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鋼鉄花  作者:
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第零咲 鋼鉄花

ついに『第六世界』新章スタートです。

なんかいきなりやばい始まり方ですが、通常運転です。

[Caroline]

「待ちあがれこのクソアマ!!」

「鬼ごっこに付き合ってやるのも今の内だぞ!!」

 夜のナポリに怒号が飛ぶ。

 明らかに堅気ではない男たちが追うのは、それはそれは美しい女であった。

 歳は20ばかりか、美しい長い黒髪に大きな茶色の瞳、白い肌の、小柄だが肉感的な体つきの女。

 ただ、豊かな胸を封じるコルセットにきれいな太股がスリットから覗くスカートにガーター、その色に合わせた黒いジャケットにヒールの高いロングブーツといった、どこからどう見ても一般的なイメージの娼婦そのものな衣装は難ありであったりする。

 彼女の名前はカロリーネ・フォン・メンデルベルグ。

 ――かつては、第三次世界大戦後に誕生したドイツ二大貴族の内の1つ、メンデルベルグ家の令嬢だった女だ。

 だが、一族は二大貴族のもう一方、ヘルメスベルガー家との間に起きた内乱、東西戦争で敗北した。

 当主は反逆した家来に暗殺され、その妻子は捕縛、離散させられた。その内、末娘の彼女はその美貌を高く買われ、ナポリを牛耳るマフィアの1つ、マルディーニ・ファミリーのボスの愛人として囲われる身となった。

 しかし、彼女はその待遇にうんざりし、自由を求めて飛び出した。

 その足取りは決して一般的な元お嬢様のような弱々しいものではなく、むしろ空襲・原爆・その他モロモロのせいで崩れ、そのまま放置された家々を尻目に新たに建てられたビルの屋上を飛び移っている。

 ――が、

「うわ……」

 青ざめたカロリーネは、その足を止めた。

 彼女が飛び移ったビルは、一方向を除いて大通りに囲まれていた。

 そしてさらに、

「――やっと追い詰めた……」

 舌打ちして振り返ると、そこには追っ手共が大集合していた。

 彼女は今、ビルの屋上の端の端に立っている。

 フェンスは無い。

 追っ手の一人が、静かに言う。

「――もう一度言う。これが最後の情けだ。このまま大人しく戻るというなら危害は加えん。しかし、もし逆らったら――」

 男達が、一斉に拳銃を取り出す。

「さて、どうする?10、9、8……」

 カロリーネは迷った。

 もう二度とあそこには帰りたくなかったが、死にたくはなかった。

 時間も無いようだ。勝手にカウントダウンが始まっている。

 覚悟して、口を開く。

「私は――」

 しかし、時は残酷だった。

「――時間切れだ」

 轟音が響き渡る。

「――――っ!!!」

 鉛の弾が、カロリーネの脚に、腕に、腹に、左胸を抉る。

 彼女の口から鮮血が溢れ、風穴と共に白い肌を紅く染める。

 そして、彼女の体は後ろにくずおれ――。


 破裂するような音が街中に轟いた。

 彼女の体は、地面に強かに叩きつけられた。

 しかし、彼女の息はまだ途切れなかった。

(――生きたい……力が欲しい……)

(力さえあれば、マルディーニも、ヘルメスベルガーも、そして――)

 と、

「――なかなか骨がありそうですね、貴女(あなた)……」

 低い、澄んだ女の声が聞こえてきた。

 少し意識がはっきりする。

 そこにいたのは、短いさらさらの黒髪に大きな濁りの無い淡褐色の瞳の、少々小柄だが色白でグラマーな体を白い軍服で包んだ、大人の色気溢れる浮世離れした若い女性であった。

「私の声、聞こえますか?」

 その微笑みは、意外にも子供っぽかった。

「貴女、仲間は欲しいですか?」

 聞き慣れない言葉に戸惑いつつも、頷いた。

 頭が痛い。思わず顔を顰めた。

「では、力は欲しいですか?」

 もちろん、即答した。

「そうですか……」

 なぜか女性は顔を曇らせた。

「では、これが最後の質問ですが、ここで頷くと、貴女は否応なしに戦いの世界へ巻き込まれることになるでしょう。そればかりではなく、人間とは似て否なる存在になる。――それでも、貴女は生きたいですか?」

 少し迷う。

 だが、力や生の渇望の方が遥かに勝っていた。

 そして彼女は、最後の力を振り絞って、頷いた。

 直後、カロリーネ・フォン・メンデルベルグは、20年という短い生涯を閉じた。



[Maldini]

 その翌日、マルディーニ・ファミリーのボス、アントニオ・マルディーニはいらついていた。

 逃亡した愛人、カロリーネが射殺されたことはどうでもいい。顔はともかく体であの女に勝てる女は捜せばいるだろう。

 しかし、その報告を寄越した連中が1人として帰って来ない。

 悪い事に、そこには幹部候補が何人か含まれていた。

「どうした?他の連中のシマに邪魔したという事はないだろうが……」

 心当たりは、無い。

 ――いや、ある事はあるが、可能性は低いだろう。

 というより、考えたくなかった。

 「あの」連中を敵に回したとは。

「……む?」

 その時、彼は気付いた。

 さっきまであれほど騒がしかった向こうの部屋が、今は水を打ったように静まり返っている事を。

「さすがに気味が悪いな……」

 手に嫌な汗が滲み始める。

 意を決して、ドアを開ける。

 その先には闇があった。

 電気が点かない。電球自体が破壊されているのだから当然だろう。

 懐中電灯を手に取り、部屋を照らした。

 そこには、首を落とされ、人形のように転がる部下たちの姿があった。

 一面が紅く染まっている。

 そしてその中心には、鍬形(くわがた)を打った兜を被った赤糸縅(あかいとおどし)の大鎧姿の武者が、黄金の太刀を手に静かに立っていた。

 その美しい太刀には、血糊(ちのり)がべっとりと付着していた。

「――ふむ、そちらにおったか……」

 武者は低い声で呟く。

 しかし、明らかに若い女性のそれであった。

 呆然としていたマルディーニは、そこで冷静さを取り戻した。

「ふん。何だ、女か」

 目元はよく見えないが、相当な美人のようだ。

 それを確認し、少し余裕を見せられるようになった。

「お嬢ちゃん。これは少々やり過ぎだろう?え?私が誰だか分かっているのかね?」

 だが、女武者は、懐紙で血糊を拭った太刀を構えた。

「フン、馬鹿な女だ。こっちは銃を持っているというのに」

 懐から銃を取り出し、構えた。

 と、

「――そなた、かような娘は覚えておるか?」

 再び女武者が静かに言う。

 そして、彼女はくいっと兜を上げた。

 その露わとなった彼女の顔を一目見るなり――マフィアのボスが恐怖に身を凍らせた。

 背中を冷や汗が伝う。

 彼は、懐中電灯も銃も取り落とし、ガタガタ震える手で女を指さした。

「お、お前は……!」

 女はそんな男をジロリと睨むと――太刀で男の首筋を薙いだ。

 首が、ゴトリと落ちる。

 それを見た武者は、ただ満足気に笑った。

いきなり飛ばしちゃいました。

今回はもしかしたら、前作よりも色々な意味でエグくなるかもしれないんで、うっすら覚悟しておいて下さい。

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