第22話 親の協力
親に打ち明けてからというもの、驚くほど話は早かった。
あれほど緊張して切り出したのが嘘みたいに、物事はとんとん拍子に進んでいく。
「やるなら、ちゃんと環境を整えよう」
父のその一言で、夢は一気に“計画”へと姿を変えた。
揃えてくれたのは、配信に必要な機材一式。
高性能パソコン。
コンデンサーマイク。
そして、webカメラ。
段ボールを一つ開けるたびに、胸が高鳴る。
本当に始まるんだ。
その実感が、静かに、しかし確実に広がっていく。
高性能パソコンを新調したのには理由がある。
これまで使っていたのは、6年前に父が買ってくれたものだった。
当時としては十分すぎる性能だったが、今の配信環境を考えると少し心もとない。
「長く使ったしな」
そう言って、父は迷いなく決めてくれた。
申し訳なさもあった。
けれどそれ以上に、期待を託されたようで背筋が伸びる。
……もっとも。
あの古いパソコンでさえ、葵が“性能強化魔法”を施せば超高性能機へと変貌していた。
目に見えない術式を重ね、内部構造を最適化し、処理能力を限界まで引き上げる。
魔力の流れを整えれば、冷却効率すら向上する。
それだけで十分すぎるほどだった。
ならば――
最新の高性能パソコンにかけたら、どうなるのか。
想像するだけで、わずかに口元が緩む。
スパコンすら霞む性能になるだろう。
……楽しみになってきた。
webカメラも用意してもらった。
だが本来、葵の配信にそれは必須ではない。
次元移動魔法を使えば、俺が直接配信空間に入ることができる。
映像信号も音声入力も、本来なら必要ない。
モデリングだって、本質的には不要だった。
けれど、あれはコネクション作りに役立った。
人との繋がりを築くための、ひとつの手段。
モデリングを担当したVtuberは今のところ個人勢しかいないが企業勢にも劣らない2D技術と有名になっている。
上手くいっているようだ。
撒いた種は大きく育っている。
物理機材に頼らずとも配信は成立する。
それでも、今は使わなくても、いずれ必要になるかもしれない。
例えば――コラボ配信。
他の誰かと並んで画面に映るとき。
現実側でのやり取りが求められる可能性もある。
そのとき慌てないための準備。
そう思えば、無駄ではない。
机の上に整然と並ぶ新品の機材。
少しずつ完成していく配信環境。
両親の協力。
そして、自分の覚悟。
胸の奥に隠していた夢が、いま確かに形になり始めている。
葵はそっと、新しいパソコンに手を置いた。
「……ちゃんと、成功させるから」
小さな決意が、静かな部屋に落ちる。
現実と、魔法と、未来。
そのすべてが、ゆっくりと噛み合い始めていた。
指先に伝わる、新しい筐体のひんやりとした感触。
電源ボタンを押すと、静かな起動音が広がる。
モニターに映る初期設定画面。
まっさらな世界。
これからここに、自分の城を築いていく。
胸が、わずかに高鳴る。
数日後。
机の配置は見直され、簡易的だった防音対策も整えられていった。
父が情報を調べ、母が使い勝手を考え、三人で相談しながら少しずつ形にしていく。
「この位置なら反響しにくいらしい」
「カーテンは厚手のほうがいいかもね」
そんな会話が自然に交わされる。
もう一人の夢じゃない。
家族の計画になっていた。
母がふと思い出したように言う。
「だけど葵? 来週は卒業式でしょ?」
「学校の方もしっかりやりなさいよ」
「うん」
短く返事をする。
修学旅行が終わってからというもの、配信準備に夢中で時間の流れがやけに早い。
気づけば冬休みが来て、終わり――
そして、卒業式の日がすぐそこまで迫っていた。
———その夜。
自室に一人。
親がいないことを確認して、最新パソコンにそっと手をかざす。
目に見えない術式を、静かに編む。
性能強化魔法。
内部回路の流れを読み取り、無駄を削ぎ落とし、効率を最大化する。
熱処理を最適化。
演算処理を底上げ。
少しだけ"やりすぎる"程度で。
「……よしこんなもんだろ」
あとは——
「名前、どうするかな……」
Vtuberとしての自分。
本当の自分を出せる場所。
でも、現実の自分とは少し違う存在。
画面の向こうで生きる、もう一人の“私”。
キャラ設定。
世界観。
初配信の構成。
考えることは山ほどある。
不安も、もちろんある。
でも、それ以上に。
わくわくしている。
机の上の機材を見渡す。
高性能パソコン。
マイク。
webカメラ。
積み重なった努力。
そして、支えてくれる家族。
「絶対、後悔させない」
小さく呟く。
それは両親への言葉であり、自分自身への誓いでもあった。
俺にできることは全てやる。
———世界一のVtuberになるために。




