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〜転生した元勇者は世界一のVtuberを目指す〜  作者: ina
第1章 Vtuber準備編
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第24話 ここから俺は

涙あり笑いありの卒業式から、気づけばずいぶん時間が経っていた。


……いや、ほんとに。


結構。

だいぶ。

いろいろあった。





———春。


真新しい制服に袖を通した入学式の日。


クラス分けの紙を握りしめて立っていると、遠くから聞き慣れた声が響く。


「葵ちゃーん!! 教室どこー!?」


桜だ。


自分で確認しろと言いたい。


「二階の端!」


「どっちの端ー!?」


結局迎えに行く羽目になる。


入学早々これである。


けれど、不思議と悪い気はしなかった。




六月、体育祭。


クラス対抗リレーでアンカーの一つ前を任された桜が、バトンを持ちながら叫ぶ。


「葵ちゃーん!! 負けそー! やっちゃってー!!」


「え!?」


アンカーは俺が走ることになっていた。


目立つのはあまり好きじゃないため本来はやりたくなかったのだが、気がついたらアンカーにされていた。


もちろん犯人は桜。


仕方ない。これで負ければ桜は泣き顔を晒すことになるだろう。


少しだけ"ズル"をする。


結果、クラス対抗リレーでは1位を取る。




九月、文化祭。


教室の装飾準備中。


「葵ちゃーん!! ここに絵書いてー!!」


壁一面の背景画。


なぜか当然のように筆を渡される。


気づけば脚立の上で大作を仕上げている自分。

このために絵の練習をしていた訳では無いのだが。


完成するとクラス中から歓声が上がる。


その中心で、桜が誇らしげに言う。


「うちの葵だから!」


誰のだ。


思い返せば、桜に振り回されていただけかもしれない。


それでも。


必要とされるのは、悪くなかった。


「葵ならなんとかしてくれる」


その言葉は、くすぐったいけれど少し嬉しい。


そして――


楽しい日常は時の流れを早くする。


中学生になると、急に世界が変わる。


色恋に目覚めるやつが、爆発的に増えた。


放課後、下駄箱。

昼休み、屋上前。

帰り道の角。


「ちょっと話があるんだけど」


その台詞を、何度聞いたか分からない。


最初のうちは丁寧に対応していた。


けれど。


一週間に一回ペースで呼び出されると、さすがにうんざりする。


「また?」


思わず本音が漏れることもあった。


十数年、女として生きてきた。


でもそれ以前に、二十年以上、男として生きてきた記憶がある。


感覚も、思考も、その頃の俺が今の私に混ざっているのだ。


男が恋愛対象に入るはずがない。


どれだけ真剣な顔で想いをぶつけられても、答えは変わらない。


申し訳なさと、面倒くささ。


その両方が積み重なっていく。


「ごめん」


その言葉を、何度繰り返しただろう。


噂も広がる。


「また断られたらしい」

「鉄壁すぎる」

「理想高いんじゃね?」


なわけないだろ。


ただ、対象外なだけだ。


そして、

桜もまた、ものすごく告白されている。


校舎裏に呼ばれ、体育館倉庫に呼ばれ、帰り道に待ち伏せされ。


「桜のことが……」


という出だしを、何度も聞いているらしい。


「また?」


と聞けば、


「また!」


と元気よく返ってくる。


なぜそんなに明るい。


「どうしたの」


「全部断った!」


満面の笑み。


理由は聞かない。


でも、どこか似ている気がした。


放課後、並んで歩きながら桜が言う。


「なんでみんな急に恋愛モードになるんだろうね」


「さあ」


「葵ちゃんは好きな人いないの?」


「いない」


即答する。


桜はじっと顔を覗き込んでくる。


「ほんとに?」


「ほんと」


桜と二人で笑う。


話していると突然桜が、別の話題に変える。


「そんなことより、葵ちゃん!」


「うん?」


「明日!葵ちゃん!誕生日だね!」


「うん、そうだね」


「でも明日土曜日!」

「一番におめでとう言いたいのに!」


「じゃあ明日家くる?」


まぁ、別に桜は俺の親とも仲がいいため別に問題はない。


「え!?いいの!」


「いいよ」


「やった!じゃあ明日葵ちゃんの家で誕生日パーティだ!」


テンション爆上がりの桜。


「楽しそうだね」


「ふふん!もちろん!」


そう、明日は俺の十四歳の誕生日。

俺の人生が変わる日。


世界一のVtuberになると決めてからもう11年か...。


もちろん今まで準備を怠ったことはない。




そんな騒がしい日常の裏では——


もう一つの準備も、いよいよ最終段階へと差しかかっていた。


机に向かい、キーボードに指を置く。


画面には、動画配信アプリの新規アカウント作成のページ。


深呼吸をひとつ。


ついに。


世界一のVtuberになるための、最初の一歩を踏み出す。


名前は、もう決めてある。


前世での名前――

【アオイ・ヴァルクス】


それを少しだけ変える。


この世界用に、響きを調整し、意味を重ね。


【アオイ・ヴァルシア】


エンターキーを押す。


これが、この世界で戦っていく俺の名前だ。


ただのハンドルネームじゃない。


覚悟そのものだ。


アバターは、ずっと前から少しずつ描き続けていた。


放課後の隙間時間。

休日。

告白を断ったあとの微妙な気分転換。


コツコツ、コツコツ。


そして、ついに完成した。


画面に映るその姿は――


前世の自分が、そのまま女の子になったような姿。


銀髪の長髪。

光を受けると淡く輝く、少し幻想的な色合い。


そして、赤と青のオッドアイ。


片方は情熱的に燃える紅。

もう片方は静かに沈む蒼。


中二心をこれでもかとくすぐるビジュアル。


だが、それでいい。


どうせやるなら、徹底的にやる。


衣装もこだわった。


黒を基調にした衣装に、銀の装飾。

どこか異世界感を漂わせるデザイン。


「……悪くない」


いや、かなりいい。


自画自賛しても許される完成度だ。


配信方法も、他とは少し違う。


配信を始めるときは――


変身魔法を使う。


実際にその姿へと変わる。


銀髪が肩を流れ、瞳の色が切り替わる感覚。


体の輪郭が、アバターと完全に一致する。


そしてその状態で、次元移動魔法を発動。


“配信空間”へと、直接入る。


だから、動きも表情も、完璧に同期する。


遅延も違和感もない。


とはいえ、表向きは普通のVtuber。


サムネイルやアイコンは、自分で描いたイラストを使う。


構図も配色も、全部計算済み。


クリックしたくなるデザイン。


タイムラインに流れてきたとき、一瞬で目を引く絵。


モデリングも、自作。


レイヤー分け、可動域、パーツ制御。


細部まで妥協しない。


さらに、webカメラもきちんと用意している。


必要があれば、普通の2Dトラッキング配信も可能。


魔法に頼らずとも成立する体制。


アカウントのプロフィール欄を入力する。


種族:人間

好きなもの:ゲーム 歌 絵描き 戦闘

目標:世界一のVtuber


最後の一文を打ち込むと、指が止まる。


本気だ。


冗談でも、ネタでもない。


世界一になる。


それだけは、揺らがない。


次にSNSアカウントも同じように作る。

名前は アオイ・ヴァルシア@個人でいいだろう。

最初の配信でクオリティが高すぎて企業勢だと勘違いするやつも出るかもしれないしな。


アイコンはもちろん俺が書いた絵。

俺が書いた絵と言えどゆるキャラのような簡単な物。


本気の1枚絵は初配信の後に投稿する予定だ。


そして、最初に投稿する内容は。


はじめまして、良ければ伝説を見届けませんか?

初配信:〇月〇日 〇時〇〇分


まずはこれでいい単純なもので。


いままで築き上げたコネはまだ使わない。

最初自分の力でどれだけ行けるか見たいから。


動画配信アプリとSNS。


まだ両方登録者:0人。


静かなスタート地点。


でも。


ここから全部、積み上げていく。


銀髪の少女――

【アオイ・ヴァルシア】が、モニターの中で静かに微笑んでいる。


現実では、普通の中学生。


配信空間では、異界の存在。


二つの世界をまたぐ存在として。


葵は、そっと呟いた。






「――始めようか」






ここから(わたし)



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