何で男装してたんだ?」
「マイリー。そういう事を聞くのはやめなさいってば」
「いいんですよ、アッシュさん。実は、どうも兄様は私を偏愛しているらしくて、中学入りたての頃に彼に襲われて……。なんとか逃げたんですけど、もうそんな気を起こさせないようにって、防衛の為に男装したんです。そうしたら、仕事にも役に立っちゃって」
「でもその話によると、お兄さんはまだ諦めていないみたいだね」
「というより、ヤンデレじみているわよ」
「人の兄弟をこう言うのはどうかと思うけど……キモイ」
「でしょうねぇ」
朝、『Olive Branch』3人組+ミハイル君とで、遅めの朝食を摂っていた。
「でもクララとカロリーネって、顔は確かに似てるけど、背は全然違うしにおいも普通の姉妹ほどは似てないよ。何で?」
「3兄妹全員異母兄妹なんです。父が結構凄い恋愛遍歴の持ち主で、色んな女性に種植え付けたんですって。で、結果がコレ」
「そりゃあダメね。無節操だわ」
「こらー。元娼婦が言うなー」
「小遣い稼ぎだってば。うち貧乏だったんだから」
「……そんな女を彼女にした兄貴もすげえよ……」
そんな折、集会場にリーネが入って来た。
「何の話をしてたの?」
「別に。どうしたんだ?」
「……ちょっと話があって。5分くらい時間ちょうだい」
「?まぁいいが……」
集会場から出て、廊下の奥に行く。
「何だ?緊急か?」
「そうでもないよ。ただ、答えるまでに時間がかかりそうだから」
彼女は少し息を吐き、切り出した。
「お姉様。私と一緒にお兄様の軍需会社を倒さない?」
私は思わず口元をほころばせた。
「もちろんだ。昔から何でも2人でやってきただろ?」
今なら思い出せる、妹との平穏で下らなくて楽しい日々。
もう戻らない、あの日々――。
「本当!?」
リーネはパッと目を輝かせる。
「それなら、お兄様を倒した後はヘルメスベルガー家の連中を根絶やしにしてやりましょう!」
あ、これはいかん。ちょっと苦しいぞ。
「…………う~ん……。少し考えさせてくれ……」
「え~っ!!何で~!?」
あら。不満げらしい。
「最近一族の有象無象に嫌気が差していてな。和解すら考えているんだ」
「私達一族を滅ぼした奴らを許せるわけないでしょう!?ムリムリ!私よっぽどの事が無い限り、それこそガンジーとかマザー・テレサとか、そこら辺の人の魂に体乗っ取られたりしない限り、和解なんて出来っこない!!する気も無い!!」
妹は頭を振って、全力で拒否する。
「……まぁ、確かに気持ちは分からんでもないが、結果を焦らないでくれ。ただ、ヘルメスベルガー家の件については、和解しなくてもジャーナリストとして中立の立場でありたい。それだけは了承してくれ」
「う~ん……。お姉様と戦わなくていいなら、それでいいけど……」
どうも釈然としない様子で、彼女は立ち去り階段を上って行った。
――まだ彼女にあの話をするのは早いらしい。時期を待とう。
私だって、家族と言えるたった1人の人間を失うのは怖いのだから。
今回のキアラはおかしいです。
あと、カロリーネもいつの間にかハーレーに跨る事になりました。元々黒が好きって設定だったんですが、ある日突然「黒いライダースーツって、かっこいいよな……」と思い立ちまして、急遽「バイクぶっ飛ばすワイルドお嬢様」というワケのワカラン設定が出来上がったわけですね。
結構私の設定って見切り発車なので、頻繁にこういう事があったりします。
さて、いきなりラスボス登場&キアラの秘密暴露です。
本当は彼女は単なる語り部のはずだったんですが、気が付けば重要ポジションにいました。後半にはさらなる役割があります。お楽しみに。
まだ秘密はありそうですよ。
今回は随分と長い話になりましたね。
次は……さらに長くなるかもしれません。
それじゃ、次回をゆっくりお待ち下さい。