第6話 食事会
入学式が終わったあと俺たち家族は、桜の家族と一緒に回転寿司に来ていた。
幸いにも店内はそれほど混んでおらず、受付を済ませるとすぐに席へ案内される。
「わぁ、あおいちゃん! 早く! 早く!」
桜は目を輝かせながら、俺の手を引っ張る。
「桜、少しは落ち着きなさい」
母親にたしなめられ、桜は一瞬だけ肩をすくめたが、
それでも足取りはどこか跳ねている。
……実は俺も、内心では同じだった。
回転寿司に来るのは、今世では片手で数えられるほどしかない。
前世では考えられない文化だし、
この世界は食のレベルが桁違いに高い。
生魚を食べることに、最初は前世の知識が邪魔をして忌避感を覚えたものだが、
今では大好物ランキングの上位だ。
案内された席に座る。
席の配置は、少し変則的だった。
桜母 桜 葵
████████
桜父 葵父 葵母
桜が「あおいちゃんの隣がいい!」と譲らなかった結果である。
「えへへ」
隣に座れたのがよほど嬉しいのか、桜は終始にこにこしている。
「ねぇねぇ、あおいちゃんは何が好きなの!?」
「私は……サーモン、かな……」
「えっ! 私も好き!」
一瞬で距離を詰めてくるな、この子。
「一緒に頼も!
ママ! サーモン、あおいちゃんの分もいっしょに!」
「はいはい」
桜の母は慣れた様子でタッチパネルを操作する。
「あおいちゃん、わさび抜きで大丈夫?」
「はい、大丈夫です……」
正直、わさびも嫌いではないが、
今は“小学生”として振る舞う方が大事だ。
注文が確定すると、レーンの向こうから寿司が流れてくる。
「来た来た来た!」
桜は身を乗り出す。
「……落ちるから気をつけなさい」
「はーい!」
言いながらも、返事は半分くらいだ。
サーモンの皿が届く。
脂の乗った身が照明に反射して、やけに美味しそうに見える。
「いただきます!」
桜は元気よく手を合わせる。
「……いただきます」
俺も真似て、手を合わせた。
一口。
――うん、やっぱり美味い。
「おいしいね!」
「うん……美味しい」
「ねぇねぇ、あおいちゃんは何枚食べれる?」
「えっと……分からない……」
「私はね! 今日は10枚いける気がする!」
……小学生の宣言は、だいたい当てにならない。
桜の父が笑いながら言う。
「桜、最初から飛ばしすぎると後で苦しくなるぞ?」
「だいじょうぶ! 今日は入学式だから!」
何の根拠にもなっていないが、
本人は満足そうだ。
途中で、茶碗蒸しや唐揚げ、デザートまで注文が飛び交う。
「このプリン、ぷるぷる!」
「桜、口の周り汚れてるわよ」
「えっ!? どこ!?」
そんな他愛もないやり取りが続き、
気づけばテーブルは空いた皿でいっぱいになっていた。
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「ふぁぁーーー、美味しかったー!」
桜は大きく伸びをする。
……ん?
口元に、ご飯粒がついている。
本当に、まだ一年生だな。
俺はそっと紙ナプキンを取り、
桜の口元に付いていたご飯粒を拭き取った。
「……ふぇっ?」
桜は目をぱちくりさせる。
「口元に、ご飯粒ついてたから……」
「わぁ! ありがとう!」
そのまま、ぎゅっと抱きついてくる。
ひぇっ……!
通報は、勘弁してつかぁさい。
——それを、眺める大人たち。
「ふふ……本当に、もう仲良しさんなのね」
「葵ちゃんみたいなしっかりした子が桜と一緒なら、安心だ」
「こちらこそです。
葵は同年代と話す機会が今までなかったので……
桜ちゃんみたいに引っ張ってくれる子がいて、助かります」
「相性、ぴったりね」
……なんだか、勝手に評価されている気がするが。
桜は俺の袖を掴んだまま、にへらっと笑う。
「またいっしょに食べに来ようね、あおいちゃん!」
「……うん」
悪くない。
そう思えた自分に、少しだけ驚きながら。
ご飯粒を取るというシュチュエーションを書きたいがためにこの話を入れました(´>∀<`)ゝ




