第一咲 復活花
さーて、もう試験近いですなー(涙)
今回からようやく本格始動ですよ。
[Chiara]
どうも、フィリベルト――いや、備忘録でまでそう名乗らなくても良いだろう。
改めて名乗ろう。私はキアラ・デルヴェッキオ。ナポリでフリーライターとカメラマンをやっている。4年前から色々あって男装しているが、生物学的には完全無欠の女だ。
しかし、今はその男装も役立っている。
というのも、私は裏社会に片足を突っ込んで取材を行っているのだ。
どうしてそういう道に辿り着いたかは分からない。ただ、私が記事を書いている雑誌『Curiosare(こっちの言葉で「好奇心」という意味だ)』の編集長に軽く言われて興味本位で取材をしていたら、いつの間にかこうなったのだ。
それでだが、今日はナポリでも有数のマフィア(本物のマフィアの原産地はシチリア島だが、まあ気にするな)、マルディーニ・ファミリーに取材を依頼し、私が個人情報を洗いざらい白状する事と引き換えに(不本意だが)許可が下りたので、ボスがまかり間違って悪い気を起こす前に取材しに行った。
幼稚園児に書かせたみたいな地図を頼りに(もちろんその半分以上を私の脳内地図で補完しているのだが)、待ち合わせ場所へ行く。
事務所の場所は知っているが、相手の意向に従うのがジャーナリストの基本中の基本だ。
まあ、最近はそれすら守れていないにわか野郎の方が多いのが現実だが。
しかしまあ、今回は向こうに私が女だと知られているわけだ。もしかしたら、それを知っている向こうの連中が襲ってくるかも知れない。そもそもあのエロジジイの事だ。何か良からぬ事を考えていてもおかしくはない。何せ、許可が下りたのは私が情報吐きだした後だったからな。
一瞬、護身用具を持っていこうかとも思ったが、万が一見つかったら二度と娑婆に帰れないだろうから、丸腰で行くことにした。
が、向こうの人間は、定刻を1時間過ぎても下っ端すら現われなかった。
私はついに痺れを切らし、直接事務所に殴りこむ事にした。
しかし、肝心の事務所に明かりすら点いていない。
「あー。ごめんくださーい」
扉は不用心にもすんなり開いた。
というより、鍵が壊れていたから、施錠もくそも無かったというのが正しい。
「ヘタレな鍵だな……」
呟き、中を確認する。
暗い。
残念ながら今日は懐中電灯は持ち合わせていない。
しかし、月光がちょうど差してきたので、まあ良しとしよう。
随分と惨たらしい光景であった。
男達の生首が、眉間に釘を打たれて壁に打ちつけられていた。
嫌過ぎるオブジェだ。
数的に……全員がやられたらしい。
しかも、あまり荒れていない所を見るに、刺客は極少数だったようだ。
かと言って、殺し屋を仕向けられていたにしても、こんな事をやらかす頭おかしい奴があの連中の中にいるだろうか。
「という事は、個人か?」
信じがたいが、そうとしか考えられなさそうだ。
――と、その時だった。
私の目の前のテーブルに、何者かが降り立った。
そして、私の首筋に日本刀を突き付けてくる。
――だが、私にとってはそれさえもどうでも良かった。
その何者かの正体が、赤い鎧を身に纏った美しい武者だったのだ。
兜に隠れた顔が月の光に照らされる。
さらさらの黒髪に大きな茶色の瞳の、思わず溜め息が零れるほどの美しい女だった。
無意識に、首から提げたカメラに手が伸びる。
この美しい女武者をシャッターに収めてやりたい衝動に駆られる。
彼女は訝しげに目を細めたが、刀は微動だにしなかった。
命を取って彼女を撮り逃すか、命を危険に晒しても彼女を撮るか、決心は着かなかった。
と、迷っている内に彼女が刀を首筋から離し、鞘に収めた。
シャッターチャンス。
だが、彼女はすぐに身を翻したため、横顔しか撮れなかった。
武者は、私がシャッターを切った事を咎めず、静かに走り去った。
翌朝、テレビを点けると、昨夜の事件が大きく報道されていた。ナポリどころかイタリアで最も恐れられていたマフィアがたった一夜にして全滅したのだから、当然だろう。
私も、目撃者として事情聴取されかねない。
そうしたら、あのカメラ(デジタル一眼レフ)のデータを警察に差し出す羽目になるだろう。
しかし、そうしたらあの女武者が逮捕されるかもしれない。
別に彼女の肩を持つわけではないが、あの浮世離れした美しい武者の無様な姿など見たくない。
テレビには、事務所にあったらしい防犯カメラ(犯罪組織なのに)の映像が映し出された。
どうもこれで私が冤罪を食らう可能性はほぼゼロになったわけだが、やはりあの女が映ってるか心配だ。
あの美貌をもう一度真正面から見たくもあり、映って欲しくなくもあり。
しかし、幸か不幸か、彼女は上手く顔が映り込まないように立ち振る舞っており、その顔が画面に映る事は無かった。
午後から、やっぱり私は警察に呼び出された。
予期はしていたが、やはり緊張する。
ちなみに私は、取材時は男の名を名乗っているが、戸籍では未だに女扱いだ。
なので、格好はどちらの性別に合わせるか迷っている。
迷った末、もう取材時の服装にしようという事になった。
男装用のコルセットは……付けていっても貧乳と言ったりも出来るしまあ付けるか。
あとはカッターシャツ、茶色いジャケット、焦げ茶色のズボン……よし、これで行こう。
警察署に着くと、2人の警官に案内された。
チャラチャラしてそうなノッポと生真面目そうなチビ。デコボココンビ。
やがて、会議室を圧縮したような部屋に連れて行かれ、そこで色々聞かれることになった。
ノッポの方が男装の理由を聞いてきやがったが、チビが睨みつけて制止していた。
そして、やはりカメラのデータを要求された。
しらばっくれようにも、防犯カメラ(もしかして組織内で盗難でもあったのか?)にフラッシュを焚いているのが思いっきり映ってしまっているので、大人しく渡す(くそ)。
チビの方がデータをチェックする(ノッポの方は通りすがりの婦警をナンパしていた)。
と、
「……くそ……。こりゃあどうしようもねえな……」
写真を確認した後、悔しそうに顔を顰めた。
「?」
横顔では駄目ですか、と言おうとした時、
「……デルヴェッキオさん……」
チビの警官が、私に向き直った。
目の色が険しい。
「ジャーナリストの貴女にこう言っても効果は無いでしょう。しかし……」
とりあえず言葉を止めることにした。
「――この女の事はあまり詮索しないで下さい」
今から詮索しようと思っていたのだが。
そう言うと、警官はさらに険しい顔をした。
「絶対にいけません。仮に調査したとすると、貴女はマフィアの蔓延る世界よりさらなる深みに入ると思って下さい。もちろん警察の守備範囲を超えています。そんな場所に自分から入り込んで、命の保障があるわけがありません。何せ、我らどころか神さえも裁けない連中の世界ですからね……」
私は反論が浮かばず、黙るしかなかった。
だが、私の好奇心は収まらなかった。
彼女の事をもっと知りたかった。
チビの話も気になった。
サツどころか神さえも裁けないとはどういうことだろうか。
「幽霊とかか?」
そんなわけないか。
「もしかして非生物?」
いや、それもそれで荒唐無稽な推測だろう。
結局、仮説すらつかなかった。
ナポリの街に夜が来た。
かつて「ナポリを見てから死ね」と言われたほどの美しい町並みは戦災によって破壊され、その一部は未だに人体に影響がある強さの放射線が観測される『Hazard Area』に指定されている。
そこがどうなっているかかなり気になるのだが、厚いコンクリートの壁に覆われ、色あせた『Danger』の文字と放射性標識のマークが書かれた黄色い看板がそこかしこに取り付けられていた。
その壁を何ともなしに見つめていると、
「――ん?何だ?」
刃のこすれ合うような音が私の耳に届いた。
とりあえず、その方向に向かってみる。
すると、私の目の前に有名なナポリの広場が現われた。
しかしかつての美しさは影も形も無く、煉瓦は崩落し、所々戦争の犠牲者の血を吸って赤茶色に変色していた。
そこに、人影が2つ。
1つは、バスタードソードを手にした、騎士のような鎧姿の10代半ばと思しき赤毛の美少女。
そしてもう1つは――
「――なっ……!!」
あの、美しき女武者だった。
少女の斬撃を、時には交わし、時には日本刀で受けている。
その猛スピードの戦いは、まるで2人で踊っているかのように鮮やかだった。
赤毛の少女は自棄になって剣を薙ぐが、黒髪の少女は涼しい顔で跳躍した――9mほど。
私も、赤毛の少女さえも呆然とする。
武者が、騎士の背後に音も無く着地した。
そして踵を返すと、騎士に向かって疾走する。
2人は、それぞれ剣と刀を手にぶつかり合った。
その瞬間、
「ケホッ!!」
「ぐっ!!」
騎士は腹から、武士は脇腹から血を流して、同時に倒れた。
「だ、大丈夫ですか?」
我ながら無様に慌てて、武士の方に駆け寄る。
騎士の方は、どうも傷の深さから見て助かりそうにない。
黒髪の少女が呻きつつも半身を起こした。
その背中を支えて、もう水の枯れた噴水の縁にもたれさせてやる。
「かたじけない……」
「えと、この鎧、どうやって外すんですか?」
「いや、出来る所は己でやる故……痛て」
「不用意に動いてはいけませんよ。で、この兜はどうする……あ、ここの紐をほどけばいいですか」
「そうじゃ……鎧も、本当は頭の方から取るのだが、今回はもうばらしてしまうかの」
それからまだ色々とグダグダ鎧を外していると、鎧によって隠されていた彼女の体が露わになった。
やっぱり美しい。
意外にスタイルがいいし、胸も大きい。少なくともEカップくらいはあるだろう。
……我ながらなんて所見てんだ……。
「早く消毒しないとな……」
するとその女性は、
「いや、大丈夫である。――この通りだ」
自ら和服の襟をはだけて、傷を見せてくれた。
傷の奥から、金属が覗いていた。
[Ludwig and Carlo]
「よぉルッツ!今日はもうあがりか?」
「おぉ。お前もか?」
後輩であり幼馴染のカルロ・アンドレッティに肩を叩かれ、ルートヴィヒ・カンナヴァーロはニコリと笑って振り返った。
長身(180cm)のカルロは、クセ毛の茶髪に淡褐色の瞳の、少々軽そうな青年だ。一方、小柄(180-25cm)のルートヴィヒは、黒髪に両目に泣きぼくろがある大きな茶眼の、どこか高貴さの漂う美青年。首からは十字架を提げている。
この2人、キアラの証人喚問をやっていたあのデコボココンビなのだが、こんな顔立ちの良い男2人に対してさえ何とも思わないキアラはもうどうかしている。
「でもあの子、可愛かったよなぁ!あんな子が男装してるなんて、宝の持ち腐れだよなぁ!」
「……やっぱりあれは色目だったのか……」
「バレてた?」
仕事ではカルロが敬語を使っているが、プライベートではタメ口の仲だ。
かなりの女好きである彼は、幼馴染の白い目も気にせず、今日会った美人の容貌を思い出していた。
ショートカットの黒髪に鋭い茶眼の、口元にホクロのついた、長身で男っぽく引き締まった体格のクールビューティ。どこか荒れている雰囲気はあったが、気にならなかった。
「あの子、外は冷たそうだったけど、きっと中には熱い情熱がグツグツ煮立ってそうだったな!」
「お前、熱い情熱って字重なってるというか、そもそも色々と文法おかしいというか、さっきは突っ込まなかったが守秘義務ナチュラルに破ってるというか」
「……うん。僕の戯言にマシンガンみたいなツッコミをありがとう……」
ちょっと引き気味だったりする、
「でもよぉ、何であの事件捜査中止になったんだ?あの写真で十分犯人特定出来るじゃないか」
「確かにな」
「それじゃあ――」
「――だが、デルヴェッキオにも言った通り、あの女――いや、『あれ』は神さえも裁けない連中だ。俺達には手も出せない」
「そこだ、俺が聞きたいのは。何でンな事言えるんだ?マフィアだって死ねば神の裁きを受けるはずだろ?」
「いや。善だの悪だの以前の問題だ。『あれら』は、神の御加護からも御裁きからも外されている」
「……どういう事だ?」
首を傾げるカルロに、ルートヴィヒは一瞬躊躇い、しかし観念したようにゆっくり口を開いた。
「――人造人間なんて、神でも対処出来ないだろ?」
[Caroline]
カロリーネは、研究室らしい部屋で目を覚ました。
「……目を、覚ました……!?」
記憶が正しければ、自分は死んだはずだが。
頭を捻っていると、
「――あら、目を覚ましたのですね」
「ようこそ、カヴァリエーリ研究所へ」
自動ドアが開き、2人の20代半ばと思われる女性が入って来た。
1人は、ゆるくカールしたセミロングの栗毛に茶眼の、いかにも優しげな白衣の女性。
そしてもう1人は、死の直前に現われたあの女性であった。
「カロリーネさん、でしたっけ。私は、イレーネ・モルゲンシュテルンです。ここに住んでいる、『鋼鉄花』――元の体の主『親株』と過去の人物『種』の記憶をインストールされたアンドロイドの一派、『Psyche』のリーダーです。こちらの白衣の子は、ここの所長さんが開発した同じく『鋼鉄花』の『Hestia』の一人、ロビン・ウォルトンです。……どうですか?機械の体になった感想は」
「五感も器官も感情も人間そのままですから、そういう感覚は無いかもしれませんがね」
「…………機械……?」
いくら自分の体を見回してみても、元のままにしか見えない。
「それでは、左手首を見て下さい。継ぎ目みたいなのがありますよね?」
「ええ。これは外れるのですか?」
「その通りです。ちょっとやってみて下さい」
「ええ」
ちょっと開けてみた。
すると、手首に内蔵されている液晶が姿を現わした。円グラフや数値などが表示されている。
「この青い円グラフは稼働可能時間、緑色のグラフは体力の残値、この数値は充電の残り時間です。あと、胸も見てみて下さい」
「あ、もしかして、この事ですか?」
彼女が指さした、ちょうど右の上乳辺りに、蝶のマークがあった。
「これは?」
「これは『Psyche』である事を現わすマークで、私にもついています」
そう言って、軍服美人――イレーネが上着の裾をたくし上げると、脇腹に同じ蝶のマークがあった。
「ロビンには炎のマークがついているのですが、彼女達『Hestia』は人に有益である事を目指して作られたアンドロイドで、私達『Psyche』の目的は、愛される事、です」
少し、引っかかった。
彼女はあの時、戦う運命になると言ってなかっただろうかと。
「あの、では、戦うと言っていたのは……」
すると、それまで微笑んでいたイレーネが、急に憂いを帯びた。
「えっと、あの、変な事聞いてすみません」
「いえ。いいんですよ。いずれ言わないといけないですし……。――私達は、同じ『鋼鉄花』の一派、『Athena』と戦っているんです……」
「どうしてですか?」
「私達が元いたローゼンタール研究所に彼らが襲ってきまして……それで、私達の仲間の多くを破壊し、おまけに、私達『Psyche』の開発者である、機械になる前の人間だった時代の両親を……!」
そこで彼女は、耐えられなくなったのか泣き崩れてしまった。
カロリーネはそれに呼応するように涙を流し、彼女の肩を抱いた。
「どこのどいつなんですか!その『Athena』というのは!」
ロビンに涙を拭いてもらったイレーネは、それでも涙声だった。
「アメリカの大手軍需会社『Ultrasonic Co.』が開発したアンドロイドで、戦う事が存在理由の連中です……。そのせいか、警察に訴えても会社の方に口止めされたのか、取り合ってくれなくて……。それなら、自分達で皆の弔い合戦をと……」
「――なっ!!『Ultrasonic』ですって!?」
カロリーネは、腹から怒りが込み上げてくるのを感じた。
イレーネの肩に掛けた手にも力が入る。
「痛い」
「あ、すみません」
彼女の呟きでやっと自分を取り戻した。
「よし!分かりました!私も『Ultrasonic』に恨みのある人間です!!助太刀しましょう!!」
「ありがとう!!本当に!?」
「良かった!!」
2人の憂い顔がパッと華やいだ。
「なら、用意しないとね!武器とかはもう用意してたんです!ちょっと一緒に来て下さい!」
「あ、はぁ……」
カロリーネは、なされるがままに彼女達について行った。
着いた部屋には、引きしまった肉体を持つ大柄な、歌舞伎役者みたいな凛とした上品な顔立ちの黒人青年がいた。
「彼はガウェイン・ウォリック。貴女のパートナーになる予定の人です。貴方と彼の『種』は生前主従関係でしたし、性格も合いそうなので、多分上手くいくと思いますよ」
確かに同じにおいがする。
しかも、自分の横にも皆の横にも見える幽体が、自分のも相手のもどこか落ち着きなさげだった。
私のは……はっきり見える。滑らかな黒髪に澄んだ大きい茶色の瞳の、白い肌をした美しい若武者だ。鎧が煌びやかだから、きっと身分の高い武士だろう。
しかし、記憶を移しただけでなぜこうなるのか。いくら考えても分からなかった。多分、開発者にも分からないだろう。
「少し入れ替わってみてはいかがです?きっと『種』も久々に主従再会したいでしょう。指パッチンすれば入れ替われますよ」
言われた通り指パッチンしてみる。
すると、幽体離脱したような感覚に襲われた。
代わりに、横にいた若武者が自分の体に入った。
「うむ……やはり動きにくいな……」
「そうですか?すぐに慣れますよ」
同じく入れ替わったイレーネが言う。
「また英語話せない人ですか?寂しいですよ……」
ロビンまで入れ替わった。
「と……殿……」
ガウェインとかいうらしい青年も入れ替わった。
もはや『種』天国。
で、主従の事だが、微笑ましいどころかちょっと引いてしまうほど、涙をぼろぼろ流して再会を喜び合っていた。
「殿!!お久し振りでございます!!」
「弁慶か!!まさかこのような形で再会するとは思ってもおらんかった!!嬉しく思うぞ!!」
もはや、主従というより無二の親友同士の再会に近かった。
「武器の件」
たまらず、イレーネ裏が突っ込みを入れる。
「おぅ分かっておるわ」
ガウェイン裏が名残惜しそうにカロリーネ裏から離れ、彼に日本刀を手渡した。
「太刀か……」
刀を抜き、鞘から解き放つ。
そこで、彼は息を呑んだ。
「これは……!『薄緑』ではないか!」
「そうですとも。『膝丸』であり『蜘蛛切』であり『吼丸』である『薄緑』です。所在不明でしたが、ようやく見つけました」
「よくやったぞ!」
そのやり取りを、カロリーネはポカンとして見ていた。日本の事すらよく知らないのだから、仕方ない。
見かねたイレーネが解説してくれた。
「あれは、源氏という日本でも有数だった武家の家宝で、『髭切』と並ぶ名刀です。彼がちょうど源氏の出身であり元の持ち主でもあったので、これが一番使いやすいかと」
『戦国武将ですか?』
「なんでそうなるんですか……。いや、あの源氏というか源一族というのは、源平合戦で平一族を相手に日本中を巻き込む戦いを繰り広げた一族です。彼はその内源一族側にいて、その戦術を駆使して、源氏を勝利に導いた張本人です」
『勝った方なんだ……』
なら、なぜあんな陰った顔をしているのだろうか。
その翌日、彼女はマルディーニ・ファミリーの事務室にいた。
「九郎さん、ごめんなさいね。私の復讐を貴方に押し付けちゃって」
『いいや、良い肩慣らしになった。それに、私もそなたの境遇を聞いて腹を立てておったのだ。礼はいらぬ』
彼女は、男達の生首の眉間に釘を打ち、壁に取り付けていた。
『これで本当にそなたの怨みは晴れるのか?』
「晴らさないといけないでしょう。もう元には戻らないんですし」
『そうだな……』
カロリーネは最後の首の後始末を終え、疲れたとでも言うように両手をだらりと下ろした。
「気は済みました。もう帰りましょう。電池も後僅かです」
『分かった』
――と、
「……む?」
裏人格――九郎というらしい――が、鋭い目つきでドアの向こうを睨む。
「どうしました?」
『何者かがこちらに近づいておる』
「まず隠れましょう」
『うむ』
ボスの部屋の壁に張り付き、肩越しにドアに注意を集中させる。
指を鳴らして、人格を入れ替える、
やがて予想通りにドアが開き、若い女が顔を出した。
「私が相手をする」
九郎は刀の柄に手を掛け、彼女に飛びかかる手筈を整えている。
が、
『ちょっと待って下さい!』
女の顔を一目見た途端、カロリーネが彼の肩に手を掛けて制止した。
『あの人は殺さないで下さい!!お願いします!』
九郎が、彼女の大きな目を見つめる。
「――承った」
そして、彼は刀を解き放ち、大きく跳躍した。
まるで、しがらみから抜け出そうとしているかのように。
中途半端に1章終わりです。
なんかキアラが妙に冷たいというか皮肉屋な感じですが、後半には大分印象が変わると思います。
あーあと、なんかやたらと「神」って出てきますが、私個人は無神論者なんで悪しからず。というより、不特定多数の人が観察できるモノというのは科学の範疇外なんで、実在を証明できないんですよね。
ちなみに、「膝切」の話ですが、資料によって表記がばらばらで、迷ったんですが、wikipediaに従いました。でも表記が一致しないのは困りますね、やっぱり。
さて、2章からは本格的な戦いが書ければいいなと思っております。この『鋼鉄花』から下書きを書くようにしているので、見切り発車で書いていた『軍隊島』よりはまとまった文章が書けるのではと、勝手に期待してたりします。
それでは、次章を長い目でお待ち下さいませ。