第4話 初めての教室と初めての友達
校門を越え、校舎の中に入る。
玄関入口には大きな張り紙が貼ってあった。
――《一年二組はこちら》
この学校は、一学年三クラスあるらしい。
俺はその中の、一年二組。
靴を履き替えていると、すぐ横から元気な声がした。
「一年生だね! 教室まで案内するよ!」
振り向くと、少し背の高い女の子が立っていた。
名札を見るに、上級生だろう。
「……お願いします」
そう言って頭を下げる。
ここからは、親とは別行動だ。
「葵、頑張ってね!」
「ちゃんと見てるから!」
振り返ると、両親が手を振っていた。
少しだけ胸が温かくなる。
俺は小さく手を振り返し、上級生と一緒に歩き出した。
廊下を歩きながら、上級生が話しかけてくる。
「名前はなんていうの?」
「……葵」
「そっか! あおいちゃんだね!」
にこっと笑って、胸を張る。
「私はみく! よろしくね!」
「……よろしく」
「わぁ、あおいちゃんかわいいね!
名前もかわいいし!」
「……ありがとう」
――あれ?
俺、喋るの下手すぎないか?
考えてみれば、今世では親以外とほとんど話していない。
六年間、人付き合いゼロ。
その結果――立派なコミュ障が完成していた。
「ほんとにかわいいなぁ。
絵本から飛び出してきたお姫様みたい!」
「……っ、ありがとう」
一瞬間を置いて、言い直す。
「みくさんも……かわいいよ」
はたから見れば、微笑ましい光景だろう。
……片方は中身がおっさんだが。
通報されないか、少し心配になる。
「ほんと!? ありがとう!!」
ぱっと顔を明るくして、みくは言った。
「あと、みくでいいよ!」
「……うん」
「――あ、ここだ!」
立ち止まり、教室の前を指差す。
「ここが一年二組だよ!」
「中に入ったら、前に名前が書いた紙があるからね。
それ見て席に座って、先生が来るまで待ってて!」
ここまで連れてきてもらったんだ。
ここからは、一人でやらないといけない。
コミュ障がどうした。
俺は勇者だぞ。
表情筋を総動員し、全力の笑顔を作る。
「……わかった。みく、ありがとう」
一瞬、みくがきょとんとした顔をして――
次の瞬間、顔が赤くなった。
「わぁ……あおいちゃん、ほんとにかわいい……」
「じゃ、じゃあ! 入学式、頑張ってね!」
そう言って、来た道を小走りで戻っていった。
……ふっ。
惚れさせてしまったか。
俺も罪な女だぜ。
さて、ふざけている場合じゃない。
俺は教室のドアに手をかける。
――ガラッ。
ドアが開く音と同時に、
先に来ていた新一年生たちの視線が一斉に集まった。
教室には、すでに半分ほど席が埋まっている。
「……アニメの女の子みたい」
「かわいい……」
「お姫様みたい……」
小さな声が、あちこちから聞こえる。
前世の俺は顔より胸で判断していた男だ。
自分の顔に、特別な感想はなかった。
だが――
以前から、外に出ると視線を感じることが多かった。
転生したこの身体は、世間的に“美人”の部類らしい。
前方に貼られた紙を確認し、自分の席へ向かう。
……隣の席には、すでに女の子が座っていた。
「……おはよう」
できる限り、自然な声を出す。
「私、葵。よろしくね」
ふぅ。
今の俺には、これが限界だ。
Vtuberになるなら、コミュ力は必須。
やるべき課題が、一つ増えたな。
「よろしくね! あおいちゃん!」
隣の子が、にこっと笑う。
「私はさくら!」
「かわいくて、びっくりしちゃった!」
「……ありがとう」
そして、反射的に。
「さくらちゃんも……かわいいよ」
しつこいが、もう一度言っておく。
通報はやめてほしい。
「あおいちゃん!おともだちになろ!」
....友達
いや...もう、魔王も魔族もいないんだ...
「うん、よろしくね、さくらちゃん」
しばらく話していると、教室のドアが開いた。
「おはようございます」
先生らしき大人が入ってくる。
周囲を見ると、ほとんどの席が埋まっていた。
思ったより時間が経っていたらしい。
その後は、先生の自己紹介。
続いて、全員の自己紹介。
俺の番が来た時は、短くまとめた。
「……葵です。よろしくお願いします」
それだけで精一杯だ。
自己紹介が終わると、入学式の説明が始まった。
なるほど。
基本的には放送に従って動けばいいらしい。
立ったり座ったり、多そうだな……。
そんなことを考えていると、放送が流れた。
『一年生の皆さんは、体育館に集まってください』
どうやら、体育館で入学式をするらしい。
「はい、では並んで移動します」
先生の指示に従い、教室を出る。
体育館の前で、しばらく待機。
大きな扉の前で、整列させられる。
周囲の空気が、少し張り詰めた。
そして――
『一年生、入場』
放送が流れる。
扉がゆっくりと開き、体育館の中が見えた。
広い空間。
整然と並んだ椅子。
前方の壇上には、大人たち。
先生の合図で、俺たちは一列になって歩き出す。
「前を見て、ゆっくり歩きましょう」
さて。
ここからが、俺の第二の人生の“正式スタート”だ。




